広報活動

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2011年3月29日

独立行政法人理化学研究所
財団法人高輝度光科学研究センター

わが国初のXFEL施設が完成

-「XFEL」の愛称は「SACLA(さくら)」―

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI、白川哲久理事長)と協力し、播磨科学公園都市の大型放射光施設SPring-8※1に隣接して開発・整備を進めている、原子の世界を詳細に映し出すわが国初のX線自由電子レーザー(XFEL)※2施設を、計画どおりの80億電子ボルト(8GeV※3)で運転、波長0.8Å(Angstrom(おんぐすとろーむ))※4というX線を発生、観測することに成功しました。また、このXFEL施設の愛称を「SACLA(さくら)」と決定しました。

XFEL施設は、国家基幹技術の1つとして位置づけられ、大型放射光施設(SPring-8) と同じ8GeVの電子ビームからX線レーザーを発振、利用するために、2006年度から5年間の計画で整備を進めてきました。2011年3月23日には、XFEL施設の8GeV運転に成功し、波長0.8ÅのX線の発生を確認しました。 今後は、このX線の位相をそろえてXFELのレーザー増幅の出力飽和に向けた調整運転を続け、利用試験などを経て2011年度末の供用開始を目指します。

XFEL施設の愛称「SACLA」は、2010年10月1日から実施した公募で得た493件の候補の中から審査を行い決定した愛称で、SPring-8Angstrom Compact Free Electron Laserの略を表します。原子の大きさはほぼ1Åであるため、Angstromは、分子や原子のような微細な物質の様子を観察、測定することができる施設を象徴する長さの単位となっています。この日本初のXFEL施設は、欧米のXFEL施設に比べ半分以下のCompactな大きさで、短波長で安定したX線レーザー発振を目指します。また、施設の建設には多くの国内メーカーの協力を得て、日本独自の技術が駆使されています。愛称「SACLA(さくら)」は、これらのXFEL施設の日本独自の特長を表現するとともに、日本らしさを感じさせる「桜」と同じ読み方をする点を評価して決定しました。また、愛称に合わせて施設のロゴマークも決定しました。

I. 波長0.8ÅのX線の観測について

背景

X線の発見・発生、放射光やレーザーの発明は、新たな科学技術を切り拓き、産業の発展に寄与してきました。例えば、X線は病院での診察に使われていますし、レーザーは青色発光ダイオード、CDの読み取りなどに使われている半導体レーザーや視力回復手術に利用されているエキシマレーザーなど、多くの分野に使用されています。

大型放射光施設SPring-8は、世界最高性能の放射光施設として、材料科学・生命科学・産業利用などで多数の成果を創出しています。SPring-8の出す放射光は、幅広い波長領域(主に硬X線から真空紫外線)を持ち、非常に明るい(高輝度)という特長を持っています。一方、レーザーは位相がそろっているため、干渉性が高く、特定の波長において放射光よりも高い輝度を持った光を得ることができるという特性があります。このように、放射光とレーザーとは異なる性質を持った相補的な光で、特にSPring-8が完成した現在、X線領域のレーザーが待望されていましたが、その実現は適当なレーザー媒質がないため非常に困難なものと考えられていました。

これを実現するため、2006年度から5年計画で、理研がJASRIの協力を得て、X線自由電子レーザー(XFEL)施設の建設を進め、2010年度末にXFEL施設を完成させました。

研究手法と成果

XFELは、高エネルギーで高品質の電子ビームを、長尺のアンジュレータ※5という磁石列が上下に並んだ装置(全18台)に通してレーザーを生成します。レーザーの生成に向けた第一歩は、構成機器が設計通りに働くかどうかを確かめることです。そこで、(a) 電子銃から引き出された電子ビーム特性の確認、(b) その電子ビームの設計エネルギー(8GeV)までの加速、(c) アンジュレータ部を通過させ電子ビームダンプ(最終的に電子を捨てるところ)への電子ビームの輸送、(d) アンジュレータとX線光学・検出系の性能確認、を実施しました。

電子銃から引き出される電子ビームの性能の中で、もっとも重要なものは平行性の高い電子の密度です。電子銃直下流で1ナノ秒の時間幅に切り出した電子ビームの密度をスリットで細かく切り取り、スリットを左右に動かして電子ビーム全体をスキャンする方法で測定したところ、ほぼ設計通りの 1 π mmmradという値であることが確認できました。その後、加速器の調整を進め、ほぼ設計ビームエネルギーである7.8GeVまで電子ビームを加速し、アンジュレータ部を経由して、その下流の電子ビームダンプまでビームを輸送することに成功しました(図12)。16番目のアンジュレータ1台の上下の磁石列の距離を40から約5 mmへ縮めて277回蛇行させることにより、この電子ビームからX線を放射させ、 これをXFEL実験ホールの光学ハッチに導きました。 二結晶分光器を用いてX線のエネルギー分布の計測を行った結果、波長が0.8Åであることを確認しました。さらにXFEL専用に開発された2次元検出器 (マルチポートCCD: MPCCD) を用いて、 分光されたX線の空間プロファイルの撮影に成功しました(図3)。これらの観測結果から、アンジュレータの特性がほぼ設計通りであることも確認しました。

今後の期待

今回の試験で、XFELの基本的構成機器の性能が、ほぼ設計通りであることを確認しました。従って調整の精度をこのまま向上していけば、X線の位相をそろえてレーザー増幅を達成できる見通しが得られました。今後は、2011年度末のXFEL供用開始に向け、レーザー増幅の出力飽和の早期達成と、それに続く利用試験の実施に向け、効率的な運転調整を実施していきます。

II. XFEL施設の愛称とロゴ

概要

理研は、2011年度中の供用開始を目指し開発・整備を進めているX線自由電子レーザー(XFEL)施設に、多くの方が親しみを持ってもらえるよう、施設の愛称とロゴマークを2006年に一般公募しました(2006年9月26日発表)。選考の結果、ロゴマークについては採用案を決定しましたが、愛称については451件の応募があったものの、残念ながら既存の名称に類似するものが多く採用にいたる候補はありませんでした。

そこで、2010年10月1日から11月30日までの間、再度一般公募を行ったところ、549件の応募がありました。そのうち、有効応募数は543件で、同名重複を除いた純粋な候補数は493件でした。この493件の候補について、厳正なる選考を行いました。

結果報告

(1)選定結果

愛称:「SACLA」(さくら)
英語表記:同上
※今後、理研はXFEL施設をX線自由電子レーザー施設「SACLA(さくら)」と呼びます。

(2)選定理由
  • 「SACLA」は、SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laserを略したもので、コンパクトで短い波長のX線レーザーを発振できる日本のXFEL施設の特長を的確に表現できている。
  • 日本語の「桜」と同じ音であり、日本らしさを想起させる。
  • XFEL施設と同じ所内に立地するSPring-8が英語のspringから春をイメージさせるため、「SACLA」すなわち桜はSPring-8とも相性が良いと感じられる。
  • アルファベットであり、日本語名と英語名が同一にできる。
  • ほかの科学技術分野の名称・愛称に多く用いられているものと重複がない。
(3)選考方法
  • 第1次選考
    XFEL施設の整備を担当し、理研とJASRIが協力して組織しているXFEL計画合同推進本部(田中正朗本部長)の広報委員会で選考を行った結果、SACLA、SaXLa、SPline-8の3件に絞り込みました。さらに、XFEL施設が立地するキャンパスに関わる方のメーリングリストで投票を行い、上位2件(SACLA、SaXLa)を1次選考通過としました。
  • 最終選考
    XFEL計画合同推進本部の最終決定機関である「本部会議」で、1次選考を通過した2件のうち1件に決定しました。
(4)採用者

愛称の「SACLA(さくら)」は、宮城県の大内孝雄さん、兵庫県の下條竜夫さんの2名の方から応募があったものです。29日に理研のホームページにお二人の名前と在住都道府県を掲載します。後日、記念品をお送りします。

(5)ロゴマークについて

2006年度の愛称・ロゴマーク公募の際に、福岡県の東 信慶さんから応募があった作品を、基本となるデザインとして採用決定しており、今回決定した「SACLA」の愛称と合わせて調整し、正式に決定しました。ロゴマーク(図4)は、電子ビームが直線的に加速する様子や、電子がアンジュレータで蛇行する様子などを表現しています。

愛称のXFEL施設「SACLA」についての、愛称募集キャンペーン、選考結果については、XFEL計画推進本部のホームページに掲載しました。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 X線自由電子レーザー計画推進本部 企画調整グループ
広報担当:馬塚優里
Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
お問い合わせフォーム

財団法人高輝度光科学研究センター 広報室
Tel: 0791-58-2785 / Fax: 0791-58-2786

補足説明

  1. 大型放射光施設SPring-8
    理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の大型放射光施設。SPring-8の名前は<u>S</u>uper <u>P</u>hoton <u>ring-8</u>GeV に由来する。放射光(シンクロトロン放射)は、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。日本の先端科学・技術を支える高度先端科学施設 として、日本国内外の大学・研究所・企業から年間1万3,000人以上の研究者が利用している。
  2. X線自由電子レーザー(XFEL)
    X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free-Electron Laser)は、第3期科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられており、2011年度中の供用開始を目指して、理研の大型放射光施設SPring-8に隣接して整備中である。XFEL計画は、通常のレーザーと異なり、物質に束縛されていない自由電子を用いている。これまでの放射光施設のX線の10億倍の明るさ、1,000分の1という極めて短いフェムト秒(フェムト秒とは時間の単位で、1フェムト秒は1,000兆分の1秒)領域のパルス、100パーセント位相のそろった最短波長0.6ÅのX線領域、といった特徴を持つレーザーを創り出すため、原子の世界を映し出すことができる。基礎・基盤研究だけでなく、産業や国民の生活に役立つ応用研究開発まで、広い研究分野で諸外国に先駆けて革新的な成果を創出することが期待される。具体的には、がんやエイズなどの難病に対する特効薬の開発、持続的発展に必要な新エネルギーシステムの研究、ライフサイエンスやナノテクノロジーの分野など、幅広い分野の発展が見込まれる。
  3. GeV(ギガエレクトロンボルト)
    エレクトロンボルトはエネルギーの単位の1つ。電子1つを1ボルトで加速したときに電子が持つエネルギーが1電子ボルト。ギガは10<sup>9</sup>倍、つまり10億倍を示す。XFEL加速器やSPring-8の加速器は8GeV(80億電子ボルト)という非常に高いエネルギーまで電子を加速している。
  4. Å=Angstrom(オングストローム)
    Å=Angstrom(オングストローム)というのは長さの単位の1つで、100億分の1メートルを意味する。原子の大きさはほぼ1Åであるため、分子や原子のような微細な物質の様子を観察、測定することができる「SACLA」を象徴する長さの単位といえる。
  5. アンジュレータ
    NとSの磁極を交互にハーモニカのように上下に配置して、その間を通り抜ける電子を周期的に小さく蛇行させて明るい特定の波長を持った光を作り出す装置。理研の大型放射光施設SPring-8では、世界に先駆けて開発した真空封入型アンジュレータ、27mにおよぶ長尺アンジュレータなどを整備し、世界最高レベルの放射光発生を実現している。X線自由電子レーザー施設用に開発したアンジュレータは、1台の長さが約5mであり、1台あたり277周期で磁石が交互に配列されている。
X線自由電子レーザーシステムの模式図

図1 X線自由電子レーザーシステムの模式図

電子ビームのプロファイル

図2 電子ビームダンプ入口での電子ビームのプロファイル

X線のスペクトルと空間プロファイル

図3 アンジュレータで発生したX線のスペクトルと空間プロファイル

ロゴマーク

図4 ロゴマークの説明

直線と曲線の構図から、電子ビームが直線的に加速する様子や、電子がアンジュレータで蛇行する様子を表現している。赤丸は自由電 子をイメージしている。交差する曲線はXFELの「X」や電子加速エネルギーである8GeVの「8」を連想させる。「SACLA」の文字は、XFEL施設に隣接する SPring-8と同じフォントタイプにすることで、関連性を持たせている。