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2009年10月23日

独立行政法人理化学研究所
株式会社理研ジェネシス
オランダ法科学研究所

SNPを用いた科学捜査の研究が初の国際協力でスタート

―理研、理研ジェネシス、オランダ法科学研究所が、新科学捜査の構築図る-

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)のゲノム医科学研究センター(中村祐輔センター長)、株式会社理研ジェネシス(塚原祐輔社長)およびオランダ法科学研究所(チャルク・チンアチョイ:Tjark Tjin-A-Tsoi, CEO)は、DNA鑑定など法医学部門に関する科学捜査の新たな技術開発に向けた共同研究を開始するため、2009年10月26日に共同研究覚書を締結します。

この共同研究は、DNA鑑定など法医学部門の先端研究分野に関して世界をリードする独自の研究を展開中の両研究機関が、次世代の高速・高精度なDNA鑑定法を確立するため、SNP(Single Nucleotide Polymorphism:スニップ)※1を用いた新たな科学捜査技術の開発と実用化を目指す初めての国際プロジェクトとなります。具体的には、欧州で最先端の科学捜査を行っているオランダの法科学研究所と、高度なSNP解析技術を有し、ゲノム医科学研究で世界的にリードする理研ゲノム医科学研究センター、さらに、小型迅速遺伝子解析システムの実用化を進める理研ジェネシスが協力します。

調印式は、2009年10月26日14時20分より、東京大学医科学研究所 1号館2階 会議室で開催し、オランダのロナルド・プラステルク(Ronald Plasterk)教育文化科学大臣、倉持隆雄文部科学省大臣官房審議官(研究振興局担当)、中村祐輔ゲノム医科学研究センター長らが出席します。

経緯

理研ゲノム医科学研究センターは、大量・高速かつ高精度にSNPを解析する独自の技術(インベーダー法)を確立し、疾患関連遺伝子や薬剤応答性関連遺伝子に関するゲノム医科学研究を展開し、この分野で世界をリードするとともにわが国のSNP研究の拠点を築いてきました。さらに、疾患研究の基盤情報の構築を目的とした「国際ハップマッププロジェクト」では、このSNP解析技術を用いて、単一機関としては世界最大の貢献を果たすなどの実績を有しています。また、法医学関連に特化した分野では、わが国の警察庁科学警察研究所と2005年1月に共同研究契約を締結し、SNP解析技術を応用した新たな遺伝子型判定法の開発を展開、さらに理研ジェネシスと共同で小型迅速遺伝子解析システムの開発を実施しています。

オランダの法科学研究所は、非常に高精度なDNA鑑定技術を有し、欧州随一の科学捜査研究所として欧州各国における科学捜査の実績を誇っています。

共同研究覚書の発端は、2008年10月、ゲノム医科学研究センターが、オランダの法科学研究所より、わが国の警察庁情報技術解析課を通じて視察の申し入れを受けたことにさかのぼります。同年11月には、法科学研究所のチャルク・チンアチョイ(Dr. Tjark Tjin-a-Tsoi)所長、マルセル・ヴァン・デル・ステーン(Marcel van der Steen)理事会顧問が来日して、ゲノム医科学研究センターの研究施設の視察および研究者との意見交換を行いました。2009年1月、法科学研究所から今後の連携についての申し入れがあり、それぞれの研究ポテンシャルを生かした共同研究に向けて、共同研究覚書を締結する運びとなりました。

研究協力の内容

現在広く用いられているDNA鑑定法は、STR(Short Tandem Repeat)法と呼ばれる方法で、ヒトDNA中で同じ配列が複数回繰り返す領域を目印とし、その繰り返しの回数が個人個人によって異なることを利用して個人を特定しています。しかし、この方法では、微量のDNA量しか採取できない試料や、白骨などのようにDNAの分解が進んでいる試料などでは、遺伝子型の検出が困難でした。

共同研究では、理研ゲノム医科学研究センターと法科学研究所が、それぞれお互いが持っている技術を融合し、科学捜査研究の分野に特化して、SNPを用いた新しいDNA鑑定技術の開発を行います。SNPを用いることにより、これまでSTR法ではDNA鑑定が困難であった極微量の試料や、DNAの保存状態が不完全な試料に対しても正確に遺伝子型を判定することが可能となるため、科学捜査の分野における強力な検査手法となります。さらに、理研ジェネシスが協力し、科学捜査用の小型迅速遺伝子解析システムの開発を行うことにより、SNPを用いた次世代のDNA鑑定法の普及を目指します。これらの取り組みにより、次世代のDNA鑑定法が世界中で広く実用化されることが期待できます。

各機関概要

(1)理研ゲノム医科学研究センター

理研のゲノム医科学研究センターは、わが国のミレニアム・ゲノムプロジェクトの一環として、2000年に遺伝子多型研究センターとして設立、2008年にゲノム医科学研究センターへ名称変更しました。オーダーメイド医療の実現を目指し、大量・高速かつ高精度な遺伝子多型判定技術(インベーダー法)を確立することで、個々人のSNPを体系的に解析し、それらの情報を基に、疾患関連遺伝子を探索し、またSNPが当該遺伝子の機能に与える影響、あるいは、SNPと薬剤感受性との関連を明らかにする研究を行っています。

(2)The Netherlands Forensic Institute(NFI:オランダ法科学研究所)

第2次世界大戦直後の1945年に設立したthe Forensic Laboratory(法科学研究所)と、1951年に設立したthe Forensic Medical Laboratory(法医学研究所)が1999年に合併して設立されました。450名余りを擁する世界でも有数の規模と水準を誇る科学捜査の研究所で、2004年にハーグに移転しています。NFIはオランダ司法省内の独立した一組織で、警察、検察だけでなく、裁判所や企業、さらには弁護側の鑑定も行っています。海外の大規模災害や戦争犯罪の鑑定でも多くの実績を築いています。

(3)株式会社理研ジェネシス

理研ゲノム医科学研究センターが確立したSNPタイピング技術を基盤として、株式会社理研ベンチャーキャピタル(有馬朗人社長)と凸版印刷株式会社(足立直樹社長)の共同出資によって2007年10月15日に設立しました。理研との技術連携を図りながら、SNPタイピングの受託解析事業、解析システム事業、周辺サービス事業などを推進し、オーダーメイド医療を実現化することによって個々人のQOL向上を図っています。

調印式

(1)開催日時

2009年10月26日(月)14時20分~14時45分

(2)会場

東京大学医科学研究所(東京都港区白金台 4-6-1)
1号館2階セミナー室

※東京大学医科学研究所には、理研も参加する文部科学省委託事業「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」(プロジェクトリーダー:中村祐輔)の一環で、約30万症例のDNA、血清、臨床情報などを収集した、世界最大の「バイオバンクジャパン」が構築されている。今回の調印式に際し、オランダ側出席者がバイオバンクジャパンの視察も希望したことから、中村センター長の本務先でもある東京大学医科学研究所を調印式会場とした。

(3)出席予定者

文部科学省

大臣官房審議官 : 倉持 隆雄 ほか

理化学研究所

横浜研究所所長 : 小川 智也
ゲノム医科学研究センター長 : 中村 祐輔 ほか

株式会社理研ジェネシス

社長 : 塚原 祐輔 ほか

オランダ教育文化科学省

大臣 : ロナルド・プラステルク(Ronald Plasterk)ほか

オランダ法科学研究所

所長 : チャルク・チンアチョイ(Dr. Tjark Tjin-a-Tsoi)
顧問 : マルセル・ヴァン・デル・ステーン(Marcel van der Steen)

そのほかオランダから、イノベーション・プラットフォーム(高等教育、研究開発などに関するオランダ政府の諮問機関)、科学研究機構(NWO)からの出席を予定。

※調印式では、出席者の前後の日程が過密なため、質疑応答の時間を設定できませんが、写真撮影は可能です。ご希望の方は式開始前までに会場にご参集下さい。詳細な内容に関する取材は、問い合わせ先までお電話下さい。なお、式は英語のみで執り行われます。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 横浜研究推進部
次長 渡部 康一(わたなべ こういち)
Tel: 045-503-9321 / Fax: 045-503-9113

株式会社理研ジェネシス 経営管理部
Tel: 045-521-8781 / Fax: 045-521-8786

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.
    SNP(Single Nucleotide Polymorphism:スニップ)
    遺伝子多型の中でもゲノム塩基配列中の1つの塩基が個人間で異なっている個所があり、これらをSNP(single nucleotide polymorphism: 一塩基多型)と呼ぶ。このSNPは、ヒトゲノム上で最も数の多い遺伝子多型であり、およそ数百塩基対に1個所くらいの割合で存在し、ヒトのゲノム中には約1,000万個所のSNPがあると考えられている。また、SNPの頻度は人種により異なることも知られている。

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