広報活動

Print

2018年2月23日

理化学研究所

理研クリック試薬の誕生

-生物学的製剤による医療診断に有効な標識・複合化試薬を開発-

有機合成化学の研究は日進月歩に進んでいます。新しい種類の有機反応や試薬が毎年どんどん作られ、公開されています。そんな反応や試薬をまとめたものに、米国ワイリー社刊の『有機合成用試薬百科事典(Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis、EROS)』があります。2009年3月に印刷版の第2版が出版されましたが、それ以降はオンラインデータベースとして定期的に更新され、古典的な試薬から新しい高付加価値試薬や触媒まで、広範な試薬が掲載されています。『EROS』は、有機化学のみならず無機化学、物理化学、分析化学、材料化学、化学工学、生化学、医薬品化学といった広範な分野で有用な資料となっています。

ところで、疾患を発見する方法の一つに、がんなどの標的細胞に発現する特定の分子に対して高い親和性を持つ「生物学的製剤」を用いる方法があります。生物学的製剤は化学的な合成ではなく生物によって作られる薬剤で、ペプチド、タンパク質、抗体、細胞がその代表です。それらに蛍光基や放射線放出核種などで標識したり、抗がん物質を結合させたりして診断に利用します。

理研の研究チームは2010年、独自に見出した「高速6π-アザ電子環状反応(理研クリック反応)」を利用し、共役アルデヒド構造を持つ「理研クリック試薬」を用いてペプチド、タンパク質、生細胞の表面に対して、それらの機能を損なうことなく蛍光基や放射線放出基で標識することに成功しました。また、標識したペプチドなどの動物生体内での動態を、蛍光イメージングや陽電子放出断層撮影法(PET)で追跡し、生物学的製剤に特有の排出過程や臓器選択的な集積を明らかにしました。さらに、同試薬を使って糖鎖などをタンパク質や生細胞表面に導入・複合化し、新しい機能を持つ人工生物学的製剤の開発にも成功しました。最後に、以上の成果をもとにタンパク質や細胞などの表面に対する標識、糖鎖などとの複合化を効率的にできる理研クリック試薬の開発に成功しました(図参照)。

そして、今回、上記の『EROS』に理研クリック試薬が選出・発表されることになりました。今後、理研クリック試薬が科学者、生物学者、医療現場の研究者に広く周知され、医療診断分野の発展に貢献すると期待できます。

理研クリック試薬を使ったアルブミンへの糖鎖導入と糖鎖構造による動態の制御

理研クリック試薬を使ったアルブミンへの糖鎖導入と糖鎖構造による動態の制御

理化学研究所
主任研究員研究室 田中生体機能合成化学研究室
主任研究員 田中 克典 (たなか かつのり)
特別研究員 藤木 勝将 (ふじき かつまさ)