中心研究者からの挨拶
“More is different.”という高名な物性理論家フィリップ・アンダーソンの言葉があります。これは、たくさんあるということは1個のものと本質的に違うということを言っています。例えば物質の究極の形を深く追っていく学問があると同時に、ある粒子――それは分子でもいいし、原子でもいいし、電子でもいい――それ自体がいろんな多自由度を持ってたくさんあるということは、非常に新しい、質的に新しい概念が必要になります。それは1個の研究からは決して到達できないような範疇のものになります。強相関量子科学においては、まさにこの学理の解明とその先端工学への応用を視野にプロジェクトを実施します。
中心研究者 十倉 好紀
プロジェクト概要
- 固体中で強く相互作用する多数の電子:強相関電子系は、従来の半導体・金属物理学の延長では説明不能な多くの驚くべき物性・機能応答の創発(emergence)を示します。本プロジェクトではこれら強相関電子のもつ多自由度の絡み合いを制御して、エネルギーの高効率変換やエネルギー消費を伴わない量子状態(情報)の制御など、未踏かつ革新的な電子物性機能を創製することを目的とします。
具体的には
(A)モットロニクス基礎(強相関電子系の金属・絶縁体相転移をナノスケールで利用する技術学理)
(B)強相関創発物性(電気-磁気-熱-光の相互の入出力応答の巨大化)
(C)エネルギー非散逸性電子技術原理(スピン流、分極電流などのエネルギー非散逸性量子流を利用)
の重要課題の3つのサブテーマについて、最先端の(a)量子設計理論、(b)物質創製・物性開拓、(c)量子ビーム(軌道放射光・中性子)計測 などの手法を戦略的かつ包括的に重畳させることで、独創的な物性科学の構築と未踏技術原理の検証を行います。
組織図 (2012年5月時点)
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平成22年度における研究の実施状況
- 平成22年度は3つのサブテーマに関して以下のような進捗があった。
- 「モットロニクスの基礎」に関して、その根幹技術であるヘテロ接合系の金属絶縁体転移について、理論と実験の両面から基礎を固める研究を推進した。各種の重要な系でのモット転移を理論的に詳細に調べ、材料選択やデバイス構造設計指針を明らかにした。また、強相関太陽電池の理論基盤を確立し、その基本動作を検証した。さらに超格子を含む薄膜技術を駆使し、モット転移の実証を行った。また電気二重層を用いたトランジスタの研究を推進し、従来と異なる動作原理によるモットトランジスタの実証に成功した。
- 「強相関創発物性」においては、ローレンツ電子顕微鏡を用いて(FeCo)Si、FeGeにおいてスキルミオン格子の実空間観測、相安定性を調べた。また、層状遷移金属ニクタイドの合成に成功し、熱電性能指数を最適化した。また転移温度の制御されたW:VO2薄膜において、熱調光機能を実証した。さらに金(111)単結晶上の鉄薄膜の角度分解光電子分光によってスピン軌道円二色性増大を見出した。白金に対して円偏光軟X線角度分解光電子分光を行い、バンド分散におけるスピン偏極に関する知見を得た。層状コバルト酸化物に対して、その磁気状態を明らかにした。また、層状銅フッ化物に対して共鳴非弾性軟X線散乱を行い、オービトンの検出に成功した。
- 「エネルギー非散逸性電子技術原理」においては、電子状態計算のプログラムの開発と高速化に取り組み、これを活用してBiTeIの巨大スピン分裂の起源とする諸物性を計算した。トポロジカル絶縁体に関して特異な電気磁気結合、また超伝導体との近接効果とアンドレーフ反射の理論を発展させた。放射光X線や中性子回折を用いてMnGe YMnO3等の結晶構造・磁気構造を決定した。X線回折イメージングではビーム径100nmで1010/sを超える光子束を達成した。
- また、研究成果の公布のために理論フォーラムトピカルミーティングと国際シンポジウムの2つの国際会議を主催した。また年度毎の研究成果概要をまとめた。
| 平成22年度収支状況の概要 |
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平成21年度における研究の実施状況
- 平成21年度はプロジェクト開始が平成22年3月10日、終了が平成22年3月31日までであり、具体的な研究成果を得るには至ってないが、支援体制固めと平成22年度からの本格的研究活動の始動に向けて準備を行った。研究支援に関して平成22年3月24日の午後、理化学研究所和光研究所において、共同実施機関との間の協定書(覚書)ならびに今後必要となる共同研究契約などに関する打ち合わせを行った。平成21・22年度実施計画のために大型装置の予備検討を行い、また研究の流れに応じた研究項目の設定、工程等について検討をおこなった。
- 予算の実行を伴った、実質的な活動としては3月30日-31日に渡って、仙台市においてキックオフ会議を行った。本研究課題に関する主たる実施者、協力者が一堂に会し、強相関量子科学に関する現状と今後の計画について講演し議論をおこなった。またこの機会に本研究課題のサブテーマリーダー川崎教授の本務先である東北大学原子分子材料科学高等研究機構・金属材料研究所/超構造薄膜化学研究部門の研究室見学会を実施した。
| 平成21年度収支状況の概要 |
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