広報活動

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2017年1月5日

理化学研究所

世界最高水準の核分光研究プロジェクト「EURICA(ユーリカ)」完了

― 440種もの希少原子核の多様な崩壊データ収集に成功 ―

2012年に開始した、理化学研究所(理研)仁科加速器研究センターの重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)[1]」と、欧州ガンマ線検出器委員会が運用する大球形ゲルマニウム半導体検出器[2]を組み合わせた世界最高水準の国際共同核分光研究[3]プロジェクト「EURICA(ユーリカ)」[4]が、全実験プログラム(実験件数18件、データ収集期間のべ100日)を2016年6月13日に完了しました。

EURICAは、原子核の核構造(魔法数[5]、原子核の変形[6])の検証や超新星爆発での重元素合成[7]の研究などを目的に、仁科加速器研究センター櫻井RI物理研究室の西村俊二先任研究員、櫻井博儀主任研究員らを中心に、20カ国から230名以上の研究者(日本人40名)が参加した国際共同核分光研究プロジェクトです。

EURICA国際共同研究グループ[4]は、世界最高性能の放射性同位元素(RI、不安定な原子核)[8]生成能力を持つRIBFと、同じく世界最高性能を持つ大球形ゲルマニウム半導体検出器、さらに、理研が開発した高性能寿命測定装置「WAS3ABi(ワサビ)」[9]を組み合わせ(図1)、計440種もの希少RIの崩壊データ収集を行いました。この実験によりRIが崩壊する際に放出される電子、γ線、陽子の時間やエネルギーの詳細な測定と相関を調べることに成功しました(図2)。

得られた崩壊データは膨大で、現時点で解析が終了しているのは約2割ですが、すでにこれらの成果をまとめた論文27報を発表しています。得られた成果も多彩で、新同位体元素(7個)の発見に加え、半減期(144個)の決定、核異性体[10](14個)の発見、原子核の励起状態(37個)の測定、遅発中性子放出[11](5個)と陽子放出[12](3個)の発見に成功しています。また、理論計算との比較により原子核の魔法数、変形の研究を進めています。残る約8割の崩壊データの解析を進めることで、今後もEURICA発の興味深い成果の創出が期待できます。

RIBFの性能は、EURICAの進行中にも向上しています。ウランビームの強度は2012年の実験開始時と比べ約6倍に強化されました。RIBFでは、2016年11月から、この強力なウランビームと世界最高水準の中性子測定装置を組み合わせた新たな国際共同研究プロジェクト「BRIKEN(ビーリケン)」[13]を開始しています。BRIKENの目的は中性子過剰な原子核の遅発中性子放出の直接測定です。未知の原子核の核構造の研究に加え、金やウランなどの重元素の起源と考えられている超新星爆発や中性子星同士の合体における爆発的重元素合成(r過程)に関する研究が本格化します。

詳細はこちら

RIBF加速器、BigRIPSビームライン、EURICA実験装置の全体図

図1 RIBF加速器、BigRIPSビームライン、EURICA実験装置の全体像

EURICAでデータ収集した不安定核と半減期を測定した原子核の図

図2 EURICAでデータ収集した不安定核(黄色の□)と半減期を測定した原子核(青い○)

補足説明

  1. RIビームファクトリー(RIBF)

    理研が有するRIビーム発生施設と独創的な基幹実験設備群で構成される重イオン加速器施設。RIビーム発生施設は、2基の線形加速器、5基のサイクロトロンと超伝導RIビーム分離生成装置「BigRIPS」で構成される。世界最多となる約4,000個のRIを生成できる。

  2. 大球形ゲルマニウム半導体検出器

    欧州ガンマ線検出器委員会が運営するクラスター型ゲルマニウム半導体検出器12台を球形に配置した(EURICA用)ガンマ線測定装置。ゲルマニウム半導体検出器はガンマ線エネルギーの精密測定に適しており、それらを多数配置することにより、生成された原子核がたとえ少なくても詳細な原子核分光研究を行うことができる。例えば、放射性同位体137Cs が放出する 662 keV のガンマ線に対し、1台では1.3% のところ 世界最高水準となる約15%の効率でエネルギー測定ができる。

  3. 核分光研究

    励起された原子核は高いエネルギー準位から低いエネルギー準位に遷移する際にガンマ線等の放射線を放出する。そのエネルギー等を測定することで原子核の励起状態を調べる研究手法のこと。

  4. プロジェクト「EURICA(ユーリカ)」、EURICA国際共同研究グループ

    理化学研究所、東京大学をはじめとして、世界20カ国(日本、英国、イタリア、香港、スペイン、フランス、ドイツ、中国、韓国、オーストラリア、カナダ、米国、ハンガリー、スイス、ノルウエー、トルコ、ベトナム、ベルギー、サウジアラビア、チリ)から32の大学・研究機関、230名以上が参加する世界最高性能の核分光研究プロジェクト。共同研究者の内、日本人は40名(17%)となる。2012年6月から本格的に稼働し、2016年6月に18件の全実験プログラムを完了した。
    2012年3月26日プレスリリース 世界最高水準の核分光研究「EURICA(ユーリカ)」プロジェクトがスタート
    EURICA研究成果(EURICAホームページ)

  5. 魔法数

    原子核は、原子と同様に殻構造を持ち、陽子または中性子がある決まった数のとき閉殻構造となり安定化する。この数を魔法数と呼び2、8、20、28、50、82、126が古くから知られている。理研では新たに16、34の魔法数の発見を報告している。
    2000年5月29日プレスリリース 新しい魔法数(マジックナンバー)の発見
    2013年10月9日プレスリリース 「魔法数」を持つ原子核に現れる「特別な核異性体」を発見
    2013年10月10日プレスリリース 重いカルシウムで新しい「魔法数」34を発見
    2014年8月29日プレスリリース 中性子過剰なニッケルの78Niに2重魔法数が健在

  6. 変形

    2007年のRIBF稼働開始後は、より中性子の多い領域での研究が進み、34-38Mg(中性子数 22-26)での大きな変形の発見、中性子過剰ケイ素同位体42Si(元素番号14、中性子数28)での魔法数28消失、ネオン(Ne、元素番号10)・マグネシウム同位体での新型の中性子ハロー(原子核の周りに薄く霧のように中性子が広がっている状態)の発見などの結果から、安定原子核の領域では見られない大きな核構造の変化がこの領域で生じていることが分かっている。
    2009年7月15日プレスリリース 32Ne(ネオン‐32)の大変形観測に世界で初めて成功
    2013年11月20日プレスリリース 消える「魔法数」28
    2015年11月4日プレスリリース 重いクロム・鉄同位体に広がる変形領域

  7. 重元素合成

    超新星爆発時に起きると考えられている元素合成過程のモデル。高速(rapid)に連続して中性子を捕獲しながら崩壊(β崩壊)するため、r過程と呼ばれる。鉄以上の重元素のほぼ半分は、このr過程で生成される。重元素を生成するもう一方のs(slow:低速)過程は、赤色巨星への進化段階でゆっくりした中性子捕獲によって元素合成が行われる。s過程に比べ、r過程は未解明な部分が多い。このr過程が起きる場所の候補として、中性子星同士の融合も提案されている。
    2015年5月12日プレスリリース 重元素合成の鍵を握る中性子過剰核110個の寿命測定に成功

  8. 放射性同位元素(RI、不安定な原子核)

    物質を構成する原子核には、時間とともに放射線を放出しながら安定核になるまで壊変し続けるものがある。このような原子核を放射性同位元素と呼ぶ。放射性同位体、不安定同位体、不安定原子核、不安定核(エキゾチックな原子核)、ラジオアイソトープ(RI)とも呼ばれる。天然にある物質は寿命が無限かそれに近い安定核(安定同位体)で構成されている。

  9. 高性能寿命測定装置「WAS3ABi(ワサビ)」

    理研が開発した高性能寿命測定装置。1mmの位置測定能力を特徴とするシリコン半導体検出器(60 x 40平方mm)8枚を重ね合わせた構造になっており、捕集したRIが崩壊時に放出するベータ線を高感度で検出し位置と時間を決定する。

  10. 核異性体

    比較的長い寿命を持つ励起状態にある原子核。通常の励起状態がピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)程度で崩壊するのに対し、核異性体はナノ秒程度から、長いものでは年単位の寿命を持つ場合もある。「異性体」という言葉は、もともとは化学の分野で分子全体の化学組成は変わらずに原子配列が異なる状態に対して用いられていた。

  11. 遅発中性子放出

    中性子過剰な原子核がβ崩壊する際に娘核の中性子分離エネルギーより大きいエネルギーを持つ場合に中性子が放出されること。

  12. 陽子放出

    陽子過剰な原子核が崩壊する際に陽子を放出すること。2002年に鉄-45が2つの陽子を同時に放出する新しい「放射性崩壊様式」が発見され、2005年に亜鉛-54でも同様の現象が報告されている。

  13. プロジェクトBRIKEN(ビーリケン)

    理研と米国オークリッジ国立研究所、スペイン カタルーニャ工科大学、ドイツ GSI研究所が共同で140本のヘリウム-3(3He)ガス検出器を利用した最高性能中性子検出器BRIKEN(Beta-delayed neutron emission measurement at RIKEN、下図)を製作しRIBFに導入する。β崩壊にともない放出される遅発中性子放出の測定を行う。約65%の非常に高い中性子検出感度が特長。数百種ものRIの遅発中性子測定を目指している。

    最高性能中性子検出器BRIKEN(Beta-delayed neutron emission measurement at RIKEN)の図

発表者

理化学研究所 仁科加速器研究センター 櫻井RI物理研究室
先任研究員 西村 俊二 (にしむら しゅんじ)
主任研究員 櫻井 博儀 (さくらい ひろよし)

EURICA国際共同研究グループのメンバーの写真

EURICA国際共同研究グループのメンバー(一部)。写真中央最前列が西村先任研究員、写真左から2番目が櫻井主任研究員

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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