広報活動

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2012年3月26日

理化学研究所

世界最高水準の核分光研究「EURICA(ユ-リカ)」プロジェクトがスタート

-大球形ゲルマニウム半導体検出器を設置完了し、3月28日に稼働-

ポイント

  • 世界最高性能のRIBF、寿命測定装置、ガンマ線検出器を組み合わせたプロジェクト
  • 16カ国・51機関で、数百個の原子核の分光を2013年6月までに一挙に測定
  • 原子核の核構造と元素誕生の謎の解明へ

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)が推進している重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)※1」と、欧州ガンマ線検出器委員会が管理する大球形ゲルマニウム半導体検出器※2を組み合わせた核分光研究※3プロジェクト「EURICA(ユーリカ)」の試験運転を3月28日に開始します。

EURICAは、原子核の核構造(魔法数※4、原子核の変形)の検証や超新星爆発での重元素合成の研究などを目的に、理研仁科加速器研究センターRIBF研究部門と国内外の大学・研究機関が共同で取り組む国際共同研究※5プロジェクトです。このプロジェクトは2011年7月に開始し、検出器の設置など準備作業を進めてきました。2012年2月にはRIBFに設置完了し、3月28日に試験運転を、6月には本格的な実験開始の予定です。

EURICAの心臓部である大球形ゲルマニウム半導体検出器は、7個の高純度ゲルマニウム結晶からなる集合体が球状装置に12台、合計84個配置されています。世界最高レベルのエネルギー分解能と検出効率を併せ持つ検出器で、未知の放射性同位元素(RI)※6のガンマ線崩壊を観測することができます。この検出器と、理研が保有する世界最多(約4,000種)のRIを生成するRIBF、独自開発した世界最高精度の寿命測定装置※7を組み合わせることで、これまで1カ月間かかった核分光実験をわずか40分程で完了させることができます。

プロジェクト稼働期間中(2012年3月~2013年6月末)に数百個ものRIの分光を一挙に測定し、これまで理論計算だけで議論してきた原子核の核構造と元素誕生の謎の解明を目指します。

背景

原子核は、原子の中心に位置した陽子と中性子の固まりで、それらの個数により原子核の性質が決まります。私たちの周りには、金や鉄など自然に存在する安定な原子核が約300個存在しますが、理論的には約10,000個が存在するといわれ、そのほとんどが放射線同位元素(RI)と呼ばれる不安定な原子核です。

理研は2007年、大強度の重イオン加速器施設(RIBF)と、粒子輸送・識別能力に優れた超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)を完成させました。2009年末には、非常に中性子過剰な原子核の崩壊を調べる最初の実験を行いました。3日間で収集した崩壊に伴うベータ線とガンマ線のデータを詳しく解析した結果、①109Nb(ニオブ-109:陽子数41、中性子数68)の変形共存(2011年1月:Physical Letter B696, 186-190)②「超新星爆発は想像以上に速い」証拠をつかむ(2011年2月1日プレス発表)③ジルコニウム同位体の変形魔法数の発見(2011年5月9日プレス発表)④110Mo(モリブデン-110:陽子42、中性子68)の変形(2011年9月: Physical Letter B 704, 270-275)と、次々に興味深い知見を報告しています。

RIBFは、当時最高性能だった米国ミシガン州立大の重イオン加速器施設と比較して、約1,000倍ものRIの生成能力を持っており、これら報告した原子核の魔法数や変形の成果は、RIBFが核構造の研究を急速に推し進めていることを世界中の研究者に強く印象付けました。

RIBFでの核分光研究をさらに加速させるため、欧州ガンマ線検出器委員会(Euroball Owners Committee)が管理する世界最高性能のガンマ線検出器である大球形ゲルマニウム半導体検出器を欧州から受け入れ、国際共同研究プロジェクト「EURICA(EUROBALL RIKEN Cluster Array)」を開始しました。

研究手法

RIBFが生成する不安定なRIは、崩壊に伴ってアルファ線、ベータ線、ガンマ線といった粒子を放出しますが、ベータ線の放出時間を調べることでRIの寿命を、ガンマ線のエネルギーと放出時間と放出確率を調べることで核構造の詳細な情報を得ることができます。大球形ゲルマニウム半導体検出器は、高純度ゲルマニウム結晶が7個集まって1つの集合体を構成し、この集合体が直径約50cmの球状装置に12台、合計84個配置されており、ガンマ線を高いエネルギー分解能で捉えることができます(図1)。これまで理研が保有していたガンマ線の検出器は、合計16個のゲルマニウム結晶で構成していましたが、今回は84個を球形に配置したことで、ゲルマニウム結晶の全体積は、約2,200cm3から約24,000cm3に増加し、ガンマ線検出効率を10倍あげることができました。また、この球状装置の中には、理研が独自開発したRIの寿命測定装置を設置しており、ベータ線を捉えてRIの寿命を測定することができます。これらにより、従来は1カ月間かかった核分光実験をわずか40分程で完了させることができます。

実際に中性子過剰なRIを生成するときには、超伝導リングサイクロトロン(SRC※8)を主体にしたリングサイクロトロン群で光速の70%まで加速した238U(ウラン)ビームを利用します。毎秒109~1010個もの大強度の238Uビームを標的となる9Be(ベリリウム)に照射すると、核分裂反応で、さまざまな陽子、中性子の数を持つ不安定な原子核ができます。一方、陽子過剰なRIを生成するときには、124Xe(キセノン)や78Kr(クリプトン)ビームを9Be(ベリリウム)に照射します。

生成した不安定な原子核の中から、目的のRIを超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)などで分離し、ビームとして取り出します。このビームを最下流にある寿命測定装置に打ち込み、崩壊により放出されるベータ線を測定するとともに、周囲に配置した大球形ゲルマニウム半導体検出器でガンマ線を効率的に測定します(図2)

今後の期待

このEURICAプロジェクトでは、理研が保有する世界最高性能のRIBF加速器施設と寿命測定装置に、欧州ガンマ線検出器委員会が管理する大球形ゲルマニウム半導体検出器を組み合わせ、従来に比べ大規模かつ効率的に最先端の核分光研究を実現させます。2012年にはRIBFの238Uビーム強度を毎秒3×1010個に増加する予定があり、陽子・中性子過剰なカルシウム同位体(原子番号20)から希土類同位体(原子番号~70)までの広い領域でRIBFが世界の核構造研究を独占することになります。プロジェクト終了となる2013年6月末までにできるだけ多くのRIのガンマ線分光のデータを取得し、これまで理論計算だけで議論してきた原子核の核構造と元素誕生の謎の解明に挑戦していきます。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 仁科加速器研究センター 櫻井RI物理研究室
先任研究員・EURICAプロジェクトマネージャー 西村 俊二(にしむら しゅんじ)
Tel: 048-462-1111(内線4855) / Fax: 048-462-4464

主任研究員 櫻井 博儀(さくらい ひろよし)
Tel: 048-462-5362 / Fax: 048-462-4464

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

独立行政法人理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. RIビームファクトリー(RIBF)
    RIビーム発生系施設と独創的な基幹実験設備で構成される重イオン加速器施設。RIビーム発生系施設は、1基の線形加速器、4基のリングサイクロトロンと超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)から構成される。これまで生成不可能だったRIも生成でき、世界最多となる約4,000種のRIを創出できる性能を持つ。
  2. 大球形ゲルマニウム半導体検出器
    欧州ガンマ線検出器委員会(Euroball Owners Committee)の管理するクラスター型のゲルマニウム半導体検出器。ドイツのGSI研究所において、旧RISINGプロジェクトとして使用されていた。非常に高分解能のエネルギー測定が可能となるため、少ない統計量でもガンマ線のエネルギーを精密に測定することができる。例えば、1メガ電子ボルトのガンマ線エネルギーにおいては、半値幅で3keV以下のエネルギー分解能をもつ。<sup>137</sup>Csからの662keVのガンマ線は通常1.3%のところ、約15%の検出効率を持つ。
  3. 核分光研究
    励起された原子核は高いエネルギー準位から低いエネルギー準位に遷移する際にガンマ線を放出する。その準位間のエネルギー差に等しいエネルギーを持つガンマ線を観測することにより原子核の励起状態を調べることが可能になる。
  4. 魔法数
    原子核は、陽子と中性子の数がある決められた数を満たすと、原子核が安定な状態になる。この数を「魔法数」と呼び、今までに「2」「8」「20」「28」「50」「82」「126」が知られている。
  5. 国際共同研究
    世界16カ国からなる51の大学・研究機関の研究者170人以上が参加している。国内(14機関)は、理化学研究所、大阪大学、大阪大学核物理研究センター、東京理科大学、東京大学、東京大学原子核科学研究センター、日本原子力研究開発機構、高エネルギー加速器研究機構、筑波大学、国際基督教大学、京都大学、東京工業大学、東北大学、九州大学。海外は、フランス(7機関)、ドイツ(5機関)、イタリア(4機関)、中国(4機関)、イギリス(3機関)、スペイン(3機関)、スウェーデン(2機関)、アメリカ(2機関)、韓国(1機関)、ユーゴスラビア(1機関)、カナダ(1機関)、トルコ(1機関)、ハンガリー(1機関)、ベトナム(1機関)、ブルガリア(1機関)からなる。
  6. 放射性同位元素(RI)
    物質を構成する原子核には、構造が不安定なため時間とともに放射線を放出しながら原子核が崩壊していくものがある。このような原子核を放射性同位元素と呼ぶ。放射性同位体、不安定同位体、不安定原子核、不安定核、ラジオアイソトープ(RI)とも呼ばれる。同じ元素であっても、中性子の数が相違する原子同士を同位体と呼ぶが、同位体は安定なものと不安定なものに分類される。
  7. 寿命測定装置
    理研で独自開発した位置検出型シリコン半導体検出器を利用した寿命測定装置。生成したRIを検出器中で停止させ、RIが崩壊する際に放出される放射線を効率的に測定する。
  8. SRC
    超伝導リングサイクロトロン。リングサイクロトロンの一種。サイクロトロンの心臓部に当たる電磁石に超伝導を活用し必要な磁場を高める。円形コイルに超伝導を使った例は世界で約10台が稼動しているが、理研が取り組んでいるRIBF計画の新設SRCは、コイルがおむすび形で世界初の例となる。全体を純鉄のシールドで覆い、磁場の漏洩を防ぐ自己漏洩磁気遮断の機能を付与している。総重量は8,300トン。このSRCを使い非常に重い元素であるウランを光の70%まで加速させることを行っている。
EURICAのセットアップ模式図と写真、大球形ゲルマニウム半導体検出器

図1 EURICAのセットアップ模式図(左)と写真(右)、大球形ゲルマニウム半導体検出器(下)

球の中心に設置している寿命測定装置(位置検出型シリコン半導体検出器)でRIとベータ崩壊を検出し寿命を測定する。周囲の大球形ゲルマニウム半導体検出器でRIの崩壊に伴い放出されるガンマ線を効率的に測定する。

大強度重イオン加速器施設

図2 大強度重イオン加速器施設(RIBF)

238U(ウラン)ビームをリングサイクロトロン群(IRC,SRC)で光速の70%(核子当たり345メガ電子ボルト)まで加速し、9Be(ベリリウム)にぶつけて不安定なRIを生成する。RIは、ビームラインを通して陽子数と中性子数の識別を行い、最終的に最下流の大球形ゲルマニウム半導体検出器内にある寿命測定装置に打ち込む。