広報活動

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2018年9月27日

理化学研究所
東京大学

太陽電池駆動の皮膚貼付け型心電計測デバイスを開発

-長期間連続動作するウェアラブルセンサーへ期待-

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発ソフトシステム研究チームの福田憲二郎専任研究員、染谷隆夫チームリーダー(東京大学大学院工学系研究科教授)、創発機能高分子研究チームの伹馬敬介チームリーダーらの共同研究グループは、「超薄型有機太陽電池[1]」で駆動し、心電波形を計測する「皮膚貼付け型心電計測デバイス」の開発に成功しました。

本研究成果は、生体情報の常時モニタリングなど、次世代の自立駆動型センサーデバイスの実現につながると期待できます。

今回、共同研究グループは、フレキシブルな超薄型有機太陽電池の開発に取り組みました。その結果、作製した太陽電池のエネルギー変換効率(太陽光エネルギーを電力に変換する効率)は10.5%に達し、これまでのフレキシブル有機太陽電池の世界最高効率を更新しました。また同時に、光入射角度依存性[2]を低減することにも成功しました。これらは、「ナノグレーティング構造[3]」を超薄型太陽電池上に形成する技術を確立したことによるものです。次に、この太陽電池を同グループで開発している皮膚貼付け型センサーと集積化することで、心電計測デバイスを外部電源なしに駆動させ、精度良く信号を取得することに成功しました。これによって、電力の消費や人体への装着時の負荷を気にせずに、連続的に生体情報を取得するための要素技術が実現しました。

本研究は、英国の科学雑誌『Nature』(9月27日号)に掲載されます。

太陽電池駆動の皮膚貼付け型心電計測デバイスを指に貼りつけた様子の図

図 太陽電池駆動の皮膚貼付け型心電計測デバイスを指に貼りつけた様子

※共同研究グループ

理化学研究所 創発物性科学研究センター
創発ソフトシステム研究チーム
専任研究員 福田 憲二郎(ふくだ けんじろう)
(開拓研究本部 染谷薄膜素子研究室 専任研究員)
チームリーダー 染谷 隆夫(そめや たかお)
(開拓研究本部 染谷薄膜素子研究室 主任研究員、東京大学大学院工学系研究科教授)
特別研究員(研究当時) ソンジュン・パク(Sungjun Park)
特別研究員 ギルホ・ユ(Kilho Yu)
大学院生リサーチ・アソシエイト ジ・ジャン(Zhi Jiang)
(東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 博士課程2年)
研修生 甚野 裕明(じんの ひろあき)
(東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 博士課程3年)
創発機能高分子研究チーム
チームリーダー 伹馬 敬介(たじま けいすけ)
特別研究員 スウォン・ホ(Soo Won Heo)
物質評価支援ユニット
ユニットリーダー 橋爪 大輔(はしづめ だいすけ)
技師 井ノ上 大嗣(いのうえ だいし)

東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻
准教授 関野 正樹(せきの まさき)
講師 横田 知之(よこた ともゆき)
博士課程学生(研究当時) ウォンリョン・リ(Wonryung Lee)

背景

伸縮性のある薄型有機太陽電池は、ウェアラブルなセンサーを長時間安定に駆動する電源としての応用が期待されることから、近年、皮膚や布地に密着させて、より高精度な生体信号を計測する次世代センサー用の電源として注目を集めています。「皮膚貼りつけ可能なセンサー」がバッテリー交換などの電源の問題から開放され、長時間安定的に生体情報をモニタし続けることができれば、健康管理を常時行う「もののインターネット(IoT)社会」における生体センシングが実現可能になります。

福田憲二郎専任研究員らはこれまでに、超薄型かつ高いエネルギー変換効率と耐水性、大気安定性、耐熱性を持つ「超薄型の有機太陽電池」を報告してきました注1,2)。しかし、皮膚に貼りつけが可能なほどの超薄型電源とセンサーとが集積化されたデバイスは、これまでに報告されていませんでした。その理由は、衣服や皮膚などの変形や光の入射角度変化の下では、太陽電池の出力が不安定になることにありました。そこで、共同研究グループは、この問題を解決できる太陽電池とセンサーの開発を試みました。

注1)2017年9月19日プレスリリース「洗濯可能な超薄型有機太陽電池
注2)2018年4月17日プレスリリース「耐熱性・高効率・超薄型有機太陽電池

研究手法と成果

共同研究グループはまず、フレキシブルな超薄型有機太陽電池の開発に取り組みました。その結果、作製した太陽電池のエネルギー変換効率(太陽光エネルギーを電力に変換する効率)は、これまでのフレキシブル有機太陽電池の世界最高効率(10.0%)注2)を更新し、10.5%を達成しました。また同時に、課題だった光入射角度依存性を低減することにも成功しました。

成功のポイントは、ナノスケールの規則正しい線状の凹凸パターンである、「ナノグレーティング構造」を超薄型基板上に形成する技術を確立したことです。厚み1マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)の超薄型基板上の太陽電池の「電子注入層と半導体ポリマー層の両方に」高さ数10ナノメートル(nm、10億分の1メートル)、周期約700nmのナノパターンを形成しました(図1)。この周期的なナノグレーティング構造が、光の屈折率を調整して太陽電池表面での光の反射を低減させ、同時に薄膜内部での光散乱の増強と金属電極での表面プラズモン共鳴効果[4]を起こすことで、より効率的に入射光を発電に利用することが可能になりました。その結果、エネルギー変換効率の大幅な向上と、環境光発電に有利となる光の入射角度に対する効率変化の抑制につながりました。

次に、この超薄型有機太陽電池を、共同研究グループで開発を進めている有機電気化学トランジスタ[5]を利用した皮膚貼付け型の超薄型センサーと集積化することで、心電波形を計測する「皮膚貼付け型心電計測デバイス」を作製しました。これを人体の皮膚に貼り付けたところ、外部電源なしに心電計測デバイスが駆動し、信号対雑音比(S/N比)[6]25.9デシベル(dB)という高い精度での信号取得に成功しました(図2)。

今後の期待

本研究により、電力の消費や人体への負荷を気にせずに、連続的に生体情報を取得するための要素技術が実現しました。

今回開発した超薄型有機太陽電池で駆動する皮膚貼付け型心電計測デバイスを発展させることで、無意識的に心電や心拍、他の生体情報を取得するセンサーデバイスを実現できます。今後は、取得した生体情報を処理する回路や無線伝送システムと統合することにより、次世代の自立駆動型センサーシステムの基盤技術を提供するものと期待できます。

原論文情報

  • Sungjun Park, Soo Won Heo, Wonryung Lee, Daishi Inoue, Zhi Jiang, Kilho Yu, Hiroaki Jinno, Daisuke Hashizume, Masaki Sekino, Kenjiro Fukuda*, Keisuke Tajima*, and Takao Someya*, "Self-powered ultra-flexible electronics via nano-grating-patterned organic photovoltaics", Nature, 10.1038/s41586-018-0536-x
    †These authors equally contributed to this manuscript.
    *Corresponding authors

発表者

理化学研究所
創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チーム
専任研究員 福田 憲二郎(ふくだ けんじろう)
(開拓研究本部 染谷薄膜素子研究室 専任研究員)
チームリーダー 染谷 隆夫(そめや たかお)
(開拓研究本部 染谷薄膜素子研究室 主任研究員、東京大学大学院工学系研究科教授)

創発物性科学研究センター 創発機能高分子研究チーム
チームリーダー 伹馬 敬介(たじま けいすけ)

福田 憲二郎専任研究員の写真

福田 憲二郎

染谷 隆夫チームリーダーの写真

染谷 隆夫

伹馬 敬介チームリーダーの写真

伹馬 敬介

報道担当

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Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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E-mail:kouhou[at]pr.t.u-tokyo.ac.jp

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補足説明

  1. 有機太陽電池
    有機半導体を光電変換層として用いた太陽電池のこと。塗布プロセスによる大量生産が適用できると同時に、安価かつ軽量で柔らかいことから、次世代の太陽電池として注目を集めている。
  2. 光入射角度依存性
    一般に光の入射角度が大きいほど(斜めに光がはいるほど)、表面での光の反射は大きくなり、太陽電池の発電効率は低下する。この依存性を下げることで、さまざまな方向からくる光を効率的に発電に利用できるため、環境光を発電に使う場合に特に重要になる。
  3. ナノグレーティング構造
    数十~数百ナノメートルの周期を持つ規則正しい線状の凹凸パターンであり、可視光と相互作用することでDVDディスクの表面にみられるような特徴的な構造色を示す。
  4. 表面プラズモン共鳴効果
    光の照射によって、金属表面の電子が集団で励起される現象。表面近傍での光の電場が増強されるため、薄膜太陽電池の光吸収を増大させる応用への研究が行われている。
  5. 有機電気化学トランジスタ
    電気を流すことのできる半導体ポリマーを用いて、微小な電気信号を検出できるセンサー。通常の有機トランジスタと異なり、半導体ポリマーは絶縁膜ではなく、電解液と接している。電解液中のイオンの動きを利用して信号を検出する。電解液は液体だけでなく、ゲル状や固体状のものも使用することができる。
  6. 信号対雑音比(S/N比)
    一般的には、測定時のシグナル(信号)とノイズ(雑音)の比率を示す。信号雑音比が大きいほど、精度の高い測定データが得られる。

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ナノグレーティング構造を持つ超薄型有機太陽電池の構造の図

図1 ナノグレーティング構造を持つ超薄型有機太陽電池の構造

(a) 超薄型有機太陽電池の模式図。いちばん下の超薄型基板の上に、透明電極、電子輸送層、半導体ポリマー層(光電変換層)、正孔注入層、上部電極を重ねた構造をしている。
(b) 断面を撮影した走査電子顕微鏡(SEM)画像。有機太陽電池が約700nmの微細周期構造になっていることが分かる。
(c) 断面の透過電子顕微鏡(TEM)画像。電子輸送層および半導体ポリマー層に、数nm~数10nmの厚みのパターンが形成されている様子が分かる。

太陽電池駆動の皮膚貼付け型心電計測デバイスを用いた心電の測定結果の図

図2 太陽電池駆動の皮膚貼付け型心電計測デバイスを用いた心電の測定結果

周期的な心臓の電流変化がはっきりと捉えられたことが分かる。

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