広報活動

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2009年7月28日

理化学研究所

「低分子量化硫酸化多糖の機能性食品への応用」など5研究がスタート

-NMR施設の外部利用で、新たな事業の先端研究を具体化-

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、明治大学の「低分子量化硫酸化多糖の機能性食品への応用」、仙味エキス株式会社の「イワシ由来ペプチド製造過程における析出成分の構造解析及び成分安定化方法の開発」など先端研究5課題を採択し、試料の調製からタンパク質の立体構造の決定までを一貫して行う「NMR立体構造解析パイプライン ※1」などを活用して、順次、研究を開始していきます。

同先端研究は、生命分子システム基盤研究領域(横山茂之領域長)が所有する世界最大規模の「NMR(核磁気共鳴)※2施設」と「NMR立体構造解析パイプライン」の外部活用を促進する文部科学省の「先端研究施設共用促進事業※3」の対象になる研究で、2009年度第1次外部利用者に該当します。

文部科学省は、2007年にイノベーションの創出を目指して開始した「先端研究施設共用イノベーション創出事業」の対象範囲を拡大し、2009年から学術的な研究分野も対象として「先端研究施設共用促進事業」を開始しました。今回の5課題は、「先端研究施設共用促進事業」で初めて実施するものです。

理研は2009年5月7日(木)から2009年6月5日(金)まで利用課題を公募し、応募のあったトライアルユース※4の4件を含めた5件をNMR課題選定委員会※5で審査し採択しました。

経緯

理研生命分子システム基盤研究領域が所有するNMR(核磁気共鳴)施設(図1)は、タンパク質の立体構造と機能の解析を行う高性能NMR装置40台を備えた、世界最大の集積台数を誇る施設です。

NMRは、有機化合物や生体高分子などの構造や性質を調べる分析装置の1つです。特にNMRを使った分析は、溶液という生体と同じ生理的な条件で、タンパク質の動的な高次構造や分子間相互作用の解析を行うことができるという特徴があります。このため、ポストゲノム研究として注目されるタンパク質の立体構造解析の分野では、X線結晶構造解析と並ぶ有効な方法となっています。

理研はこの施設を用いて、文部科学省の委託事業「タンパク3000プロジェクト」の「網羅的解析プログラム」で、年間約300のタンパク質構造のNMR解析を行ってきた実績を誇っており、この解析能力や効率が国際的に高い評価を得てきました。

2007年度以降は、本プロジェクトでの技術開発、施設整備、人材育成、解析体制の構築などを利用した成果を挙げています。その中でも、特にNMR立体構造解析パイプライン(図2)を活かすことは、今後のわが国のライフサイエンス研究のステップアップに貢献することになると評価されてきました。このため、新たなNMR施設の活用推進を理研外部へ展開するため、内外の有識者による「NMR施設検討会」でその活用方法を議論するとともに、2006年10月に募集したモニターの利用結果と意見を検討し、外部開放に関する詳細な制度設計を行いました。

さらに文部科学省は、2007年度から開始した新規事業の「先端研究施設共用イノベーション創出事業」の参画機関に理研の同施設を採択し、国の支援のもと、産業界によるイノベーションの創出に向け広く活用していくこととしました。そして、2007年8月24日(金)から、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」、「成果占有利用」、「成果非占有利用」の3形態による外部利用の受付を開始し、2007年度には、それぞれ15件、4件、8件の利用課題が、2008年度には、それぞれ11件、4件、10件の利用課題を実施しています。

2009年度からは、産業界の利用も促進しつつ、学術的な研究分野も対象として「先端研究施設共用イノベーション創出事業」を「先端研究施設共用促進事業」に移行しました。

研究をスタートさせる5つの実施機関と課題

明治大学の「低分子量化硫酸化多糖の機能性食品への応用」(代表者 室田明彦氏)、仙味エキス株式会社の「イワシ由来ペプチド製造過程における析出成分の構造解析及び成分安定化方法の開発」(代表者 二宮聖生氏)、室町ケミカル株式会社の「毒素タンパク質・抗毒素タンパク質複合体の立体構造解析よりその特異的認識機構の解明」(代表者 河原政人氏)、住友化学株式会社の「高分子へのH-C TROSYの応用」(代表者 岡田 明彦氏)、財団法人野口研究所の「NMRスペクトルを用いた糖結合型シクロデキストリン分子のドラッグキャリアとしての機能評価および解析」(代表者 山ノ井 孝氏)。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所
横浜研究推進部 次長 今泉 洋(いまいずみ ひろし)
Tel: 045-503-9328 / Fax: 045-503-9113

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
お問い合わせフォーム

  1. NMR立体構造解析パイプライン
    タンパク質のNMR解析適合性の判定、安定同位体標識試料の調製、多次元NMRデータの測定、これに基づくタンパク質の立体構造の決定などを一貫して実施する施設。2005年には、NMRによるヒト、マウスのタンパク質の立体構造決定において、PDB(Protein Data Bank:世界的なタンパク質立体構造データベース)登録の70%にあたる375構造を決定した実績がある(世界全体では536構造)。
  2. NMR(核磁気共鳴)
    原子核には核スピンがあり、これがゼロではない水素や炭素原子は、強い磁場の中に置かれると2つのエネルギー状態に分かれることが知られている。このエネルギー差に相当する電磁波を当てると、共鳴現象が起きて電磁波が吸収される。その振動数は、原子核の種類と磁場の強さで決まるが、原子核の周りの電子の状態に影響されるので、周辺の電子の分布や原子の結合状態を知る手がかりになる。従って、NMRは分子構造の決定手段として利用される。近年では、コンピューターを利用したMRI(磁気共鳴造影法)として、病気の診断に役立っている。
  3. 先端研究施設共用促進事業
    2009年度より、研究分野を限らず、先端的な研究開発施設などにおける産学官の研究者などによる共用を促進するため、文部科学省が共用に係る先端研究施設の運転経費や利用者支援などに必要な経費を補助することで、研究機関などの主体的取組および弾力的運用を推進する事業。現在、国内の22の施設が対象となっている。 その中で、理研では、保有するNMR施設を対象とした、「NMR立体構造解析パイプラインの共用化によるイノベーションの創出」について、本事業により補助を受けている。なお、同じく補助を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」と、課題公募、選定、成果発表などについて連携して事業を実施している。 (横浜市立大学の本事業関連ホームページ
  4. トライアルユース
    産業界の利用ニーズの掘り起こしを目的とした、無償による成果公開利用。ただし、同一部署または同種の課題ならば、利用回数は2回までに限定し、3回目以降の利用については利用料を徴収する。
  5. NMR課題選定委員会
    理研NMR施設利用に提案された公募課題の評価・選定を行うため理研内に設置した委員会で、NMR利用研究につき専門知識を有する理研内外の有識者と、NMR施設に関して責任を有する理研内の者13名で構成する。メンバーは次表のとおり。
    NMR課題選定委員会メンバー(◎印は委員長)
    氏名 所属
    ◎阿久津秀雄 大阪大学蛋白質研究所招へい教授
    上村大輔 慶応義塾大学理工学部生命情報学科教授
    大島泰郎 共和化工(株)環境微生物学研究所長
    小林祐次 大阪薬科大学創薬基盤科学研究室客員教授
    鈴木榮一郎 味の素(株)理事・ライフサイエンス研究所グループ長
    内藤晶 横浜国立大学大学院工学研究院教授
    西島和三 持田製薬(株) 医薬開発本部主事
    西村善文 横浜市立大学大学院国際総合科学研究科教授
    船橋英夫 理化学研究所横浜研究所副所長
    神谷勇治 理化学研究所横浜研究所植物科学研究センター グループディレクター
    伊藤幸成 理化学研究所基幹研究所伊藤細胞制御化学研究室 主任研究員
    横山茂之 理化学研究所横浜研究所生命分子システム基盤研究領域 領域長
    木川隆則 理化学研究所横浜研究所生命分子システム基盤研究領域 副領域長
理研生命分子システム基盤研究領域が保有するNMR(核磁気共鳴)施設

図1 理研生命分子システム基盤研究領域が保有するNMR(核磁気共鳴)施設

写真左:理研西NMR棟
写真右:NMR装置(900MHz)

NMR立体構造解析パイプライン

図2 NMR立体構造解析パイプライン

①発現確認
無細胞タンパク質合成技術により、対象タンパク質の発現量、可溶性の確認を行う。通常は、複数のコンストラクトを同時に試し、最適なものを選択する。
②フォールド判定
①で判定に必要な発現量、可溶性が得られることが確認されたタンパク質に関して、無細胞タンパク質合成技術によりタンパク質試料を調製し、当該試料が立体構造を形成していることの確認を行い、立体構造解析適合性を判定する。
③大量調製
無細胞タンパク質合成技術により、NMR測定に必要な純度・分量の安定同位体標識タンパク質試料の調製を行う。
④NMR測定
NMR装置により、立体構造解析に必要なデータ測定を行う。
⑤構造決定
NMRスペクトルデータの解析、シグナルの帰属、構造情報(特にNOEデータ)の抽出などの作業を、独自の立体構造解析統合環境ソフトウェア(KUJIRA)により行う。また、プロトン核間の距離の情報を与えるNOEデータの自動帰属をしながら立体構造計算を行う独自のソフトウェア(CYANA)を用いた立体構造決定を行う。