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2009年8月7日

理化学研究所

理研の新スーパーコンピュータ「RICC」が稼動

-研究者にとって「最良のシステム」の確立を目指す-

ポイント

  • PCクラスタシステムとして国内最速
  • 次世代スーパーコンピュータのためのプログラム開発プラットホームとしても利用
  • 独自のプログラム開発環境を提供し、アクセラレータ利用促進に貢献

概要

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、汎用のコンピュータを並列につないだPCクラスタをスーパーコンピュータとして利用する、革新的なシステム「RSCC(RIKEN Super Combined Cluster)※1」を発展させた、新たなスーパーコンピュータ・システム「RICC(RIKEN Integrated Cluster of Clusters)」を開発しました。RICCは、RSCCのPCクラスタを増強し、RSCCに比べ演算性能を8.5倍に向上しました。LINPACK※2ベンチマークテストによる性能測定では、PCクラスタのシステムとしてわが国最高の97.94TFLOPS※3(テラフロップス:1テラは1012)、実効性能92.36%を達成しました。RICCは、8月11日16時から和光研究所内の情報基盤センターで、所内外の関係者に対して新システムを公開した後、課題申請を受け付け、10月1日より運用を開始します。

RICCは、物理学、化学、工学、生物学、医科学といった理研の幅広い分野の研究者からのニーズすべてに応えていくことを目標として設計しました。機能の異なる4つの計算機(超並列PCクラスタ、多目的PCクラスタ、MDGRAPE-3※4、大容量メモリ計算機)をInfiniBand/10GbE※5で接続し、それらを1つの計算機であるかのように簡単に利用できる環境となっています。

2012年に完成予定の次世代スーパーコンピュータに高並列環境で性能を発揮させるためのアプリケーション・プログラムの開発もRICC上で行います。そのため、数千並列規模のジョブを常時投入することが可能です。このような運用は国内でほかに例がなく、独自に開発した高機能スケジューラ※6により実現します。

RICCは、アプリケーション・プログラムで爆発的に高い性能を引き出すことが可能なGPUアクセラレータ※7と、理研が開発したMDGRAPE-3を搭載しています。特にGPUアクセラレータでは、利用者がいち早く研究に利用できるようグラフィカルなインターフェイスの操作でプログラムが作成できるビジュアルプログラミング技術を用いたプログラム開発環境を整備し、提供します。これまでは、アクセラレータごとにプログラミング知識が必要なため、利用者が制限されていましたが、GPUアクセラレータにより、アクセラレータの利用を拡大すると期待されます。また、研究活動の中で利用者がスーパーコンピュータをあらゆる場面で利用できるようWebポータルや携帯電話インターフェイス、Webサービス※8用インターフェイスを提供します。このような機能面の発展とあわせて、RICCを最大限に活用する利用者教育、プログラムのチューニング、可視化技術などの研究開発も、積極的に推進していきます。

背景

理研は2004年3月、当時としては世界最大規模で、わが国最速のPCクラスタによるスーパーコンピュータ・システムRSCCを導入しました。RSCCは、理研の研究者を中心に計算資源を適正に配分するため、課題審査委員会で審査を実施し、利用課題(利用者)を決定してきました。RSCCは従来の計算科学の研究者だけでなく、高エネルギー分野の実験研究者が実験データの処理のために使ったり、ライフサイエンスの研究者がデータベースを使った検索を実行したりと、新規利用者を増やしてきました。

2006年から、次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトの一環として、理研がライフサイエンス分野のグランドチャレンジを主導してきたことから、ライフサイエンス分野での大規模計算の利用量が急増しました。その結果クラスタの利用率は90%を超え、十分な利用ができない状況になっていました。そこでこれまで利用してきたRSCCを発展させた新たなスーパーコンピュータ・システムRICCの開発を行いました。

RICCシステム構成について

新システムRICC(図)は、日本で最良のコンピュータ利用環境を研究者に提供するとともに、次世代スーパーコンピュータに向けたアプリケーション開発環境を整備します。さらに、GPUアクセラレータを導入し、その利用を促進することを目指しています。

RICC最大のシステムは、8000コア※9を超える並列ジョブを随時投入可能な超並列PCクラスタで、96TFLOPSの理論性能を有します。100ノード※10の多目的PCクラスタには、それぞれGPUアクセラレータを搭載しました。また、理研が開発したMDGRAPE-3クラスタと、単一プロセスで500GB(ギガバイト:1ギガは109)の大容量メモリが使用できる共有メモリ型計算機を採用しています。ストレージシステム※11として550TB(テラバイト)のオンライン・ストレージと、4PB(ペタバイト:1ペタは1015)のテープアーカイブ※12を装備しています。

RICCの導入により、理研の研究者にとって十分な計算資源と、多様な計算手法に合ったハードウエアを提供することができるようになります。また、実験装置の進化に伴い増大する実験データの処理にも対応できます。

RICCの利用開始までのスケジュール

RICCの利用開始までのスケジュールは、以下のとおりです。

8月3日 テスト運用開始
8月11日 新システムを関係者に公開
8月21日~9月4日 課題申請受付
9月5日~9月28日 課題審査
9月30日 テスト運用終了
10月1日 RICC利用開始

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 情報基盤センター
センター長 姫野 龍太郎(ひめの りゅうたろう)
Tel: 048-467-9321 / Fax: 048-462-4634

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.
    RSCC(Riken Super Combined Cluster)
    大規模なLinuxクラスタ(2048CPU、総演算性能12.5TFLOPS)を中心に、ベクトル計算機のMDGRAPE-3を搭載した専用計算機を1つのシステムとして複合した計算機システム。2004年3月に導入し、2004年6月の TOP500リスト(スーパーコンピュータの性能をランキングする世界規模のプロジェクト)では、世界7位という高い性能を示した。2005年4月に、産業技術大賞、文部科学大臣賞を受賞。
  • 2.
    LINPACK
    コンピュータの性能計測プログラム。スーパーコンピュータの性能比較プロジェクトTOP500の標準ベンチマークとして採用されている。
  • 3.
    FLOPS(フロップス)
    計算機の速さの単位。1TFLOPS(テラフロップス)は毎秒1兆回の不動小数点演算を実行できる速さを示す。
  • 4.
    MDGRAPE-3
    理研高速分子シミュレーション研究チーム(泰地真弘人チームリーダー)が開発した分子動力学シミュレーション専用の超高速計算機。MDGRAPE-3チップは、1チップで、165GFlops(ギガフロップス)の計算速度を実現している。MDGRAPE-3を用いることで、タンパク質や新規材料などの分子動力学シミュレーションのほかに、結晶内部の原子配列を特定するためのX解回折結果の解析、渦法やSPH法による流体計算、電磁気計算、境界要素法などの計算を加速できる。
  • 5.
    InfiniBand/10GbE
    InfiniBand(インフィニバンド)とは、非常に高い信頼性・可用性・保守性を持つ基幹系やHPC系のサーバ/クラスター用高速I/Oバスアーキテクチャおよびインターコネクトのこと。システム間インターコネクト機構として他機構に比較して、低レイテンシ(データ伝送の遅延が少ない)である点が特長。10GbEとは通信速度10Gbps(ギガビット/秒)のEthernet規格のこと(RICCにおけるコンピュータ間の接続の詳細は RICCシステム概要図を参照)。
  • 6.
    高機能スケジューラ
    理研が独自に開発したジョブスケジューラ。複数のクラスタ・システムと大容量メモリ計算機を統合してジョブを管理する。利用者(課題)ごとに割り振られたランクや過去のジョブ実行履歴を参照することで、利用者相互で公平なジョブ・スケジューリングを行うフェアシェア機能や、空いている資源を有効に利用するために、待機ジョブの順序を入れ替えるバックフィル機能、そしてコア、CPUチップ、サーバ、クラスタなどの異なる計算リソース階層に対して、きめ細かなスケジューリングを行うマルチレイヤースケジューリング機能を用いることで全体の待機時間の軽減を図る。同時に、大規模並列ジョブの実行を考慮した運用を可能としている。
  • 7.
    GPUアクセラレータ
    GPU(Graphics Processing Unit:グラフィックス プロセッシング ユニット)の演算資源を、画像処理以外の目的に応用したアクセラレータ。
  • 8.
    Webサービス
    HTTPなどのインターネット関連技術を応用して、SOAPと呼ばれるXML形式のプロトコルを用いメッセージの送受信を行う技術、またはそれを適用したサービス。Webサービスにより、利用者は計算目的に応じたさまざまなクライアントを通じてRICCを利用でき、研究目的に応じて独自のサービスポータルを構築することが可能になる。
  • 9.
    コア
    CPUの中核となり、演算処理などを行う部分。
  • 10.
    ノード
    クラスタを構成する1つ1つの要素のこと。通常は1台の計算機を示す。
  • 11.
    ストレージシステム
    データを格納する磁気ディスク装置やバックアップなどの仕組みを含めたシステムの総称。
  • 12.
    テープアーカイブ
    磁気ディスク装置内のデータのバックアップの格納や、アクセス頻度の低いデータを退避するための二次記憶装置として用いる多数のテープメディアを内蔵した大容量の記憶装置。
RICCシステム概要図の画像

図 RICCシステム概要図

富士通プレスリリース

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