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2009年4月6日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人大阪大学蛋白質研究所

理研のNMR施設の外部利用を大幅拡大

~NMR3台の装置を大阪大学など3機関に試行的移設、新拠点として利用を促進~

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人大阪大学蛋白質研究所(相本三郎所長)は、理研生命分子システム基盤研究領域(横山茂之領域長)が拡充してきた「NMR(核磁気共鳴)※1施設」の一部を大阪大学蛋白質研究所に移設し、連携協力を行うことで、理研のNMR技術の外部利用の拡大を図ります。

理研では、文部科学省「タンパク3000プロジェクト(2002年度~2006年度)」を遂行する中で、世界最大規模のNMR施設(40台)を活用して試料の調製からタンパク質の立体構造の決定までを一貫して行う「NMR立体構造解析パイプライン※2」を、世界に先駆けて構築してきました。

また、2007年度、2008年度は、文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業【産業戦略利用】※3」に積極的に協力し、国家プロジェクトのために整備したNMR施設および開発してきた利用技術を外部機関に開放しています。

この外部利用をさらに拡大し、国家プロジェクトで培った技術を広く展開するため、2009年4月7日に大阪大学蛋白質研究所と連携協力協定を調印し、理研のNMR施設の一部装置を同研究所に移設・設置し、そこを拠点として連携協力を行います。

大阪大学蛋白質研究所は、全国共同利用研究所として過去50年間にわたりわが国のタンパク質研究に貢献してきました。また、2010年度からは文部科学省の共同利用・共同研究拠点に認定される手続きを進めており、今回の理研との連携協力が拠点活動の発展をもたらし、国内外のタンパク質研究者コミュニテイーに大きく役立つことが期待されます。

なお、理研は、大阪大学蛋白質研究所のほか、国立大学法人京都大学大学院工学研究科分子工学専攻、財団法人サントリー生物有機科学研究所の2機関とも同様の連携協力協定などを締結し、NMR装置の移設を行います。

今回の連携協力・NMR装置の外部移設は試行的に開始するもので、今後、連携協力する機関を拡大することを目指しています。

経緯

理研生命分子システム基盤研究領域のNMR(核磁気共鳴)施設(図)は、タンパク質の立体構造と機能の解析を行う高性能NMR装置40台を備えた、世界最大の集積台数を誇る施設です。

NMRは、有機化合物や生体高分子などの構造や性質を調べる分析法の一つです。特にNMRを使った分析は、溶液という生体と同じ生理的な条件で、タンパク質の動的な高次構造や分子間相互作用の解析を行うことができるという特徴があります。このため、ポストゲノム研究として注目されるタンパク質の立体構造解析では、X線結晶構造解析と並ぶ有効な方法となっています。

理研では、この施設を用いて技術開発を進め、文部科学省の委託事業「タンパク3000プロジェクト」の「網羅的解析プログラム」で、年間約300のタンパク質構造のNMR解析を行い、この解析能力や効率が国際的に高い評価を得てきました。2007年度以降は、本プロジェクトでの技術開発、施設整備、人材育成、解析体制の構築などの成果を広く活用する努力を行ってきました。特にNMR立体構造解析パイプラインを活かすことは、今後のわが国のライフサイエンス研究の推進に貢献することになると評価されています。さらに、NMR施設の一層の活用推進を展開するため、内外の有識者による「NMR施設検討会」で議論するとともに、2006年10月に募集したモニターの利用結果を検討し、外部開放に関する詳細な制度設計を行いました。

さらに、文部科学省が、2007年度から開始した新規事業の「先端研究施設共用イノベーション創出事業【産業戦略利用】」の参画機関に理研の同施設が採択され、国からの委託のもと、産業界によるイノベーションの創出に向け、積極的にNMR施設の外部利用を展開しており、上記事業の後に、2009年度より開始された「先端研究施設共用促進事業」の実施機関として、引き続き、NMR施設の外部利用の展開を進めております。

今回、外部利用をさらに拡大し、「タンパク3000プロジェクト」などで培った技術を広く展開する目的で、2009年4月7日に大阪大学蛋白質研究所と連携協力協定を締結し、具体的な共同研究計画を今後決定します。

続いて、国立大学法人京都大学大学院工学研究科分子工学専攻、財団法人サントリー生物有機科学研究所の2機関についても、同様の協定や覚書を近日中に締結します。その後、理研のNMR施設の一部装置をこれら3機関に移設・設置し、新たな拠点として整備することで、連携協力を展開していきます。

移設先機関とNMR装置

国立大学法人大阪大学蛋白質研究所(800MHz装置、1台)
大阪大学ロゴ

大阪大学では、第2次大戦以前から理学部と医学部を中心として、タンパク質の研究を活発に行っていました。このような伝統を背景として、大阪大学蛋白質研究所は、1958年4月1日に全国共同利用研究所として発足しました。現在では、4研究部門12研究室と1センター6研究系および1寄附研究部門からなる体制を整えるに至っており、わが国におけるタンパク質研究の中核として化学、物理化学、生物学、医学、情報学にまたがる学術研究に貢献してきました。2010年度からは文部科学省の共同利用・共同研究拠点として活動する手続きを進めており、移設したNMRを用いてタンパク質の構造解析研究の一層の推進が図られることになります。移設場所は蛋白質研究所のNMR棟の予定です。

国立大学法人京都大学大学院工学研究科分子工学専攻(600MHz装置、1台)
京都大学ロゴ

京都大学は、古くから、理学部、医学部、農学部、薬学部などにおいて、広く生命科学研究を進めており、日本の生命科学研究の推進に大きな役割を果たしています。また、工学部でも、古くからNMR研究を進めており、特に近年は、分子工学専攻を中心として生体系のNMR研究を活発に進めています。生体試料を直接測定するin vivo NMR研究においても目覚ましい成果を上げています。移設したNMRを用いて、生体系のNMR研究を推進する予定です。移設場所は桂キャンパスA2棟の予定です。

財団法人 サントリー生物有機科学研究所(600MHz装置、1台)
サントリー生物有機科学研究所ロゴ

サントリー生物有機科学研究所は、生物有機化学およびこれに関連する領域の研究を進めるという理念に基づき設立されました。現在では、分子量の比較的小さい有機化合物から、それらを認識する受容体やトランスポーターなどのタンパク質分子までをターゲットに、分子、分子集団の物質レベルから、細胞、生物個体までの実際の生命現象のレベルまでの研究と学術研究への構造決定等の支援を展開しています。移設したNMRを加えて、高度なNMR解析技術の普及と研究支援活用を推進する予定です。移設場所は財団研究所のNMR室に併設の予定です。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 横浜研究推進部
次長 今泉 洋(いまいずみ ひろし)
Tel: 045-503-9328 / Fax: 045-503-9113

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

国立大学法人大阪大学蛋白質研究所 副所長
教授 長谷 俊治(はせ としはる)
Tel: 06-6872-8262 / Fax: 06-6872-8219

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

国立大学法人大阪大学 広報係
Tel: 06-6879-7017 / Fax: 06-6879-7156

補足説明

  • 1.
    NMR(核磁気共鳴)
    原子核には核スピンがあり、これがゼロではない水素や炭素原子は強い磁場の中に置かれると、2つのエネルギー状態に分かれることが知られている。このエネルギー差に相当する電磁波を当てると、共鳴現象が起きて電磁波が吸収される。その振動数は、原子核の種類と磁場の強さで決まるが、原子核の周りの電子の状態に影響されるので、周辺の電子の分布や原子の結合状態を知る手がかりになる。従って、NMRは分子構造の決定手段として利用される。近年ではコンピューターを利用したMRI(磁気共鳴造影法)として、病気の診断に役立っている。機器の磁場強度は、水素核の共鳴周波数(Hz:ヘルツ)で表され、周波数が大きいほど、より詳細で精度の高い解析データが得られる。現在市販されているものでは、950MHz(メガヘルツ)のものまである。
  • 2.
    NMR立体構造解析パイプライン
    タンパク質のNMR解析適合性の判定、安定同位体標識試料の調製、多次元NMRデータの測定、これに基づくタンパク質の立体構造の決定などを一貫して実施する施設。2005年には、NMRによるヒト、マウスのタンパク質の立体構造決定において、PDB(Protein Data Bank:世界的なタンパク質立体構造データベース)登録の70%にあたる375構造を明らかにした実績がある(世界全体では536構造がPDBに登録されている)。
  • 3.
    先端研究施設共用イノベーション創出事業【産業戦略利用】
    2007年度から2008年度に文部科学省が実施した事業で、大学、独立行政法人などの研究機関が所有する先端的な研究施設・機器について、国からの委託により産業界利用または産学官の共同研究利用による広範な分野の幅広い利用を促進し、イノベーションにつながる成果を創出していくことを目的としている。理研では、理研が保有するNMR施設を対象とした、「NMR立体構造解析パイプラインの共用化によるイノベーションの創出」が、本事業の採択を受けていた。なお、同じく採択を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」とは、課題公募、選定、成果発表などについて連携して事業を実施してきた。
図 理研生命分子システム基盤研究領域が保有するNMR(核磁気共鳴)施設の写真

図 理研生命分子システム基盤研究領域が保有するNMR(核磁気共鳴)施設

写真左:理研横浜研究所NMR施設
写真右:大阪大学蛋白質研究所へ移設するNMR装置(800MHz)
相本三郎所長と横山茂之領域長の写真
相本三郎 大阪大学蛋白質研究所 所長(左)、横山茂之 理研生命分子システム基盤研究領域 領域長(右)
大阪大学蛋白質研究所にNMRが移設される研究室の写真
実際に、大阪大学蛋白質研究所にNMRが移設される研究室。屋根を取り外し現在あるNMR装置の代わりに理研からNMR装置(800MHz)を移設する。

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