プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
植物のフラボノイドの構造を決定する酵素を発見
- 植物の抗酸化成分を活用する健康機能増強に期待 -
平成19年2月22日
◇ポイント◇
  • 植物体のフラボノイドパターンを決定する配糖化酵素UGT89C1を発見
  • バイオインフォマティクスによって効率的に目的遺伝子を探索
  • 植物フラボノイドを人為的に改変することにより健康増進の機能向上に期待
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、植物の主要な抗酸化物質であるフラボノイド群の最終的な構造(フラボノイド成分パターン)を決定する酵素遺伝子を発見しました。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)代謝機能研究チームの榊原圭子研究員、メタボローム解析チームの峠隆之リサーチアソシエイトおよび両研究チームリーダーでもある斉藤和季グループディレクターらによる研究成果です。
 フラボノイドは、活性酸素の除去、抗がん作用、高血圧の改善、抗アレルギー作用などの健康増進機能をもつポリフェノールの一種です。花や果実の色素成分であるアントシアニン、ダイズに含まれるイソフラボン、そばのルチン(フラボノール)等が一般的によく知られています。植物中でフラボノイドが安定に蓄積するためには、配糖化酵素によってフラボノイドの骨格に糖を付加することが必要です。糖付加に関与する一部の遺伝子は既に見つかっていますが、比較的ゲノムサイズの小さいシロイヌナズナでさえ、配糖化酵素は107種類もあり、正確な機能をもつ遺伝子を探すのは困難でした。
 今回の研究では、遺伝子共発現解析※1というバイオインフォマティクス手法を用い、シロイヌナズナのフラボノイド成分パターン決定に最も大きく関わっている配糖化酵素※2(UGT)遺伝子を効率的に選定しました。その結果、最も可能性の高いUGT89C1遺伝子を見つけ、この遺伝子が発現しなくなった変異株ではフラボノイドの一つであるフラボノールのうち、7位にラムノース(自然界に存在する糖の一種)を付加したフラボノールが欠損し、野生株には存在しない新規のフラボノール化合物が蓄積していたことがわかりました。すなわち、今回同定した遺伝子から発現する酵素は、植物のフラボノイド成分パターンを決定する重要な酵素であると言えます。
 今後、さらに多くの種類のフラボノイド配糖化酵素が見つかれば、フラボノイドの人為的な改変が可能になり、植物フラボノイドによる健康増進機能向上の可能性が期待できます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal of Biological Chemistry』2月22日のオンラインにプレビュー版が掲載されました。


1. 背 景
 フラボノイドは、活性酸素の除去、抗がん作用、高血圧の改善、抗菌・抗ウイルス作用、抗アレルギー作用などの健康増進機能をもつポリフェノールの一種です。古くから、人類は、フラボノイドを含む植物の葉や果実を民間薬として利用してきました。花や果実の色素成分であるアントシアニンをはじめダイズに含まれるイソフラボン、そばのルチンもフラボノイドの仲間で、現在までに6,000種類以上のフラボノイドの構造が明らかにされています。
 フラボノイドは(一部の例外を除いて)グルコース、ラムノース、キシロースなどさまざまな糖を付加することによって植物体に蓄積することができます。言い換えれば糖を付加できないと植物はフラボノイドを生産する能力があっても蓄積できません。シロイヌナズナではフラボノイドの構造から少なくとも9種類の糖の付加に関わる配糖化酵素遺伝子(UGT)の存在が示唆されていますが、このうち既に明らかになっているのは4種類だけです。全ゲノム配列が解読されたことでモデル植物であるシロイヌナズナやイネに存在するUGTの遺伝子配列やその存在数は明らかになりました。しかしながら、比較的ゲノムサイズの小さいシロイヌナズナでさえ、UGT遺伝子は100種類以上有ります。またフラボノイドだけでなく他の二次代謝物質も糖付加のターゲットであることから、どのUGT遺伝子がどの物質に関係しているか推定することは困難でした。


2. 研究手法と成果
 研究チームは、公共データベースを利用したバイオインフォマティクス技術である遺伝子共発現解析を使い、フラボノイド合成に関与する遺伝子群と発現パターンがよく似たUGT遺伝子を検索し、シロイヌナズナの107種類のUGT遺伝子から6種類を候補として絞り込みました(図1)。このうち2種類は既知のフラボノイドUGT遺伝子でした。機能の不明なUGTのうちフラボノイド生合成系遺伝子と最も相関の高かったのはUGT89C1(ユージーティー89シー1)遺伝子でした。このUGT89C1遺伝子が機能しなくなったシロイヌナズナ変異体を分析したところ、植物の葉と根のフラボノイド成分のパターンが大きく変化していました(図2)。これを野生型植物と比較すると、変異体ではフラボノール主要骨格の7位(図3)にラムノースの付加したフラボノール化合物が欠損すると同時に、野生型植物では見られない新規のフラボノール化合物を検出しました。さらに、大腸菌で発現させたUGT89C1組換えタンパク質を用いた実験を実施し、このUGT89C1が新規のフラボノールの7位にラムノースを転移する働きを持つことがわかりました。


3. 今後の期待
 主要骨格の7位にラムノースを有するフラボノイドは、自然界の全フラボノイド種の約11%を占めており、UGT89C1遺伝子が機能しない植物体では野生型には見られない新規のフラボノール化合物を蓄積します。これらのことから、今回機能を同定したフラボノールの7位にラムノースを転移する酵素は、植物のフラボノイドパターンを決定する重要な酵素といえます。6,000種以上存在するフラボノイドが持っている一つ一つの生理機能は、はっきりとは証明されていませんが、様々なUGT遺伝子が同定されれば、これらの遺伝子発現を改変することによって、フラボノイドの人為的な改変が可能になり、植物フラボノイドによる健康増進機能の向上が期待できます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 植物科学研究センター
  代謝機能研究グループ代謝機能研究チーム
  メタボローム基盤研究グループメタボローム解析研究チーム
   グループディレクター・チームリーダー 
    斉藤 和季(さいとう かずき)

Tel: 045-503-9488 / Fax: 045-503-9489
  代謝機能研究グループ代謝機能研究チーム
   研究員 榊原 圭子(さかきばら けいこ)
 横浜研究推進部企画課

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 遺伝子共発現解析
複数の遺伝子の発現パターンの相関の程度(相関係数:+1から−1までの数値で表される)を基準として、機能が未同定の遺伝子群から目的の遺伝子を見つけ出す解析手法。多くの場合、同一の生合成経路に属する遺伝子群は協調的に発現することから、相関係数が高い遺伝子群は、同一もしくは近接する経路、あるいは同時期に起こっている反応に関連する可能性が高いと考えられる。
※2 配糖化酵素
配糖化酵素とは天然の化合物(フラボノイド、テルペノイド、植物ホルモンなど)に糖(グルコース、ラムノース、キシロースなど)を転移する酵素。天然の化合物は配糖化により、親水性が増したり、安定化したり、不活性化することから、化合物の蓄積やその機能の制御に関与していると考えられている。


図1フラボノイド生合成に関与する遺伝子とUGT遺伝子の相関
フラボノイドのうち、フラボノールとアントシアニンの生合成に関与する遺伝子(黄色およびピンク色の背景)とその配糖化に関与するUGT遺伝子(水色の背景)との発現パターンの相関を調べた。相関係数が0.6以上の関係である遺伝子を互いに線で結んである。(相関係数が0.6未満のUGT遺伝子は省略した。)107種のUGT遺伝子のうち、フラボノールあるいはアントシアニンの生合成に関与する可能性のある遺伝子はそれぞれ4遺伝子、2遺伝子であることがわかる。


図2 野生株と変異株におけるフラボノールの分析結果
野生株と変異株の葉と根を用いてフラボノールの一種であるケンフェロールを、高速液体クロマトグラフィー−質量分析計(LC−MS)を用いて分析した(縦軸は物質の存在量に比例する質量分析計での検出イオン量、横軸は溶出時間)。変異株ではf1、f2、f3にあたるケンフェロール誘導体が検出されなかった。f1、f2、f3に共通する構造は7位にラムノースが付加していることであることから、変異株では7位にラムノースを転移する酵素遺伝子が機能していないことが予想できた。また、この変異体では、シロイヌナズナでは通常見られない新規のフラボノール化合物(赤矢印で示した)を蓄積していることがわかった。


図3 フラボノールの構造
フラボノールのうち、ケンフェロールの構造を示した。数字はそれぞれ主要骨格の3位、5位、7位を示している。

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