広報活動

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2009年12月7日

理化学研究所

NMR施設の外部利用課題に新たな8研究課題が決定

「ウイルス天然変性蛋白質の安定同位体標識NMR解析」などの研究に開放

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、理研生命分子システム基盤研究領域(横山茂之領域長)が保有する世界最大規模の「NMR(核磁気共鳴)※1施設」と、試料の調製からタンパク質の立体構造の決定までを一貫して行う「NMR立体構造解析パイプライン※2」を活用する2009年度第2次外部利用課題を決定しました。

採択した課題は、文部科学省「先端研究施設共用促進事業※3」を対象とした利用課題で、大陽日酸株式会社の「ウイルス天然変性蛋白質の安定同位体標識NMR解析」など8課題です。

利用課題の公募は、2009年9月14日(月)から2009年10月30日(金)まで行い、「先端研究施設共用促進事業」を対象とした利用課題にトライアルユース3課題を含め8課題の応募がありました。2009年11月30日(月)に開いたNMR課題選定委員会※4による審査の結果、応募のあった8課題すべてを採択しました。

今後、採択者と個別に打合せを行い、準備の整った利用課題から順次実施していきます。

なお、2009年度第1次外部利用課題5課題と合わせ、本年度採択課題は13課題(トライアルユース7課題、成果非占有利用6課題)となります。

経緯

理研生命分子システム基盤研究領域のNMR(核磁気共鳴)施設(図1)は、タンパク質の立体構造と機能の解析を行う高性能NMR装置40台を備えた、世界最大の集積台数を誇る施設です。

NMRは、有機化合物や生体高分子などの構造や性質を調べる分析装置の1つです。特にNMRを使った分析は、溶液という生体と同じ生理的な条件で、タンパク質の動的な高次構造や分子間相互作用の解析を行うことができるという特徴があります。このため、ポストゲノム研究として注目されるタンパク質の立体構造解析では、X線結晶構造解析と並ぶ有効な方法となっています。

理研では、この施設を用いて、平成14年度~18年度に行われた文部科学省の委託事業「タンパク3000プロジェクト」の「網羅的解析プログラム」で、年間約300のタンパク質構造のNMR解析を行ってきた実績を誇っており、この解析能力や効率が国際的に高い評価を得てきました。

2007年度以降は、本プロジェクトでの技術開発、施設整備、人材育成、解析体制の構築などの成果を発揮しています。その中でも、特にNMR立体構造解析パイプライン(図2)を活かすことは、今後のわが国のライフサイエンス研究のステップアップに貢献することになると評価されてきました。このため、新たなNMR施設の活用推進を展開するため、内外の有識者による「NMR施設検討会」で議論するとともに、2006年10月に募集したモニターの利用結果を検討し、外部開放に関する詳細な制度設計を行いました。

さらに、文部科学省が2007年度から開始した新規事業の「先端研究施設共用イノベーション創出事業【産業戦略利用】」の参画機関に理研の同施設を採択し、国の支援のもと、産業界によるイノベーションの創出に向け、NMR立体構造解析パイプラインの活用を実施していくこととなりました。具体的には、2007年8月24日(金)から、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」、「成果占有利用」、「成果非占有利用」の3形態による外部利用の受付を開始し、2007年度には、それぞれ15件、4件、8件の利用課題が実施され、2008年度には、それぞれ11件、4件、10件の利用課題が新たに実施されています。

また、今回の利用課題公募、選定は、「先端研究施設共用イノベーション創出事業【産業戦略利用】」の採択を同時に受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」と連携して実施しています。

なお、「先端研究施設共用イノベーション創出事業【産業戦略利用】」は、一部制度を見直しを行い、2009年度から「先端研究施設共用促進事業」になりました。

決定した採択課題と実施機関

文部科学省「先端研究施設共用促進事業」対象利用課題
課題名 利用機関名 代表者職氏名
ウイルス天然変性蛋白質の安定同位体標識NMR解析 大陽日酸株式会社 折笠 敬
安定同位体標識NMR校正用標準蛋白質開発の為の、高感度高分解能NMRによる測定・評価 RECマテリアルズ(株) 丸山 渉
受託合成核酸オリゴマーの立体構造を含めた品質管理へのNMRの応用の検討 北海道システム・サイエンス(株) 北村 智
LINE由来逆転写酵素の発現とそのターゲットRNAとの相互作用解析 千葉工業大学 河合剛太
RNAの構造スクリーニングおよび構造クラスタリング手法の開発 千葉工業大学 河合剛太
位置選択的に安定同位体標識された長鎖RNAのNMRシグナル解析手法の開発 大陽日酸株式会社 折笠 敬
巨大炭素鎖を持つ特異な天然有機分子の構造研究 慶應義塾大学 上村大輔
Mucor hiemalis由来エンドβ-N-アセチルグルコサミニダーゼが形成する糖鎖の構造解析 財団法人野口研究所 山ノ井孝

採択の経過と利用開始の日程

第2回募集開始
2009年9月14日(月)
第2回募集締切
2009年10月30日(金)
利用者受入開始
2009年12月~

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 横浜研究推進部
次長 今泉 洋(いまいずみ ひろし)
Tel: 045-503-9328 / Fax: 045-503-9113

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
お問い合わせフォーム

補足説明

  1. NMR(核磁気共鳴)
    原子核には核スピンがあり、これがゼロではない水素や炭素原子は強い磁場の中に置かれると、2つのエネルギー状態に分かれることが知られている。このエネルギー差に相当する電磁波を当てると、共鳴現象が起きて電磁波が吸収される。その振動数は、原子核の種類と磁場の強さで決まるが、原子核の周りの電子の状態に影響されるので、周辺の電子の分布や原子の結合状態を知る手がかりになる。従って、NMRは分子構造の決定手段として利用される。近年ではコンピューターを利用したMRI(磁気共鳴造影法)として、病気の診断に役立っている。
  2. NMR立体構造解析パイプライン
    タンパク質のNMR解析適合性の判定、安定同位体標識試料の調製、多次元NMRデータの測定、これに基づくタンパク質の立体構造の決定などを一貫して実施する施設。2005年には、NMRによるヒト、マウスのタンパク質の立体構造決定において、PDB(Protein Data Bank:世界的なタンパク質立体構造データベース)登録の70%にあたる375構造を決定した実績がある(世界全体では536構造)。
  3. 先端研究施設共用促進事業
    大学・独立行政法人等の保有する先端研究施設の共用を促進することにより、基礎研究からイノベーション創出に至るまでの科学技術活動全般の高度化を図るとともに国の研究開発投資の効率化を図ることを目的に文部科学省が実施している事業である。
    なお、この事業は、2007年度に開始された「先端研究施設共用イノベーション創出事業【産業戦略利用】」を、一部制度の見直しを行い、2009年度に新たに開始された事業である。
    理研では、理研が保有するNMR施設を対象とした、「NMR立体構造解析パイプラインの共用化によるイノベーションの創出」について本事業の採択を受けている。なお、同じく採択を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」とは、課題公募、選定、成果発表などについて連携して事業を実施している。
    (横浜市立大学の本事業関連ホームページ)
    先端研究施設共用促進事業関連ホームページ
  4. NMR課題選定委員会
    理研NMR施設利用に提案された公募課題の評価・選定を行うため理研内に設置した委員会で、NMR利用研究につき専門知識を有する理研内外の有識者およびNMR施設に関して責任を有する理研内の者13名で構成する。メンバーは次表のとおり。
    NMR課題選定委員会メンバー(◎印は委員長)
    氏名 所属
    ◎阿久津秀雄 大阪大学蛋白質研究所招へい教授
    上村大輔 慶応義塾大学理工学部生命情報学科教授
    大島泰郎 共和化工(株)環境微生物学研究所長
    小林祐次 大阪薬科大学創薬基盤科学研究室客員教授
    鈴木榮一郎 味の素(株)理事・ライフサイエンス研究所グループ長
    内藤晶 横浜国立大学大学院工学研究院教授
    西島和三 持田製薬(株) 医薬開発本部主事
    西村善文 横浜市立大学大学院国際総合科学研究科教授
    野家彰 理化学研究所横浜研究所副所長
    神谷勇治 理化学研究所横浜研究所植物科学研究センター
    グループディレクター
    伊藤幸成 理化学研究所基幹研究所伊藤細胞制御化学研究室 主任研究員
    横山茂之 理化学研究所横浜研究所生命分子システム基盤研究領域 領域長
    木川隆則 理化学研究所横浜研究所生命分子システム基盤研究領域 副領域長
NMR(核磁気共鳴)施設の写真

図1 理研生命分子システム基盤研究領域が保有するNMR(核磁気共鳴)施設

写真左:理研西NMR棟
写真右:NMR装置(900MHz)

NMR立体構造解析パイプラインの図

図2 NMR立体構造解析パイプライン

①発現確認
無細胞タンパク質合成技術により、対象タンパク質の発現量、可溶性の確認を行う。通常は、複数の発現条件(コンストラクト)を同時に試し、最適なものを選択する。
②フォールド判定
①で判定に必要な発現量、可溶性が得られることが確認されたタンパク質に関して無細胞タンパク質合成技術により、タンパク質試料を調製し、当該試料が立体構造を形成していることの確認を行い、立体構造解析適合性を判定する。
③大量調製
無細胞タンパク質合成技術により、NMR測定に必要な純度・分量の安定同位体標識タンパク質試料の調製を行う。
④NMR測定
NMR装置により、立体構造解析に必要なデータ測定を行う。
⑤構造決定
NMRスペクトルデータの解析、シグナルの帰属、構造情報(特にNOEデータ)の抽出などの作業を、独自の立体構造解析統合環境ソフトウェア(KUJIRA)により行う。また、プロトン核間の距離の情報を与えるNOEデータの自動帰属をしながら立体構造計算を行う独自のソフトウェア(CYANA)を用いた立体構造決定を行う。