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2009年3月23日

理化学研究所

科学と芸術の交差で新しい表現の創出を目指す

- 理化学研究所と東京藝術大学が、3月24日基本協定を締結 -

ポイント

  • 音楽と言語に共通する認知構造解明といった共同研究、人材育成などを実施
  • 科学的手法と芸術的感性の結びついた新しい表現の創造へ
  • 8月までに、科学と芸術が交差するシンポジウムを開催

概要

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人東京藝術大学(宮田亮平学長)は、連携・協力の推進に関する基本協定書を、2009年3月24日に理研の東京連絡事務所で締結します。この協定は、科学と芸術という全く異なる分野がお互いの違いを知ることで、こころや意識を含む森羅万象にこれまでにない見方で迫り、それぞれの表現を深めることを目的としています。

理研では、野依理事長の経営方針に掲げる「文化に貢献する理研」の実現のために、施設整備への助言など研究環境の整備に藝大の教員の協力を仰いできました。また、藝大ではアクションプランに掲げる「世にときめきをもたらす藝大」の実現のため、芸術の分野に留まらず、藝大の教員が作る研究会と理研の脳科学総合研究センターが中心となって交流会を開催し、共同研究の可能性を模索してきました。

今回の連携では、音楽と言語に共通する認知構造、バーチャルリアリティーによる認知の変化、主観と環境の相互作用により創造性が生まれるか、人間の認知能力を超えた表現の創造可能性、新しい材料での表現創出などをテーマに、共同研究を展開していきます。

基本協定の締結で、総合的に科学と芸術を極めている両機関が、幅広い分野において組織をあげて連携協力を行い、研究・人材育成・共同制作などを進めていくことになります。この活動により、人類社会に希望と心の豊かさをもたらすことを期待しています。

共に掲げる理念

いにしえの人類は、自らの限られた命を超え、次の世代に文化を伝える術を獲得した。大いなる自然を前にして内面に湧き上がる畏怖や感動は、自然の秘密を解き明かしたいという好奇心を生み、これを仲間と分かち合うための表現を育てた。科学と芸術は同一の起源を持ち、ともに文化を発展させてきたが、いつの頃からか、それぞれに独立した世界を歩んでいる。

科学は、自然の振る舞いを物質面から理解し、人類の多くの苦難を克服することで豊かさの礎となったが、現代社会は多くの問題に直面している。科学はこれからも人類に豊かさをもたらすのであろうか。芸術は、人間の本質を求め、普遍的な美に迫り、人々の心を豊かにしてきた。しかしその豊かさは、現代社会の共感を得ているのであろうか。

科学者と芸術家は共に表現者であり、自然への畏怖や自然の本質に触れた感動を伝えずにはいられない。今こそ、芸術と科学の交差によって、それぞれの表現を深める時代がやってきた。互いの方法の違いを知れば、それぞれに新しい地平を見るであろう。そして若者たちは、その先に新しい世界を拓くであろう。

東京藝術大学と理化学研究所は、お互いの知性、感性を交差させることによって森羅万象とそれを見つめる人の心を理解するとともに、科学的手法と芸術的感性の結びついた新しい表現を創造し、社会に心の豊かさと未来への夢をもたらす。

連携協力の内容

(1)共同研究、共同制作の例

音楽と言語に共通する認知構造
音楽と言語に共通する認知構造の図
言語は文法を持ち、また音素が集まり単語となり、それらが集まり、句、さらには文章となるような階層構造を持っています。音楽も同様に独自の文法や階層構造(音、フレーズ、メロディー、楽節など)を持っていますが、言語との関係は多くの点において不明です。音楽と言語の構造認知の脳計測を含めた比較分析を通して言語の成り立ちの解明と新しい芸術理論の展開が期待されます。
バーチャルリアリティーによる認知の変化
バーチャルリアリティーによる認知の変化の図
人間は、道具を使用すると自らにその道具が一体化する身体イメージを持っています。バーチャルリアリティー技術を用いて、実際に人間の身体イメージがどこまで拡張するのかを解明していきます。また、身体イメージのずれを新しい芸術表現に発展させていきます。
主観と環境の相互作用により創造性が生まれるか
生物が、自己と環境の相互作用、バランスの中で適応的に存在しているように、演奏もまた自己の表現と聴衆の反応との相互作用におけるバランスによって、より高い芸術性を発揮します。加えて、楽器の演奏においては、自らイメージするだけではなく、そのイメージが実際の音となって響いているかどうかの確認が欠かせません。演奏とは、表現すると同時に客観的に受容するという二重の構造を持っています。これらのプロセスを明らかにするとともに、音楽の指導法への展開を探ります。
人間の認知能力を超えた表現の創造可能性
科学では、光や化学物質を用いて顕微鏡などを駆使して、物質の極微世界を探っていきます。芸術では、ある波長の光を用いて古い美術作品の修復を行っていますが、一般的には人間の五感に頼っています。芸術に科学の計測技術を導入し、これまでにない表現を求めていきます。
新しい材料での表現創出
新しい材料での表現創出の図
科学では、蛍光タンパク質やナノ材料など、日夜新しい物質の開発が行われています。これらの物質を芸術作品に活用することで、これまでにない表現を目指します。

(2)人材育成

音楽演奏においては身体的な訓練により聴覚と運動感覚などの統合をはかりながら、個人の創造性を追及します。また、レオナルド・ダ・ビンチやオーギュスト・ロダンが人体の解剖や観察によって得た知識を絵画や彫刻に反映させたように、芸術家の身体や感覚に関する興味はやむことがありません。現代においては、視覚や聴覚に留まらず、身体が備えている全ての感覚とその内に潜む仕組みが解明されつつあります。まさに、それは芸術が長く模索してきた内なる存在の統合と新たな表現の可能性を開くものです。

今回の協定は、芸術家と科学者が協力して身体感覚を明らかにしたり、科学が生み出す新しい素材を芸術創造活動や芸術理論に発展させたりすることができるような人材を育てることを目指すものです。具体的には、藝大において理研の研究者が講義を行うとともに、理研に学生を受け入れ、自然科学の指導を行います。

今後の予定

8月までに、この連携を記念する共同シンポジウムの開催を計画しています。一般を対象とし、科学と芸術の交差の可能性を示します。
また今後、藝大において理研の研究者の講義を継続的に行うとともに、随時、共同研究の成果を公表していきます。

理研と東京藝術大学との協定署名式開催について

日時:2009年3月24日(火)9:20~10:00
場所:理化学研究所 東京連絡事務所
式次第概要(予定):
9:20~9:30 連携協力協定の概要説明
9:30~9:40 協定書の確認と調印(サイン)
9:40~9:50 ご挨拶
東京藝術大学 学長  宮田亮平
理化学研究所 理事長 野依良治
9:50~10:00 質疑応答

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所
総務部グローバルリレーション推進室
Tel: 048-467-9260 / Fax: 048-462-4713

国立大学法人東京藝術大学
社会連携推進課
Tel: 050-5525-2034 / Fax: 050-5525-2485

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

国立大学法人東京藝術大学
総務課 企画評価・広報室 広報係
Tel: 050-5525-2026 / Fax: 050-5525-2479

参考

理化学研究所
物理学、化学、医学、生物学、工学などの広範な科学・技術分野において、基礎から応用に至る研究を実施する日本で唯一の自然科学の総合研究所。1917年に民間研究財団として東京で設立されたが、特殊法人を経て、2003年に独立行政法人となった。
東京藝術大学
東京美術学校と東京音楽学校を包括して1949年5月に設置された、芸術を専門とする唯一の国立大学。美術学部、音楽学部の2学部14学科、大学院美術研究科、音楽研究科、映像研究科の3研究科に加えて、音楽学部附属音楽高等学校、附属図書館、大学美術館、演奏芸術センター等で構成されている。上野、取手、横浜、千住にキャンパスを持つ。
調印式の様子の写真

調印式の様子

野依良治 理研理事長、宮田亮平 東京藝術大学学長の写真

(左)野依良治 理研理事長、(右)宮田亮平 東京藝術大学学長

宮田学長の写真 毛筆で書かれた「傳(つたえる)」の字

宮田学長が今回の協定を「傳(つたえる)」という漢字一字で表現

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