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2009年12月16日

理化学研究所

国際薬理遺伝学研究連合、うつ病など新たな5つの共同研究を開始

-ファーマコゲノミクス研究によるオーダメイド投薬の実現へ-

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)ゲノム医科学研究センター(CGM、中村祐輔センター長)と米国国立衛生研究所(NIH、フランシス・コリンズ所長)薬理遺伝学研究ネットワーク(PGRN、スコット・ワイス議長)、NIH所属の3研究機関(国立一般医学研究所:NIGMS、国立がん研究所:NCI、国立心臓・肺・血液研究所:NHLBI)は、2008年4月に創設した国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)において、2009年11月から、新たにうつ病など5件の共同研究を開始しました。

理研CGMは、個人の遺伝的な特性に合った疾患の診断・治療・予防や薬剤の投与を可能にするオーダーメイド医療の実現に向けて、個人の体質の違いを遺伝子レベルで把握し、病気へのかかりやすさや薬剤の効果・副作用との関連を解明する研究を推進しています。

一方、米国NIHの研究グループの連合体であるPGRNは、NIH所属の3研究機関NIGMS、NCI、NHLBIの協力を得て、体内における薬剤の作用や薬物動態と個人個人の遺伝子の相違との関係について研究を展開しています。

GAP設立以来、CGMとPGRNは、双方の研究能力や資源を有効に活用した連携研究を実施するとともに、フォーラムの開催などを通じた連携強化を図っています。2008年4月の設立時には、遺伝的要因の乳がん治療薬の有効性への影響に関する研究など5件の共同研究を開始し、同年11月には、遺伝的要因とぜんそく治療薬への応答性との関係に関する研究など5件の共同研究を追加しました。今回、うつ病やHIV/AIDS、高血圧など新たに5件の共同研究を開始し、全15件の共同研究を実施します。すべての共同研究において、ゲノムワイド関連解析によりゲノム全体を調べ、薬剤に関連する遺伝的要因を網羅的に解析します。取得したデータは、NIHの全米バイオテクノロジー情報センター内のデータベースであるdbGAPを通じて一般に広く公開し、研究成果を社会に還元します。

これらの共同研究の進展は、個人の遺伝情報と薬物の治療効果や副作用との関連を解明するための研究(ファーマコゲノミクス研究)を加速し、その知見を臨床薬物治療に活用することで、個々の患者の体質に適合した最適な薬剤投与が可能となり、国際的なヘルスケアの実現につながることが期待できます。

経緯

理研ゲノム医科学研究センター(CGM)は、個人間のわずかな遺伝子の違いであるSNP(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)を網羅的に解析し、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握することで、個人の特性に合った病気の診断・治療・予防や薬剤の投与が可能となるオーダーメイド医療の実現を目指した研究を推進しています。心筋梗塞をはじめとした数多くの疾患関連遺伝子を同定するとともに、個人の遺伝情報と薬剤への応答性との関連についても研究を実施しています。これまでに、大規模かつ高精度なSNP解析が可能なSNPタイピングシステムを構築し、その解析能力を活かして、個人の体質の差を生みだす遺伝情報の違いが染色体上のどこにあるかを示す「地図」の作成を目的とした「国際ハップマッププロジェクト」(2002年~2005年)に参加しました。このプロジェクトでは、単独機関として世界最大(全データの約25%)のデータ解析を行い、SNP情報の世界的な標準化に貢献しました。さらに、2003年から開始された文部科学省委託事業「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」に中核機関として参画し、疾患ごとの大規模な全ゲノムSNP解析などを担当しています。また、臨床現場で利用可能な簡便・高精度な高速SNP解析装置を凸版印刷株式会社、株式会社理研ジェネシスと共同で開発しています。

一方、米国NIHの研究グループの連合体であるPGRNは、体内における薬剤の作用や薬物動態と個人ごとの遺伝子の相違との関係について研究を行い、その研究成果を臨床に応用することを目的としています。

近年、個人の遺伝情報と薬物の治療効果や薬物のもたらす副作用との関連を解明するためのファーマコゲノミクス研究が進展しています。そこで、日米の研究機関が連携して、この分野における新たな発見につながる研究を協力して促進し、オーダーメイド医療の確立に貢献するため、CGM、PGRNおよびNIHの3研究機関(NIGMS、NCI、NHLBI)は、2008年4月に「国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)」を設立し、5件の共同研究を開始(2008年4月15日プレス発表)、同年11月には5つの共同研究を追加(2008年11月11日プレス発表)しました。さらに、2009年11月から、新たに5件の共同研究を開始することになりました。

共同研究(5件)の内容

今回、新たに開始する5件の新しい共同研究(うつ病、HIV/AIDS、高血圧、心房細動、結腸直腸がん)は、既存の共同研究と同様に、個人によって異なる薬剤への反応性と関連した遺伝要因を特定することを目的とします。各共同研究の長期目標は、一人一人の患者に合わせた医療を行うための情報を医師に提供することです。

①うつ病
うつ病は、世界的に最も発症頻度が高く、主要な精神疾患の1つです。うつ病の治療に使用する主な薬剤は、「選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRIs)」ですが、半数近くの患者はこの薬剤の効果が無いことが分かっています。この共同研究では、過去4年間にわたって米国ミネソタ州のメイヨ・クリニックで治療された数百名の患者のDNAを解析することで、SSRIsの効果や副作用と遺伝的要因との関連を解明することを目指します。
②HIV/AIDS
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は免疫システムを標的とするため、患者は外部からの病原体などによる攻撃から身を守ることができなくなります。HIV治療では、抗レトロウィルス薬による治療後に、一部の患者で免疫システムの機能が回復しないことが知られています。この共同研究では、ウガンダのムバララ病院HIVクリニックで治療されている数百人の患者DNAサンプルと臨床データを解析することで、HIV患者の治療後の免疫システムの回復と関連する遺伝要因を解明することを目指します。
③高血圧
世界中で3,500万~4,000万人が血圧のコントロールや治療のためにACE阻害薬を服用しています。しかし、ACE阻害薬は、口、咽頭、手または腹部臓器の腫張によって特徴づけられる重大な副作用(血管浮腫)を引き起こすことがあります。血管浮腫が起こった場合、窒息の危険性があるため入院治療が必要となります。この共同研究では、血管浮腫のリスクを増加させる遺伝子多型と薬剤との関連を解明することを目指します。また、この共同研究から得られる情報により、医師が高リスク患者への投薬を避けることが可能となり、副作用の発症率を減らすことが可能となります。
④心房細動
心房細動は、血液凝固塊や心不全などの深刻な問題を引き起こす不整脈です。この共同研究では、心房細動による頻脈をコントロールする目的で使用される薬剤(β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ジギタリス製剤)への応答性に影響を及ぼす遺伝子を特定することを目指します。この共同研究から得られる情報により、医師が一人一人の患者に対して最も効果的な処方を決定するのを助けるとともに、新薬開発にもつながる可能性があります。
⑤結腸直腸がん
最近の研究により、セレコキシブのような非ステロイド抗炎症薬(COX阻害薬)が、がんに進展する可能性のある結腸直腸病変の予防に効果があることが分かりました。しかし一方で、この薬剤は胃腸障害や心臓血管系副作用を引き起こします。この共同研究では、結腸直腸の前がん病変の進展予防におけるセレコキシブの効果と安全性に影響する遺伝要因を同定することを目指します。この共同研究により、医師はセレコキシブの効果が無い患者や副作用の危険性が高い患者に対して、その使用を避けることが可能になります。

各機関概要

(1) ゲノム医科学研究センター(Center for Genomic Medicine: CGM)
2000年に遺伝子多型研究センターとして設立、ヒトゲノムの多様性を示すSNPを解析し、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握することで、個人の特性に合った病気の診断・治療・予防や薬剤の投与が可能となるオーダーメイド医療実現を目指した研究を行っている。2008年4月にゲノム医科学研究センターに改称した。
(2) 米国国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)
1887年に設立された合衆国で最も古い医学研究の拠点機関。米国保健社会福祉省 (United States Department of Health and Human Services:HHS)傘下にあって、27の研究所やセンターから構成される。基礎から臨床までの広範囲な医学研究を実施または資金援助を行う。
(3) 薬理遺伝学研究ネットワーク(Pharmacogenetics Research Network: PGRN)
NIH所属の3研究機関(国立一般医学研究所、国立がん研究所、国立心臓・肺・血液研究所)が関与する研究グループの連合体。体内における薬剤の作用や薬物動態と個人ごとの遺伝子の相違との関係について研究を行い、その研究成果を臨床に応用することを目的としている。PGRNの研究者は米国とカナダの研究機関から指名される。
(4) 国立一般医学研究所(National Institute of General Medical Sciences: NIGMS)
米国メリーランド州ベゼスタにあるNIHの1機関で、学術・医療研究機関の基礎医科学研究プログラムに資金提供を行うために設立された機関。PGRNの運営面と資金面について責任を負う。
(5) 国立がん研究所(National Cancer Institute: NCI)
米国メリーランド州ベゼスタにあるNIHの1機関。がんの原因究明、診断、予防、治療、がん患者およびその家族のケア、がんからのリハビリテーションなどに関する研究、人材育成、情報提供を実施し、またこれらの活動を行う機関へ資金援助を行う。
(6) 国立心臓・肺・血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute: NHLBI)
米国メリーランド州ベゼスタにあるNIHの1機関。心・肺や血液の疾患、睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群など)に関する原因究明、診断、予防、治療、研究、人材育成、情報提供、普及啓発活動を実施し、またはこれらの活動を行う機関へ資金援助を行う。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 ゲノム医科学研究センター
センター長 中村 祐輔(なかむら ゆうすけ)
Tel: 03-5449-5372 / Fax: 03-5449-5433

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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