広報活動

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2018年5月10日

理化学研究所

微小タンパク質結晶から迅速に構造決定

-タンパク質微小結晶のための自動データ処理プログラムの開発-

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター生命系放射光利用システム開発チームの山下恵太郎基礎科学特別研究員(研究当時)、平田邦生専任技師、山本雅貴チームリーダーらの研究チームは、大型放射光施設「SPring-8[1]」のマイクロビームX線[2]を用いて、大量の微小結晶から得られたデータを自動的に処理し、迅速な構造決定を可能にするプログラムを開発・公開しました。

本研究成果は、今後、大きな結晶の得られにくい創薬ターゲットとなる膜タンパク質[3]やその複合体などの迅速な構造決定に貢献し、その機能・機構の理解が進むと期待できます。

X線結晶構造解析[4]によるタンパク質の構造決定では、大きな結晶を作製するのが難しい場合には、数十~数百個の微小結晶を測定する必要があります。しかし、従来の手動によるデータ収集・解析は現実的ではありません。特にデータ処理は、大量のデータから適切な回折強度データを取捨選択する必要があるなどの課題がありました。今回、研究チームは、大量の結晶から大量の回折データを収集してもほぼ自動で、かつ迅速に構造解析に用いるデータを出力できるプログラム「KAMO」を開発しました。これにより、これまで解析が困難だった膜タンパク質の構造決定など多くの重要な研究成果が得られるようになりました。

本研究は、英国の科学雑誌『Acta Crystallographica Section D』(5月号)のオンライン版(4月24日付け:日本時間4月25日)に掲載されました。

BL32XU実験ハッチ 試料周囲の様子の写真

図 BL32XU実験ハッチ 試料周囲の様子

※研究支援

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」および日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 研究活動スタート支援「多数の微小結晶を用いた結晶構造解析手法および自動化システムの開発(研究代表者:山下恵太郎)」などの支援を受けて行われました。

背景

X線結晶構造解析は、タンパク質をはじめとする生体高分子の詳細な立体構造を高い分解能で決定できます。これまで、本手法を用いて数多くのタンパク質や核酸などの構造が決定されてきました。しかし、結晶化が難しい試料では、数~数十マイクロメートル(μm、1,000分の1mm)程度の微小結晶しか得られないことが多くあります。このような微小結晶から高い分解能の回折強度データを得るには、大型放射光施設「SPring-8」などの高輝度マイクロビームを用いた測定が有効です。

その一方で、微小結晶から高分解能の回折強度を測定するには大強度のX線を用いる必要があるため、放射線損傷[5]が激しくなりがちです。そこで、大量の結晶を用いることで、個々の結晶の損傷を抑えてデータを集めることが可能になります。また、多くの結晶を使うほどデータ精度が向上するため、通常は数十~数百個の微小結晶を用います。しかし、従来の手動によるデータ収集・解析では大きな手間と時間がかかるため、あまり実施されてきませんでした。特にデータ処理は、これまでの単一ないし数個の結晶からデータを収集した場合と異なり、大量のデータから適切な回折強度データを取捨選択する必要があるなどの課題がありました。

そこで研究チームは、SPring-8の高輝度マイクロビームを活用し、複数の微小結晶から迅速にデータを集め、かつ迅速に構造解析するシステムの開発を進めてきました。

研究手法と成果

結晶回折実験では通常、結晶を少しずつ回転させながら回折強度写真を収集し、一つの回転軸周りでは一般に180°程度分のデータを集めれば構造解析が行なえます。大量の微小結晶を用いる実験手法では、結晶1個あたり5~10°程度の回折強度データのみを収集します。そして、この回折データが数十~数百個の結晶から集められます(図1)。研究チームは、大量の微小結晶から得られた回折写真を自動的に処理し、迅速な構造決定を可能にするプログラム「KAMO」を開発・公開しました。

KAMOの仕組みを図2に示します。まず、それぞれの結晶から収集した回折写真から回折強度データを抽出し、同一の結晶格子に由来するものをまとめます。次に、格子定数の類似性や回折強度の相関などから、同一の結晶構造に由来すると期待されるもの同士を分類(クラスタリング)し、最後に各クラスタにわずかに含まれる異常値を除きつつ、データを結合・平均化する計算を行います。KAMOは、既存のプログラム(CCP4やXDS)パッケージを適切な順序とパラメータで実行し、これらをほぼ自動で処理します。これにより、大量の回折強度データを収集する際の利用者の負担は大幅に軽減され、かつデータ精度が向上します。

SPring-8のビームライン「BL32XU」の高輝度マイクロビームとKAMOを活用して、これまでに多くの構造決定が成功しています。
具体的には、多孔性結晶材料として注目される多角体タンパク質注1)、脂質分子LPAを受容する膜受容体LPA6注2)、肺動脈性肺高血圧症の治療薬ボセンタンが結合したヒト由来エンドセリン受容体B型注3)、光合成によって作られる有機分子トリオースリン酸の輸送体であるTPT注4)、生体異物の排出を担う膜輸送体MATE注5)、ロイコトリエンB4受容体BLT1注6)が挙げられます。

注1) 2017年2月9日SPring-8プレスリリース「タンパク質用いて細胞内分子フィルターを開発
注2) 2017年8月10日SPring-8プレスリリース「脂質分子LPAを受容する膜受容体の構造を解明
注3) 2017年8月15日東京大学プレスリリース「肺動脈性肺高血圧症の治療薬ボセンタンの作用機構を解明
注4) 2017年10月3日SPring-8プレスリリース「葉緑体から光合成産物を運び出すメカニズムを解明
注5) 2017年11月21日東京大学プレスリリース「生体異物の排出をになう膜輸送体の構造を解明
注6) 2018年1月9日プレスリリース「ロイコトリエンB4受容体の構造

今後の期待

近年、膜タンパク質や不安定な複合体など、構造解析ターゲットの難易度はますます上昇し、今まで以上に大きな結晶が得られないケースが増えています。今回開発したプログラムによって、大量の微小結晶から大量の回折データを収集してもほぼ自動で、かつ迅速に構造解析できるようになりました。本手法により、創薬ターゲットを含む生体機能に重要な膜タンパク質やその複合体の構造が解明され、その反応機構の理解が進むことが期待できます。

原論文情報

  • Keitaro Yamashita, Kunio Hirata, Masaki Yamamoto, "KAMO: toward automated data processing for microcrystals", Acta Crystallographica Section D, 10.1107/S2059798318004576

発表者

理化学研究所
放射光科学研究センター 利用システム開発研究部門 生物系ビームライン基盤グループ 生命系放射光利用システム開発チーム
基礎科学特別研究員(研究当時) 山下 恵太郎 (やました けいたろう)
(現 生命系放射光利用システム開発チーム 客員研究員)
専任技師 平田 邦生(ひらた くにお)
チームリーダー 山本 雅貴(やまもと まさき)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. 大型放射光施設「SPring-8」
    理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する細くて強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。
  2. マイクロビームX線
    各辺1~数μm程度に集光された微小X線ビーム。X線回折実験では、試料周囲の物質に由来する散乱バックグラウンドを抑えるため、試料サイズ以下のX線ビームを用いることが重要である。マイクロビームX線が利用できるようになったことで、μmサイズの結晶からのデータ収集が現実的になった。
  3. 膜タンパク質
    細胞膜を構成しているタンパク質で、全ゲノムがコードするタンパク質の3分の1を占める。細胞膜の表面にあるタンパク質と内部に埋もれたタンパク質がある。細胞外のシグナルを捕える受容体、細胞膜を介して物質の出入を担うチャネルやポンプ、細胞同士の結合に関わる接着分子など、生命活動に重要な役割を果たす。疾病に関連しているものも多く創薬の重要なターゲットとされるが、結晶化が難しく構造解析が最も進んでいない。
  4. X線結晶構造解析
    対象とする分子などの結晶を作製し、その結晶にX線を照射して得られる回折データを解析することにより、物質内部の原子の立体的な配置を調べる方法。この方法によって、タンパク質などの複雑な分子の立体構造を詳細に知ることができる。
  5. 放射線損傷
    X線の持つエネルギーによって、X線と相互作用した分子が壊れること。X線との相互作用で分子が壊れる場合だけでなく、分子が壊れる過程で生じる電子や、壊れた分子から生成する反応性の高い分子が観察対象の分子と化学反応する場合もある。一般的にタンパク質結晶の放射線損傷は、X線と水の相互作用をきっかけに、X線照射後ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)の時間スケールで、水から生成する反応性の高い分子がタンパク質と化学反応することで起きる。

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複数微小結晶を用いたデータ収集の流れの図

図1 複数微小結晶を用いたデータ収集の流れ

大量の結晶が収められたクライオループを用意し、本手法で測定する。各ループは回折計に備え付けられた顕微鏡によって位置合わせされ、X線を用いた2次元スキャンによって結晶位置を探索する。放射線損傷を考慮したX線露光条件を決定した後、10°程度の回折写真シリーズを収集する。この繰り返しによって大量の回折強度データが収集され、KAMOによる処理を経て、構造解析される。

KAMOを用いたデータ処理の流れの図

図2 KAMOを用いたデータ処理の流れ

はじめに各結晶に由来する回折強度データの処理を行い、同一の結晶構造に由来すると期待されるもの同士の分類(クラスタリング)、各クラスタに含まれる異常値の除去を経てデータ結合・平均化の計算までをほぼ自動で行う。

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