◇ポイント◇
- 患者の急性骨髄性白血病を再現する「白血病ヒト化マウス」を開発
- 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が白血病再発の原因と判明
- 白血病幹細胞の性質をあきらかにして新しい治療の開発に着手
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、ヒト急性白血病の幹細胞を用いてマウスに病態を再現することに成功し、細胞周期のゆっくりとした白血病幹細胞が白血病を形成していき、この幹細胞の抗がん剤耐性が白血病再発の原因となることを突き止めました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)ヒト疾患モデル研究ユニットの石川文彦ユニットリーダーと、九州大学医学部附属病院、米国ジャクソン研究所、かずさディー・エヌ・エー研究所、虎の門病院、Carl Zeiss(カール・ツァイス)社, Becton Dickinson(ベクトン・ディッキンソン)社との共同研究による研究成果です。
これまで白血病やがんは、非常にはやい速度で無秩序に細胞分裂を繰り返し増殖するがん細胞が、病気の原因と考えられてきました。しかし、近年、急性骨髄性白血病には、ごくわずかの白血病幹細胞が含まれ、この白血病幹細胞がもとになって、ほかの大多数の白血病細胞を作り出しているということがわかってきました。
研究チームは、急性骨髄性白血病の患者から、白血病幹細胞を採取し、生まれたばかりの免疫能力のないマウスの血管に入れることで、患者の白血病状態を再現する「白血病ヒト化マウス」を作製しました。このマウスを使って白血病幹細胞の性質を調べたところ、幹細胞は骨髄の両端の骨皮質と接する場所に存在し、ゆっくりとした細胞周期で増殖していました。この白血病幹細胞は、増殖や分裂の早い腫瘍細胞を殺す目的で開発されてきた抗がん剤に抵抗性を示すことから、白血病再発の主要な原因であることがわかりました。白血病細胞の中でも、ごく一部の白血病幹細胞を殺すことこそが、今後の白血病治療をより完全なものにすると考えられます。
この白血病ヒト化マウスを利用すると、患者の白血病細胞に、どの抗がん剤がどの程度効くかを実験的に調べることが可能になります。また、マウスの中で患者の白血病細胞を増やし、創薬に利用するなどの応用が期待できます。本研究で得られた成果は、白血病幹細胞を有効に死滅させる新規治療法の確立に向けた、第一歩となります。
本研究の成果は、米国の科学雑誌『Nature Biotechnology』オンライン版(10月21日付け:日本時間10月22日)に掲載されます。
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背 景 |
急性骨髄性白血病は、血液や骨髄の中に異常な白血病細胞が増え、正常な血液細胞や免疫細胞が作れなくなってしまう病気です。成人の白血病の中で最も発症率が高く、10万人に3人程度と言われています。その治療は、抗がん剤によってがん細胞を死滅させる化学療法と、自分自身や他人の骨髄、臍帯血を用いた移植医療が中心ですが、白血病の症状がいったん認められなくなった後も再発の可能性があることが課題となっています。
従来、白血病やがんは、急速に増えるがん細胞が原因と考えられてきました。しかし近年、急性骨髄性白血病には、ごくわずかの白血病幹細胞が存在し、この白血病幹細胞がもとになって、ほかの大多数の白血病細胞を作り出しているということがわかってきました。
研究チームは、これまでに、免疫能力をもたない免疫不全マウス(NOD/SCID/IL2rgnull)が生まれた直後に、ヒトの造血系幹細胞を移植して、ヒトの免疫系をマウスの体内で再構築する「免疫系ヒト化マウス」の作製に成功してきました(Blood, Vol.106 1565-1573, 2005, Nature Rev. Immunol. Vol.7, 118-130, 2007)。本研究では、この「免疫系ヒト化マウス」の技術を応用し、急性骨髄性白血病の患者の病態をマウスに再現することに挑みました。
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研究手法と成果 |
まず研究チームは、急性骨髄性白血病の患者の骨髄液から、白血病幹細胞(hCD34+CD38−細胞)を選別し、生まれたばかりの免疫不全マウスの血管に注射しました。すると、約1,000個の白血病幹細胞を注射した場合でも、移植後時間が経過するとマウスの血液中でヒト白血病細胞が増加し、貧血、血小板減少など、ヒトの急性骨髄性白血病と同じ症状を発症しました。さらに、この発症したマウスから改めてヒト白血病幹細胞を採取して、次のマウスへ移植(2次移植)、というように移植をくり返したところ、2次・3次移植を受けたマウスでも同様の所見が見られました。このことから、ひとりひとりの患者の白血病を複数のマウスに再現できたことがわかりました。
一方、白血病を発症させる能力を持たない幹細胞以外の白血病細胞(hCD34+CD38+細胞やhCD34−細胞)を移植した場合は、数100万個の細胞をマウスに注射して移植しても、白血病は発症しませんでした(図1)。このことから、白血病を発症する原因は、白血病幹細胞に選択的に存在することが明らかとなりました。
続いて研究チームは、患者の白血病治療を再現するため、白血病を発症したマウスに抗がん剤を投与しました。白血病を発症しない幹細胞以外の白血病細胞は抗がん剤で効率よく死滅しましたが、白血病幹細胞は70〜80%程度が死滅することなく、生き延びていることがわかりました(図2右上)。生き延びた白血病幹細胞は、またあらたにマウスに白血病を発症させることから、白血病幹細胞の抗がん剤に対する抵抗性が急性骨髄性白血病の再発の主要な原因であることが判明しました。
白血病幹細胞が抗がん剤に耐性を示す原因を追求するため、細胞の分裂、増殖する際に必要なタンパク結合などを解析したところ、白血病幹細胞だけが非常にゆっくりと分裂することがわかりました(図2右下)。このことから、白血病幹細胞は、従来の白血病やがんの概念と異なり、ゆっくりと分裂することによって抗がん剤からの攻撃をまぬがれていると考えました。また、白血病幹細胞が、骨を形づくる骨芽細胞と接着することで抗がん剤から守られている現象(図2左)も、白血病治療を再現したマウスを用いることで明らかとなりました。
このように、患者の白血病が体のなかでどのように発症し、実際の治療によって、どのようなことが起きているかを、マウスで再現することが可能となりました。この手法を利用して、ひとりひとりの患者の白血病の性質を理解するとともに、この白血病幹細胞を標的とした新しい創薬にむけての試みを開始しました。
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今後の展開 |
患者の病態を再現する白血病ヒト化マウスを利用すると、患者の白血病細胞にどの抗がん剤がどの程度効くかを実験的に証明する、いわゆるテーラーメード医療のプロトタイプが成立します。また、マウスの中で患者の白血病細胞を増やし、それぞれの患者の細胞バンクを作り、白血病幹細胞を標的とした新しい創薬に利用する、などの応用が期待できます。
研究チームは、白血病幹細胞を有効に死滅させる治療法の確立に向けて、さらなる研究を進めていきます。
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| (問い合わせ先) |
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独立行政法人理化学研究所 |
| 免疫・アレルギー科学総合研究センター |
| ヒト疾患モデル研究ユニット ユニットリーダー |
| 石川 文彦(いしかわ ふみひこ) |
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| Tel | : |
045-503-9448 |
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Fax | : |
045-503-9284 |
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| 横浜研究推進部 企画課 |
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| Tel | : |
045-503-9117 |
/ |
Fax | : |
045-503-9113 |
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| (報道担当) |
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独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当 |
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| 図1 患者の白血病を再現する白血病ヒト化マウスの作製方法 |
| 患者の骨髄から取り出した幹細胞を、生まれたばかりの免疫不全マウスに移植することによって、患者の病気を再現する白血病ヒト化マウスを作製することできる。それぞれの患者に最適な治療を決定するテーラーメード医療の実現、白血病の根源であり白血病再発の原因とも言える白血病幹細胞を標的とした新しい治療法の開発など、新しい医療の創出に期待が寄せられている。 |
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| 図2 骨髄で抗がん剤抵抗性を示す白血病幹細胞とそのメカニズム |
| 写真は、白血病幹細胞から白血病を発症したマウスの骨の様子。死んだ細胞を茶色に、生きている細胞をブルーに区別する特殊な染色をしている。骨皮質といわれる固い部分は赤く、骨髄にある白血病細胞は紫に見え、白血病細胞が骨髄全体に増殖していることがわかる。白血病ヒト化マウスに抗がん剤を投与すると、骨髄の中心部に隙間が生じるのは、細胞分裂の早い増殖性の白血病細胞が抗がん剤のため死に、小さくなるからである。しかし、白血病幹細胞が存在する骨の皮質に接している部分は、生きた細胞がぎっしりと詰まっており、白血病幹細胞が残存している。骨髄の中央にある増殖性白血病細胞が死んだものの、骨皮質に接している白血病幹細胞は多く死んでいないことがわかる。これが白血病再発の原因であると示唆された。これらの白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性は、幹細胞がゆっくりとしか分裂しないことが大きな原因であることが判明した。 |
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