広報活動

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2014年10月29日

理化学研究所

格子光シート顕微鏡が明かす細胞分裂の仕組み

-生命活動の真の姿を照らし出す新たな蛍光顕微鏡-

ライフサイエンス研究には、生体分子や細胞内部の微細構造の活発な動きを可視化するイメージング技術が欠かせません。しかしこれまで、生体の中で上下左右に素早く移動する分子の挙動や、細やかな細胞の動きを、正確にとらえることは困難でした。分子や多くの細胞内構造の動きは早く、またそれらの大きさは、従来の光学顕微鏡の分解能よりも小さいからです。

光学顕微鏡の分解能の限界は、1873年にドイツのエルンスト・アッベによって求められて以来、100年以上にわたって、超えることは不可能だと考えられてきました。しかし、発想の転換によってこの壁を打ち破る「超解像蛍光顕微鏡」が開発され、その功績に対して3人のパイオニアに2014年度のノーベル化学賞が授与されました。ただし、従来の超解像蛍光顕微鏡は分子の位置を正確に求めることができましたが、撮影に時間がかかるため、生きて活動している生物を撮影することは困難でした。

受賞者の一人、エリック・ベツィグ博士(米国ハワード・ヒューズ医学研究所)は、高い解像度と高速性を兼ね備えた蛍光顕微鏡の開発を続け、今回新たに開発した「格子光シート顕微鏡」について10月24日付で米国の科学雑誌『Science』に発表しました。この論文のなかで、理化学研究所の清末優子ユニットリーダー(発生・再生科学総合研究センター 光学イメージング解析ユニット)が提供した細胞試料を用い、細胞分裂における染色体分配の様子を詳細に解析した結果が紹介されています。

ベツィグ博士らは、独自の手法で、試料を高速にくまなく走査することができる、格子状に配列した微小な励起点からなる厚さ300ナノメートル(1nmは1億分の1m)以下の非常に薄いシート状の光(格子光シート)を作り出しました(図1)。この超薄格子光シートを用いて、1秒間に200枚もの精密な断面像を撮影し、立体再構築することで、かつてない高精度な三次元画映像の再現に成功しました。さらに、この方法では生体に与えるストレスが従来の方法に比べて非常に少ないため、生物の活動への影響を最小限に留めつつ、長時間にわたってありのままの活動を撮影し続けることができます。ベツィグ博士らは、この顕微鏡を用いて、培養細胞やマウス初期胚の内部の分子や、免疫の司令塔であるT細胞の動き、線虫、ショウジョウバエのようなモデル生物の胚が発生していく過程まで、さまざまなスケールでの撮影に成功しました。

一方、本論文の共著者である清末ユニットリーダーは、細胞分裂の仕組みを解明するために、従来の蛍光顕微鏡を用い、染色体と、染色体を分配する細胞内構造(分裂装置)の動きを、蛍光タンパク質で可視化した培養細胞やマウス初期胚を使って観察しようと試みてきました。分裂装置が正確に作動しないと遺伝情報が正しく分配されず、ヒトの発生においてはダウン症などの染色体疾患を引き起こしたり、大人の体内ではがん細胞を生み出したりします。しかし、分裂装置は数100本もの微小管から形成されているため、従来の顕微鏡ではその内部の様子を詳しく調べることができませんでした。この限界は、長年にわたって、細胞分裂の仕組みの詳しい理解を阻んできました。

ところが、ベツィグ博士らが、清末ユニットリーダーが提供した蛍光導入HeLa細胞を格子光シート顕微鏡で観察したところ、新たに伸びだす微小管や染色体一本一本の動きを三次元的に捉えることができたのです(図2)。この精細な画像や動画は今回の論文で取り上げられています。この顕微鏡を使えば、今後、分裂装置が正しく動作して胎児の正常発生を維持する仕組みや、逆に分裂装置の異常な動作ががん細胞を生み出す仕組みなどが新たに解明されていくと期待できます。また、将来、抗がん剤などの薬剤の作用機序の解析や、そこから得られた知識に基づく創薬や治療戦略の策定にも役立つと期待できます。

今回ベツィグ博士らによって開発された顕微鏡は、ライフサイエンス研究に新たな可能性を与えることになります。この顕微鏡はまだ日本国内にはありません。早期に国内に導入し、また製品化により普及を進め、ライフサイエンスの発展に役立てることが期待されます。

試料に照射される格子状に配列された微小励起点からなる光シート

図1 格子光シートによる試料観察の模式図

格子光シート顕微鏡で撮影した分裂する細胞の染色体と微小管伸長の軌跡

図2 格子光シート顕微鏡で撮影した分裂する細胞の染色体と微小管伸長の軌跡

分裂する細胞の染色体(オレンジ)と微小管伸長の軌跡(ボールと線)。
右のグラフは細胞周期ごとの微小管伸長の速度分布を示す。

関連ウェブサイト

ハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute)
※格子光シート顕微鏡で撮影した動画をご覧いただけます。

発表者

独立行政法人理化学研究所
発生・再生科学総合研究センター 光学イメージング解析ユニット
ユニットリーダー 清末 優子 (きよすえ ゆうこ)

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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