1. Home
  2. 広報活動
  3. お知らせ
  4. お知らせ 2011

2011年11月18日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人筑波大学
国立大学法人東京大学
富士通株式会社

京速コンピュータ「京」による成果がゴードン・ベル賞を受賞

-実アプリケーションで実効性能3ペタフロップスを達成-

独立行政法人理化学研究所(理事長 野依良治、以下「理研」)、国立大学法人筑波大学(学長 山田信博、以下「筑波大」)、国立大学法人東京大学(総長 濱田純一、以下「東大」)、および富士通株式会社(代表取締役社長 山本正已、以下「富士通」)による研究グループは、理研と富士通が共同開発中の京速コンピュータ「京」を用いた研究成果を、ハイ・パフォーマンス・コンピューティング(高性能計算技術)に関する国際会議SC11(米国・シアトル開催)で発表し、17日(米国太平洋標準時間/日本時間18日)、ゴードン・ベル賞※1の最高性能賞を受賞しました。

受賞の対象となった成果は、次世代半導体の基幹材料として注目されているシリコン・ナノワイヤ材料の電子状態を計算したものです。現実の材料のサイズに近い10万原子規模(直径20ナノメートル、長さ6ナノメートル)のナノワイヤの電子状態について、計算性能を確認するための量子力学的計算を行い、実効性能※2 3.08ペタフロップス(実行効率 約43.6%)を達成しました。また、10,000個から40,000個の原子規模からなるシリコン・ナノワイヤについて電子状態を詳細に計算した結果、断面の形状によって電子輸送特性が変化することも明らかにしました。

日本のグループによるゴードン・ベル賞の最高性能賞受賞は、2004年に独立行政法人海洋研究開発機構が保有する地球シミュレータ(初代)を用い、地磁気ダイナモシミュレーションを行った神戸大学の陰山聡教授(当時 独立行政法人海洋研究開発機構)らのグループが獲得して以来のことです。

本研究で用いたアプリケーションは、文部科学省「グランドチャレンジプログラム(ナノ分野、代表:分子科学研究所)」で開発されている中核アプリケーションの1つです。

背景

理研と富士通は共同で、文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」計画のもと、2012年11月の共用開始を目指し、京速コンピュータ「京」とそれを利用するための高速な通信用ソフトウエア(MPIライブラリ)の開発を行ってきました。

また、理研、筑波大および東大は、「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクト(現「HPCIの構築」)の開始当初の2006年度から、実アプリケーションによる「京」の性能確認を行うための最適な計算手法とプログラム開発を進めてきました。これまでに、物質のエネルギー状態や電子状態などを求めることができる実空間密度汎関数法(RSDFT)※3高並列コード※4を、計算機シミュレーションにより現象の解明を目指す計算科学分野と計算機利用技術の高度化などを目指す計算機科学分野の研究者が協力することによって効率的に開発しています。今回、スイッチング速度が高く、リーク電流が少ないとされる次世代半導体の材料で、シリコン原子からなる微小な線材「シリコン・ナノワイヤ(図1)」の電子状態について、実際に「京」を用いて計算を行いました。

研究手法と結果

「京」全体の約3分の2のシステムを用いて計算した結果、実効性能3.08ペタフロップスを得ることができました。また、39,696原子のシリコンからなる直径10ナノメートル、長さ10ナノメートルのシリコン・ナノワイヤの電子状態の計算に成功し、この結果を、米国ワシントン州シアトルで11月12日~18日に開催されている「ハイ・パフォーマンス・コンピューティング(高性能計算技術)に関する国際会議SC11(International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis)」で発表し、ゴードン・ベル賞が対象とするいくつかの部門のうち、最高性能賞を受賞しました。

ゴードン・ベル賞は、計算機設計者として著名な米国のゴードン・ベル氏が、並列計算機技術開発の推進のために1987年に創設した賞で、ACM(Association for Computing Machinery、米国計算機学会)※5によって運営されています。毎年、並列計算機を実用的な科学技術計算に応用し、科学的成果を含め優れた成果を出したグループに与えられます。

今年のゴードン・ベル賞の審査では、5件の論文が第1次選考を通過し(ファイナリスト)、その中から研究グループが発表した「『京』による100,000原子シリコン・ナノワイヤの電子状態の第一原理計算」が、最高性能賞に選出されました。最高性能賞は、実用に供するアプリケーションの性能において真に世界最高性能を実現した研究に対して与えられるもので、今回の研究の実用的価値と「京」の実運用での性能が高く評価された結果といえます。

計算対象としたシリコン・ナノワイヤは、電界効果トランジスタ※6の電子の通り道(チャネル)の材料となるもので、約10,000~100,000のシリコン原子から構成され直径が約10~20ナノメートル、長さは約10ナノメートルです。今回の成果は、107,292個のシリコン原子からなるナノワイヤ(直径20ナノメートル、長さ6ナノメートル)に対する、量子論に基づく電子状態計算を世界で初めて行ったものであり、実効性能 3.08ペタフロップス(実行効率 約43.6%)を達成しました。これにより、次世代デバイスのサイズであるナノレベルの高精度シミュレーションが可能となることを示しました。また、約10,000個から40,000個のシリコン原子からなる、円、楕円、ダンベルなどさまざまな断面形状を持つ長さ約10ナノメートルのナノワイヤの電子状態を解明し、電子輸送の特性がナノスケールの形状に大きく依存することを初めて明らかにしました。「京」が行う先端的物質科学計算が、ナノデバイスの設計指針に大きく貢献することを示しています。

今後の期待

京速コンピュータ「京」による実アプリケーションが評価され、ゴードン・ベル賞の最高性能賞を受賞することができました。このことは、今後の科学技術の発展に「京」が大きく寄与することを、国際的な学会が認めたことを意味します。引き続き、シリコン・ナノワイヤの性質を明らかにしていくとともに、今回の成果を他のアプリケーションの高度化にも活かし、「京」がもたらす多様な分野の科学的成果の早期創出に向けて、貢献していきます。

最高性能賞の受賞論文

受賞論文

First-principles calculations of electron states of a silicon nanowire with 100,000 atoms on the K computer
和文:「京」による100,000原子シリコン・ナノワイヤの電子状態の第一原理計算

著者

長谷川幸弘(理化学研究所)、岩田潤一(東京大学)、辻美和子(筑波大学)、高橋大介(筑波大学)、押山淳(東京大学)、南一生(理化学研究所)、朴泰祐(筑波大学)、庄司文由(理化学研究所)、宇野篤也(理化学研究所)、黒川原佳(理化学研究所)、井上晃(富士通株式会社)、三吉郁夫(富士通株式会社)、横川三津夫(理化学研究所)

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構 広報国際室
担当 岡田 昭彦
Tel: 078-940-5625 / Fax: 078-304-4964
aics-koho [at] riken.jp
※[at]は@に置き換えてください。

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

国立大学法人筑波大学 計算科学研究センター 広報室
Tel: 029-853-6260(6487) / Fax: 029-853-6489

国立大学法人東京大学 大学院工学系研究科 広報室
Tel: 03-5841-1790 / Fax: 03-5841-0529

富士通株式会社 広報IR室
Tel: 03-6252-2174

補足説明

  • 1.
    ゴードン・ベル賞
    ゴードン・ベル賞(ACM Gordon Bell Prize)は、並列計算技術の向上を目的にACM(Association for Computing Machinery、米国計算機学会)によって運営され、毎年11月に開催されるハイ・パフォーマンス・コンピューティング(高性能計算技術)に関する国際会議SC11(International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis)で,ハードウエアとアプリケーションの開発において最も優れた成果を上げた論文に付与される賞。
  • 2.
    実効性能
    理論性能であるピーク性能に対して、あるプログラムを実行した時の計算性能が実効性能であり、これが計算機の実質的な性能とされる。
  • 3.
    実空間密度汎関数法(RSDFT)
    多体電子系の物理量を空間的に変化する電子密度の汎関数として表現する密度汎関数法に基づく量子力学的第一原理計算を用いて、物性研究を進展させるために開発された実空間法によるシミュレーション手法。RSDFTは、実空間法による密度汎関数計算コードである。実空間法は、従来の平面波展開法に比べ演算の核となる部分で高速フーリエ変換が必要ないため、並列化の点で有利な手法となっている。
  • 4.
    高並列化コード
    並列数の高い計算機で効率よく実行できるアプリケーションプログラム。
  • 5.
    ACM(Association for Computing Machinery、米国計算機学会)
    米国・ニューヨークに本部を置くコンピュータ科学の著名な学会の1つ。1947年設立。
  • 6.
    電界効果トランジスタ
    増幅作用を示す電子素子の1種で、消費電力が少ないのが特徴。現在多くのコンピュータなどで使われている相補性金属酸化膜半導体(CMOS)回路は、FETの1種であるMOS(金属酸化膜半導体)FETを組み合わせたもの。半導体表面に垂直に加えた電圧によって界面の電気伝導を制御する。
電界効果トランジスタのイメージ図

図1 シリコン・ナノワイヤ材を用いた電界効果トランジスタのイメージ

ゲート部分(黄色)に電圧を加え、酸化物(灰色)を介して、ソースとドレインの間(青)に流れる電流(電子)を制御する。

伝導電子の状態数とエネルギーの関係グラフ

図2 シリコン・ナノワイヤの伝導電子の状態数とエネルギーの関係

シリコン・ナノワイヤの断面形状や側面の滑らかさを変えた時の、横軸の各エネルギーを持つ伝導電子の状態数。

Top