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2018年8月8日

理化学研究所

スチレン類の二官能基化型ペルフルオロアルキル化反応

-低コストで簡便に、高付加価値化合物の供給に貢献-

理化学研究所(理研)開拓研究本部袖岡有機合成化学研究室のヴァルヴェルデ・エレナ訪問研究員(研究当時)、河村伸太郎研究員(環境資源科学研究センター触媒・融合研究グループ)、関根大介特別研究員、袖岡幹子主任研究員(環境資源科学研究センター触媒・融合研究グループグループディレクター)らの研究チームは、ジアシルペルオキシド[1]スチレン類[2]との特徴的な反応性に注目し、メタルフリー条件[3]における「二官能基化[4]型のペルフルオロアルキル化反応」の開発に成功しました。 本研究成果は、今後、低コストで簡便に、付加価値の高い有機化合物を供給することに貢献すると期待できます。

ペルフルオロアルキル基[5]は、有機化合物に導入されると脂溶性や代謝安定性を向上させることがあります。このような性質は、医薬、農薬開発において薬理動態を改善するための有力な手段となることから、ペルフルオロアルキル化合物[5]の実用的かつ効率的な合成手法が求められています。今回、研究チームは、安価で入手容易なペルフルオロ酸無水物[6]から調製したペルフルオロジアシルペルオキシド[1]とスチレン類との二官能基化を伴う「オキシおよびアミノペルフルオロアルキル化反応」の開発に成功しました。通常、同様の反応は、遷移金属触媒によって反応性や選択性を制御する必要がありました。本研究では、ペルフルオロジアシルペルオキシドの強い酸化力[7]を生かすことで、メタルフリー条件において効率よく目的生成物を得ることが可能になりました。また、得られた化合物は誘導化が容易であり、さまざまな骨格を持つ有機分子の合成に有用です。

本研究は、英国の科学雑誌『Chemical Science』オンライン版(8月1日付け)に掲載されました。

※研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 若手研究B「新規キラル有機ヨウ素触媒を用いるトリフルオロメチル化反応の開発(研究代表者:河村伸太郎)」による支援を受けて行われました。

背景

ペルフルオロアルキル基は、フッ素の高い電気陰性度(原子核が電子を引き寄せる強さ)に起因する性質から、有機化合物の疎水性や化学安定性を向上させることがあります。このような性質は、医薬や農薬の開発において、吸収、分布、代謝、排泄といった薬理動態を改善することにつながります。少量で高い効能を示す薬剤を開発できる可能性があることから、ペルフルオロアルキル基を有機分子に簡便に導入できる実用的な反応が求められています。

近年、研究チームを含む国内外の多くの研究室によって、アルケン[2]の二重結合に対し、ペルフルオロアルキル基ともう一つの官能基を一挙に導入する「二官能基化型のペルフルオロアルキル化反応」の開発が盛んに行われています(図1)。なかでも、アルケンとしてスチレン類を用いた同反応は、原料の入手容易さと生成物のビルディングブロック[8]としての有用さから、重要な有機合成手法の一つと考えられます。しかし、従来法の多くでは、高コストなペルフルオロアルキル化試薬や遷移金属触媒を添加する必要がありました。

研究手法と成果

今回、研究チームは、安価で入手容易なペルフルオロ酸無水物をペルフルオロアルキル源とする、スチレン類の二官能基化型ペルフルオロアルキル化反応を開発しました(図2)。

具体的には、ペルフルオロ酸無水物と尿素過酸化水素[9]からペルフルオロジアシルペルオキシドを系中で調整し、スチレン類と反応させました。その結果、スチレンに対しペルフルオロアルキル基とペルフルオロアシロキシ基の導入を伴うオキシペルフルオロアルキル化反応が効率よく進行することを見いだしました(図2(a)上図)。さらに、得られたオキシペルフルオロアルキル化生成物のペルフルオロアシロキシ基は高い脱離能を持ちます。このため、誘導化によってより複雑な骨格を持つさまざまな分子に変換することが可能です(図2(a)下図)。

また、スチレンの側鎖にアミノ基を持つスチレン誘導体を用いた場合には、分子内での炭素-窒素(C-N)結合形成を伴うアミノペルフルオロアルキル化反応が進行し、ピロリジン[10]環を持つペルフルオロアルキル化合物を合成することに成功しました(図2(b))。

通常、今回開発した様式の二官能基化型ペルフルオロアルキル化反応は、遷移金属触媒の添加を必要とします。しかし、本研究においては、ペルフルオロジアシルペルオキシドがまるで遷移金属触媒を用いた場合と同じような反応を誘起することが分かりました。これは、ペルフルオロジアシルペルオキシドが強い酸化力を持つため、スチレン類から電子を取り去ることに起因し(図3)、反応途中に炭素上に正電荷を持つカルボカチオン中間体を形成できるためであることが反応機構の検証によって明らかにされました。

今後の期待

本研究では、遷移金属触媒を必要とせず安価で入手容易な原料から、簡便な実験操作によって付加価値の高いペルフルオロアルキル化合物を合成することが可能であることを明らかにしました。一般的に、ビルディングブロックとして用いられる化合物は、最終生成物である複雑分子を合成する過程において、初期段階で大量に調製する必要があります。このため、低コストで簡便に大量の化合物を供給できる本手法は合成的に有用といえます。

また、生成物は誘導化に対して汎用性があることから、新しい生理活性物質や機能性分子の探索に役立つことが期待できます。さらに、反応機構に関する知見は、今後、新しい反応および触媒を開発する際に基盤の原理になると考えられます。

原論文情報

  • Elena Valverde, Shintaro Kawamura, Daisuke Sekine, Mikiko Sodeoka, "Metal-free alkene oxy- and amino-perfluoroalkylation via carbocation formation by using perfluoro acid anhydrides: unique reactivity between styrenes and perfluoro diacyl peroxides", Chemical Science, 10.1039/c8sc02547a

発表者

理化学研究所
主任研究員研究室 袖岡有機合成化学研究室
訪問研究員(研究当時) エレナ・ヴァルヴェルデ(Elena Valverde)
研究員 河村 伸太郎(かわむら しんたろう)
環境資源科学研究センター 触媒・融合研究グループ 研究員)
特別研究員 関根 大介(せきね だいすけ)
主任研究員 袖岡 幹子(そでおか みきこ)
環境資源科学研究センター 触媒・融合研究グループ グループディレクター)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. ジアシルペルオキシド、ペルフルオロジアシルペルオキシド
    O-O結合を持つ化合物をペルオキシド(過酸化物)と呼び、一般式ではR-O-O-Rで示される。ジアシルペルオキシドはRがアシル基(R’-CO-)のものを呼び、特にR’がペルフルオロアルキル基であるものをペルフルオロジアシルペルオキシド(過酸化ペルフルオロアルカノイル)と呼ぶ。
  2. スチレン類、アルケン
    C=C二重結合を持つ炭化水素化合物の総称をアルケンという。特に、C6H5CH=CH2で示される骨格を持つ分子をスチレンと呼び、ここではスチレンの水素が他の官能基で置き換わったものをスチレン類と呼んだ。
  3. メタルフリー条件
    現代の有機合成反応において、遷移金属触媒は多様な骨格変換を可能にするため必要不可欠である。これに対し、遷移金属を用いない反応のことをメタルフリー反応、また、その反応条件のことをメタルフリー条件と呼ぶ。
  4. 二官能基化
    アルケンの二重結合に対して一挙に2種類の官能基を導入する反応。本研究では、ペルフルオロアルキル基と酸素官能基(RfCO2-)を導入する反応をオキシペルフルオロアルキル化、窒素官能基(-NTs)を導入する反応をアミノペルフルオロアルキル化と呼んだ。
  5. ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルキル化合物
    CnH2n+1からなるアルキル基の水素(H)が全てフッ素(F)に置き換わったものをペルフルオロアルキル基(CnF2n+1-)、これを分子内に持つ化合物をペルフルオロアルキル化合物と呼ぶ。
  6. ペルフルオロ酸無水物
    ペルフルオロアルキル基を持つカルボン酸が脱水縮合して形成したもの。特に、本研究で用いたトリフルオロ酢酸無水物は、工業的に大量生産されており非常に安価で手に入りやすい。
  7. 酸化力
    ここでは電子を受容する反応を酸化、供与する反応を還元と呼ぶ。「酸化力が強い」とは、相手の分子から電子を取り去る力が強いことを意味する。
  8. ビルディングブロック
    医薬や農薬の多くは複雑な化学構造をした有機化合物であり、通常はプラモデルや積み木のように複数の部品を組み立てて目的の分子をつくる必要がある。このとき部品に相当する小さく化学変換しやすい分子をビルディングブロックと呼ぶ。
  9. 尿素過酸化水素
    尿素と過酸化水素が付加した化合物。安定な固体であり、工業的に広く用いられている。
  10. ピロリジン
    分子式C4H9Nで示される環上に窒素元素を持つ5員環脂肪族アミンの名称。

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二官能基化型のペルフルオロアルキル化反応の図

図1 二官能基化型のペルフルオロアルキル化反応

アルケンの二重結合に対し、ペルフルオロアルキル基と求核性官能基の二つを一挙に付加する。求核性官能基は、電子密度の低い炭素原子に反応して結合を形成する性質を持つ。

新たに開発したスチレン類の二官能基化型のペルフルオロアルキル化反応の図

図2 新たに開発したスチレン類の二官能基化型のペルフルオロアルキル化反応

(a)上図:ペルフルオロ酸無水物と尿素過酸化水素からペルフルオロジアシルペルオキシドを系中で調整し、スチレン類と反応させる。その結果、スチレンに対しペルフルオロアルキル基(緑)とペルフルオロアシロキシ基(茶)が導入される「オキシペルフルオロアルキル化反応」が効率よく進む。
下図:得られたオキシペルフルオロアルキル化生成物(四角の中)は、誘導化によってより複雑な骨格を持つさまざまな分子に変換可能である。
(b):スチレンの側鎖にアミノ基を持つスチレン誘導体を用いた場合には、分子内でのC-N結合形成を伴う「アミノペルフルオロアルキル化反応」が進行し、ピロリジン環を持つペルフルオロアルキル化合物が合成される。この際、炭素上に正電荷を持つカルボカチオン中間体を経由する。

スチレンからペルフルオロジアシルペルオキシドへの電子移動の図

図3 スチレンからペルフルオロジアシルペルオキシドへの電子移動

ペルフルオロジアシルペルオキシドは酸化力(電子を受け取る力)が強いため、スチレン類から電子を取り去る。この反応を鍵として二官能基化型のペルフルオロアルキル化反応が開発された。

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