| 2. |
研究手法と成果 |
| (1) |
SCFCdc4ユビキチンリガーゼによって分解されるタンパク質の同定 |
| 細胞内で分解すべきタンパク質を識別して、分解に導く機能を持つSCFCdc4ユビキチンリガーゼに結合して分解されるタンパク質を探索しました。このような探索には、通常イースト2ハイブリッド法※7が用いられます。SCFCdc4ユビキチンリガーゼを構成しているタンパク質の中で、分解されるタンパク質と結合する性質を持つCdc4タンパク質を釣り針にして、これに結合するタンパク質を拾い上げます。本研究では、目的のタンパク質が分解しないように、遺伝学的な方法を用いてタンパク質が安定化するように改良しました。この方法を用いて拾い上げたタンパク質の中から実際にSCFCdc4ユビキチンリガーゼによって分解される新規の標的タンパク質を3種類同定しました。この中に、カルシニューリンの阻害因子Rcn1(酵母のRCAN1)が含まれていました。 |
|
| (2) |
カルシニューリンの阻害因子Rcn1の分解機構の解明 |
Rcn1のリン酸化と分解の関係について、以下のことが明らかとなりました(図1)。
 |
Rcn1のリン酸化部位であるセリン残基をリン酸化されないアラニン残基に置換した変異型Rcn1は、SCFCdc4ユビキチンリガーゼにより分解されない。すなわち、リン酸化したRcn1だけが、SCFCdc4ユビキチンリガーゼにより分解される。 |
 |
カルシウムによって活性化するタンパク質リン酸化酵素であるMck1の活性が低下した変異株では、Rcn1はリン酸化されない。すなわち、Rcn1のリン酸化はMck1によって行われている。 |
 |
一方、カルシニューリンの活性が低下した変異株では、リン酸化したRcn1が増加する。すなわち、カルシニューリンが、リン酸化したRcn1の脱リン酸化を行っている。 |
以上のことから、Rcn1の分解はSCFCdc4ユビキチンリガーゼに依存し、Mck1によるリン酸化によって促進され(阻害因子の分解経路)、カルシニューリンによる脱リン酸化によって抑制される(阻害因子の分解抑制経路)ことがわかりました。
|
|
| (3) |
阻害因子Rcn1の分解によるカルシニューリン活性制御機構の解明 |
カルシニューリンの活性を、正常な細胞と、SCFCdc4ユビキチンリガーゼの活性が低下してRcn1を分解することができない変異細胞を用いて、比較しました。カルシニューリンに依存して転写される遺伝子のmRNAの量を継時的に測定した結果、以下のことが明らかとなりました。
 |
変異細胞では、カルシニューリンの活性は低く、活性を保持している時間も短い。 |
 |
変異細胞では、一度活性化したカルシニューリンが再活性化されない。 |
以上のことから、Rcn1の分解は、カルシニューリンの活性を適切に制御するために必須であることがわかりました。
|
|
| これらの結果をもとに、研究ユニットは、カルシニューリンの活性制御機構を解明しました(図1)。カルシウムで活性化されたカルシニューリンは、自身の阻害因子Rcn1を合成します(阻害因子の合成経路)。また、カルシニューリンは、リン酸化したRcn1を脱リン酸化することによりRcn1を安定化します(阻害因子の分解抑制経路)。これら2つの経路は細胞内のRcn1の量を増加させ、その結果、カルシニューリン活性を阻害することになります。一方、カルシウムはリン酸化酵素Mck1を活性化し、Rcn1をリン酸化します。リン酸化されたRcn1はSCFCdc4ユビキチンリガーゼによって分解され(阻害因子の分解経路)、その結果、カルシニューリンは活性化することになります。今回、カルシウムが、これら3つの経路を動かしながらカルシニューリン活性を調節していることが明らかとなりました。この制御機構で重要なことは、「阻害因子の合成経路」と「阻害因子の分解抑制経路」がカルシニューリン活性に依存していることです。カルシニューリンの活性が高いときはRcn1の量を増やしてカルシニューリンの活性にブレーキをかけます。また、カルシニューリンの活性が低いときはカルシニューリンの活性に依存しない「阻害因子の分解経路」が相対的に優位となり、カルシニューリンの活性をあげます。 |
| ※1 |
カルシニューリン |
| カルシウムによって活性化されるタンパク質脱リン酸化酵素。カルシウムによって制御されているT細胞の活性化、心臓の形成、細胞分裂、行動記憶などの現象に必要な遺伝子群の発現を活性化する。 |
|
| ※2 |
RCAN1 |
| カルシニューリンの活性をフィードバック阻害する阻害因子。酵母からヒトまで広く保存されており、酵母ではRcn1と呼ばれている。ヒトではDSCR1(Down syndrome critical region 1)あるいはMCIP(Modulatory calcineurin-intercating protein)などと呼ばれている。 |
|
| ※3 |
フィードバック制御 |
| 酵素活性を制御するメカニズムの一つ。酵素反応によって自身の活性を阻害する因子を生産し、阻害因子の濃度が上がると自動的にその酵素活性を阻害する制御機構で、多くの生命現象に用いられている。 |
|
| ※4 |
T細胞 |
| 免疫応答に関与するリンパ球の一つ。抗体を合成する能力はないが、抗原と反応して様々な調節を行う。T細胞に障害を与えると、免疫不全、自己免疫、アレルギーなどを多発する。 |
|
| ※5 |
FK506 |
| カルシニューリン活性を阻害する化合物。カルシニューリンの活性を阻害することによりT細胞の活性化を抑える。臓器移植時の拒絶反応抑制剤として用いられる。 |
|
| ※6 |
SCFCdc4ユビキチンリガーゼ |
| もともとは細胞周期を制御するタンパク質として同定されたSkp1、Cdc53、Cdc4などからなるタンパク質複合体で、細胞内で分解すべきタンパク質を識別してユビキチンと呼ばれるタンパク質で標識するユビキチンリガーゼの一つ。特に、細胞周期や細胞内情報伝達、遺伝子の転写、発生・分化などの生命現象で分解されることが重要なタンパク質をユビキチンで標識する。ユビキチンで標識されたタンパク質は、タンパク質分解酵素複合体であるプロテアソームによって分解される。 |
|
| ※7 |
イースト2ハイブリッド法 |
| タンパク質間相互作用を検出するための方法の一つ。対象としている2つのタンパク質の結合を酵母細胞内で検出する方法。 |