プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
植物遺伝子実験材料の串刺しデータベース「SABRE」を公開
- “スーパー作物”の開発に貢献するためのツールを確立 -
平成19年6月26日
◇ポイント◇
  • 「SABRE(セイバー)」でポプラ、タバコなど4種の類似遺伝子情報を串刺し
  • 個々の植物の遺伝子から、互いに似た機能を持つ遺伝子の探索が可能
  • シロイヌナズナで得られた機能解析の情報・実験方法を、有用作物の開発に活用
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、植物(シロイヌナズナ、ヒメツリガネゴケ、ポプラ、タバコ)の植物間の遺伝子情報を横断的に検索できるデータベース「SABRE(セイバー)※1」を開発、公開しました。これは、理研バイオリソースセンター(以下BRC、小幡裕一センター長)情報解析技術室の深海 薫(ふかみ かおる)室長と同センター実験植物開発室の小林正智室長らが開発しました。
 地球温暖化などの環境問題による耕地の減少、人口爆発による食料問題が深刻化する中、こうした課題の解決を強く意識して生産性の高い“スーパー作物”作出のための研究が進められています。この一連の研究で特に重要なのは、塩害、冷害など厳しい環境に耐えるために働く遺伝子や、たくさんの実(種子)をつけることに関係する遺伝子といった、作物として有用な性質を担う遺伝子の探索です。近年のモデル植物を用いた遺伝子解析研究の成果はめざましく、これらの有用な遺伝子が、特にシロイヌナズナにおいて明らかにされてきています。したがって、シロイヌナズナの有用遺伝子と相同性のある作物の遺伝子を探し、品種改良することで、栽培に適した有益な作物をつくる手がかりを得ることができます。
 開発グループは、実験植物開発室が提供している4種類の植物遺伝子リソース(シロイヌナズナ、ヒメツリガネゴケ、ポプラ、タバコ培養細胞)を、遺伝子配列の類似度をもとに、植物間で互いに似た機能を持つと思われる遺伝子を串刺しにしたデータベース SABREを開発しました。SABREを用いると、たとえば遺伝子の機能解析が進んでいるシロイヌナズナの情報を、改良しようとする個々の植物の遺伝子の機能推定に活用することができます。同時に、有用な機能を持つ遺伝子情報をもとに、他の植物でそれと似た機能を持つ遺伝子リソースを探すことができます。今後、大豆や白菜などの作物遺伝子もSABREで取り扱う準備を進めており、幅広い植物種から役に立つ“スーパー作物”の作出に貢献できる有益なツールとなることが期待できます。
 本データベースは、理研BRC実験植物開発室のホームページより、6月27日に公開する予定です。


1. 背 景
 人類は農耕を開始して以来、長い年月をかけて、より有利な性質を持つ植物を選抜し続け、新たな有用作物として栽培してきました。近年のバイオテクノロジーの進歩により、そうした植物の性質が、遺伝子によって決まっていることがわかってきました。植物遺伝子の機能解析は、モデル植物としてシロイヌナズナを用いて進んできています。シロイヌナズナは雑草ですが、いろいろな点から研究用に優れている※2ため、解析が進められてきました。この15年ほどの間に、植物の数多くの課題※3が、シロイヌナズナを用いて研究され、さまざまな遺伝子の機能※4が明らかにされてきています。
 このようなシロイヌナズナの研究成果は、有用作物の品種改良へも利用可能ですが、そのためには、品種改良では何が課題で、それにはどんな研究成果が利用できるのか、両者の関連性がわかる必要があります。しかし今日の植物研究のほとんどは、それぞれの種で独立に行われており、その成果の1つであるデータベースもまた、種ごとに構築されているのが現状です。
 そこで、種ごとに存在する植物データベースを種横断的に検索し、シロイヌナズナ研究で蓄積した知見を他の植物の研究に活用できるようにするため、SABREを開発しました。


2. データベースの概要
 シロイヌナズナでは、そのゲノム配列や遺伝子などの情報が、アメリカを中心とした植物科学の研究者の国際的な連携によってTAIR(テア)※5 と名づけたデータベースにまとめられ、研究者に公開されています。SABREでは、このTAIRの遺伝子配列データを「串」にして、類似の配列を持つ植物の遺伝子リソースを、遺伝子ごとに串刺しにしました。
 具体的には、理研BRCで提供している植物遺伝子リソース(シロイヌナズナ、ヒメツリガネゴケ、タバコの培養細胞、ポプラ)が持つ遺伝子配列情報と、シロイヌナズナTAIRの遺伝子配列との類似度を調べ、その結果をSABREに集約しました(図1)。BRC実験植物開発室では、シロイヌナズナに関して、遺伝子や種々のノックアウトラインの種子を、またヒメツリガネゴケ、ポプラ、タバコの培養細胞に関しては遺伝子を収集・保存・提供しています。
 開発したSABREは、検索をかけたBRCの植物遺伝子リソースに似た配列を持つTAIRの遺伝子、さらにそのTAIRの遺伝子から類似の配列を持つ全てのBRCリソースを、瞬時に引き出すことができます。BRCリソース番号※6、AGIコード※7あるいはキーワードを入れることで、相同な遺伝子配列を持つ植物の、例えば有用物質の代謝酵素などのリソースを探し出すことができます(図2)。また、このSABREを用いることで、4つの植物リソースの遺伝子に相同性のあるシロイヌナズナ遺伝子のくわしい機能を知ることができ、さらにその遺伝子が植物にどんな影響を及ぼすのかを予測することができます。SABREでは、有用作物の作出に欠かせないこうしたデータを得ることができ、新品種開発に大きなヒントを与えています。
 これらのデータベースには、特別なツールは不要で、家庭などで利用している一般のウェブブラウザ(インターネットエクスプローラ、ファイアフォックスなど)を用いてアクセスすることができます。
 このようにSABREは、シロイヌナズナ研究者のために作られたTAIRデータベースの情報をBRCのリソースデータベースと統合することにより、他の植物の研究者にも容易に活用できるようにしたものです。BRCのリソースデータベースからは個々の実験材料の特性や入手方法が得られるので、SABREによって得られた情報から、それをもとに行う実験に必要な情報もまた、SABREを用いて得ることができます。


3. 今後の期待
 SABREは、モデル生物での研究成果を、種を超えて活用するのに必要な情報をもたらします。今後SABREに大豆や白菜などの作物遺伝子の情報を取り込み、モデル植物研究と作物の品種改良研究の間の垣根を取り払い、農業的に重要な作物の品種改良に貢献できるツールとして発展させる予定です。このシステムを利用して、将来的にはBRCが提供しているマウスなどの動物リソース版SABREの開発にもつなげていきたいと考えています。


<報道担当・問い合わせ先>
(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 バイオリソースセンターセンター 情報解析技術室
  室長 深海 薫(ふかみ かおる)

Tel: 029-836-9123 / Fax: 029-836-9028
 バイオリソースセンターセンター 実験植物開発室
  室長 小林 正智(こばやし まさとも)

Tel: 029-836-9048 / Fax: 029-836-9053
筑波研究推進部 企画課 片桐 健(かたぎり たけし)

Tel: 029-836-9142 / Fax: 029-836-9100

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 SABRE(セイバー)
Systematic consolidation of Arabidopsis and other Botanical Resource。
SABREでは、TAIRとBRCリソースデータベースを、両者が持つ遺伝子配列の類似度をもとに関連づけている。配列の類似度は、各植物遺伝子リソースが持つ配列情報をクエリにして、cDNAの塩基配列にblastn、cDNAの翻訳アミノ酸配列にblastx検索を行うことで調べられた。blastn、blastxはどちらも、バイオインフォマティクスで配列の相同性検索を行う際に、世界で最もよく用いられているプログラムである。SABREにはblastn、blastx検索の結果が格納されている。そして指定された条件に従い、検索結果から条件にかなうものを抽出し、表形式にして表示するような仕組みとなっている。
SABREという名前は、「串刺し」のイメージから決めた。(BRCの小幡裕一センター長がフェンシングの名選手であったことも命名の大きな決め手となった。SABREのイメージロゴ(図1)は、センター長のフェンシング選手としての専門的助言をもとにデザインが決定された。)
※2 シロイヌナズナの優れている点
1) 栽培が容易で、植物体も小さいため、室内で蛍光灯などによって育てることができる
2) 一世代が3ヶ月程度と短く、交配実験等の遺伝学解析に有利なこと
3) ゲノムサイズが小さく、既に全塩基配列が決定されていること
4) 世界中の研究者が用いているため、多くの知見が蓄積していること
5) 公開されているノックアウト植物を入手することができ、また様々な変異体が作られていること
※3 近年に見られる植物科学の問題解決例
1) 花の形態形成のメカニズムの解明
2) 植物の生長に関係する植物ホルモンの作用機構の分子レベルの理解
3) 外界からのストレスに対する植物独自の防御機構の解明
など。
応用面で、
1) 腐りにくいトマトの作出
2) 乾燥耐性植物の作出(糖やプロリンなどを蓄積させることによる)
3) 耐虫害植物の作出(虫が消化しづらいタンパク質を作る植物)
4) 除草剤耐性の植物の作出(薬剤耐性遺伝子を持つ)
など、多くの品種改良した植物はシロイヌナズナによる基礎研究による知見から進められた。
※4 近年明らかにされた遺伝子の機能
1) 植物が持つ赤色光や青色光の受容体遺伝子の発見
2) 乾燥や塩害に耐えるために必要な様々な遺伝子の発現をコントロールする分子スイッチとなるタンパク質遺伝子
※5 TAIR(テア)
The Arabidopsis Information Resource
TAIRデータベースの特色は、豊富な情報量と情報の正確さ、情報整備の質の高さにあり、世界中のあらゆるシロイヌナズナ研究の情報基盤として利用されている。ヒトやマウスなどと異なり、シロイヌナズナの情報拠点はTAIRの一箇所で、世界中のシロイヌナズナ研究で得られた情報がTAIRに集約されていると言っても過言ではない。
※6 BRCリソース番号
BRCで保存、提供しているリソースにはBRCにおける固有の番号が付いている。実験植物開発室が提供する遺伝子クローン、種子にもその番号が付与されている。
※7 AGIコード
The Arabidopsis Genome Initiative gene code
シロイヌナズナの個々の遺伝子についているIDナンバーのようなもので、これによりシロイヌナズナの遺伝子が統合されており研究の推進に役に立っている。


図1 SABREのイメージ
シロイヌナズナ、ヒメツリガネゴケ、タバコ培養細胞、ポプラの植物リソースを、シロイヌナズナのデータベースTAIRが串刺しにしている。


図2 SABREの構造
SABREは、シロイヌナズナ、ヒメツリガネゴケ、タバコ培養細胞、ポプラの植物リソースの遺伝子配列を、TAIRを介して関連づけている。SABREはそれらの情報を格納したデータベースである。


>>拡大図
図3 SABREの検索画面
調べたい情報を、検索条件や評価基準、検索したい分子を入力してSABREで検索した結果が、リソースごとにカラムに表示され、TAIRの遺伝子情報が表示される。それぞれの遺伝子名をクリックすると、遺伝子配列のアライメント(TAIRとリソースの遺伝子配列を、どの部分が類似しているかわかるように並べて表示したもの)やリソースの詳細を閲覧できる。

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