広報活動

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2017年7月18日

理化学研究所

大強度バナジウムビームの生成と加速に成功

-119番元素生成のための重要関門をクリア-

要旨

理化学研究所(理研)仁科加速器研究センター イオン源開発チームの中川孝秀チームリーダー、日暮祥英仁科センター研究員らの共同研究チームは理研28GHz超伝導ECRイオン源[1]を用いてバナジウムビームを大強度で生成し、理研リングサイクロトロン(RRC)[2]を用いて生成したイオンビームを光速の約11%まで加速することに成功しました。119番元素[3]の合成に必要なバナジウムビームに求められる強度と速度を満たしたことで、新元素生成のための重要な関門をクリアしたといえます。

2016年に113番元素「ニホニウム(Nh)」[4]など4つの新元素が認定・命名され、118種類の元素から成る周期表の第7周期までが完成しました。今後は、119番以上の新元素の発見と、これらを含む非常に重い元素(超重元素)の物理的・化学的な性質の解明を目指した研究が行われます。理研仁科加速器研究センターでは超重元素研究をより強力に推進すべく、RIビームファクトリー(RIBF)[5]重イオン線形加速器「RILAC」(ライラック)[6]を増強し、イオンビームを大強度化・高エネルギー化する計画を進めています(図1)。

森田グループ[7]はバナジウム(V:原子番号23)ビームをキュリウム(Cm:原子番号96)標的に衝突させ、119番元素の合成を目指す予定です。その合成確率は非常に小さいため大強度のバナジウムビームが必要になりますが、これまで仁科加速器研究センターでは大強度バナジウムビームが生成できませんでした。

そこで今回、RILAC増強計画で新設するものと同型の28GHz超伝導ECRイオン源(図2)を用いて、大強度バナジウムビームの生成に取り組みました。研究チームは、イオン源中で2,000℃以上まで加熱することのできる「るつぼ」を開発しました(図3)。このるつぼを用いて気化したバナジウムをイオン化し、12価のバナジウム(V12+)を100μA以上の強度でイオン源から取り出すことに成功しました。さらに、イオン源より取り出したバナジウムビームを、RRCを使用して光速の11%(核子あたり6.0MeV)まで加速することにも成功しました。RRCから取り出されたバナジウムビームの強度は37μA(≒3.1pμA(1パーティクルマイクロアンペアは1秒間に約6.2×1012個のイオンが通過する電流強度))で、世界に先駆けて大強度ビームの生成に成功しました。これは119番元素の合成に必要な重要な関門の一つである大強度バナジウムビームの開発に成功したと言えます。

今回開発された手法は、現在進めているRILAC増強計画でも用いられる予定です。今後、共同研究チームは120番元素の合成に向けてクロムなどバナジウム以外の金属イオンビームの開発も進めていく予定です。

詳細は仁科加速器研究センターの ページ

理研RIビームファクトリーの加速器群の図

図1 理研RIビームファクトリーの加速器群

重イオン線形加速器(RILAC)は、増強工事中である。今回、バナジウムビームは28GHz超伝導ECRイオン源で生成され、小型線形加速器(RILAC2)と及びリングサイクロトロン(RRC)によって光速の11%(核子あたり6.0MeV)まで加速された。RILAC2は2011年に導入され、これまで主としてウランやキセノンといった非常に重いイオンビームの加速に使用されてきた。


超伝導ECRイオン源と構成装置とイオン源の断面図

図2 超伝導ECRイオン源と構成装置とイオン源の断面図

RILAC増強計画で新設するイオン源と同型の28GHz超伝導ECRイオン源。閉じ込め磁場を生成する超電導マグネット(断面図中の超電導コイルからなる)、プラズマの過熱に使用されるマイクロ波の発生装置、イオンを引き出したのちに必要なイオンビームを分別するための粒子分析用電磁石等で構成される。


開発したるつぼの図

図3 開発したるつぼ

タングステンるつぼの中に、バナジウムと高温で反応しにくい酸化アルミニウムの皿(アルミナ皿)を挿入し、その中に金属バナジウムを入れる。るつぼに電流を流し抵抗加熱により温度を上昇させ、金属バナジウムを加熱し気化させバナジウム蒸気を発生させる。


※共同研究チーム

理化学研究所 仁科加速器研究センター
加速器基盤研究部
イオン源開発チーム
チームリーダー 中川 孝秀 (なかがわ たかひで)
仁科センター研究員 日暮 祥英 (ひぐらし よしひで)

運転技術チーム
チームリーダー 福西 暢尚 (ふくにし のぶひさ)
専任技師 山田 一成 (やまだ かずなり)
専任技師 渡邉 環 (わたなべ たまき)

加速器高度化チーム
チームリーダー 奥野 広樹 (おくの ひろき)
先任技師 大西 純一 (おおにし じゅんいち)

サイクロトロンチーム
チームリーダー 坂本 成彦 (さかもと なるひこ)

加速器基盤研究部
部長 上垣外 修一 (かみがいと おさむ)

補足説明

  1. 超伝導ECRイオン源

    超電導ソレノイド磁石等が発生させる磁場で囲まれた領域にマイクロ波を導入し、気体または固体を加熱しプラズマを生成する。磁場中でマイクロ波の周波数と同期してサイクロトロン運動を行う電子が加速され、効率良くイオン化が行われる事を利用したイオン発生装置。超電導磁石を用いるため、従来の常伝導磁石では困難であった高磁場(最大3.8T)の発生が可能であるため、プラズマの閉じ込め効果を高めプラズマの密度を上げることができ、大強度多価イオンビーム生成が可能となる。ECRとはElectron Cyclotron Resonanceの略。

  2. 理研リングサイクロトロン(RRC)

    RIビームファクトリーの初段に位置する重イオン用のリングサイクロトロン。1986年に稼働した。4基の電磁石と2基の加速空洞などから構成される。サイクロトロンの偏向能力を表すK値は540MeVである。

  3. 119番元素

    原子番号119番の元素で、人類未踏の第8周期に属すると考えられている。

  4. 113番元素「ニホニウム(Nh)」

    原子番号113番の元素。理化学研究所において2004年、亜鉛(Zn:原子番号30番)とビスマス(Bi:原子番号83番)との融合反応によってはじめて合成に成功、存在が確認された。その後、理研では2005年と2012年に合成され、2016年に新元素名「ニホニウム」、新元素記号「Nh」として認定された。

  5. RIビームファクトリー(RIBF)

    理研が所有する重イオン加速器施設で、水素からウランに至る全ての元素の放射性同位元素(RI)をビームとして供給する。RIビーム発生施設と独創的な基幹実験設備群で構成される。RIビーム発生施設は2基の線形加速器、5基のサイクロトロンと超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)からなる。これまで生成不可能だったRIも生成することができ、世界最多となる約4,000個のRIを生成する。

  6. 重イオン線形加速器「RILAC(ライラック)」

    高周波電場を用いて、荷電粒子(イオンや電子)を直線的に加速する加速器のこと。イオンを加速する線形加速器では、多数のチューブ型電極が空洞の中に直線上に並べられている。電極の長さと高周波の周波数は、電極間の電場の向きがイオンの到達時間に同期して変わるように設計され、電極間を通過するたびにイオンは加速されていく。RILACは重イオンを加速するために、低い周波数(18~45MHz)で運転できるようになっており、また多種のイオンに対応するため周波数を変えることができる(可変周波数構造)。通常のイオン線形加速器はパルス運転であるが、RILACは連続運転ができるため、平均ビーム強度が非常に高い。RILACはRIKEN Linear Acceleratorの略。

  7. 森田グループ

    理化学研究所、九州大学、山形大学、新潟大学、東北大学、大阪大学、埼玉大学、原子力研究機構、フランス(Institut Pluridisciplinaire Hubert CURIEN (IPHC))の研究者が参加。(2017年6月現在)

問い合わせ先

理化学研究所 仁科加速器研究センター イオン源開発チーム
チームリーダー 中川 孝秀 (なかがわ たかひで)
仁科センター研究員 日暮 祥英 (ひぐらし よしひで)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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