プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
世界最大規模:キャッサバ(タピオカ)完全長cDNA約11,000種を同定
- 環境ストレス処理したキャッサバから完全長cDNAライブラリを作製 -
平成19年12月6日
◇ポイント◇
  • キャッサバの完全長cDNA約11,000種を同定、うち1,500種は植物として新規
  • デンプン代謝、環境ストレス応答に関係するキャッサバ遺伝子を推定
  • バイオ燃料の開発、食料問題解決の糸口に
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、国際農業研究協議グループ(CGIAR)傘下の研究機関国際熱帯農業センター(本部:コロンビア共和国カリ市、ヨアヒム・フォス(Joachim Voss)センター長)と協力して、有用作物キャッサバ(タピオカ)※1の完全長cDNA※2約11,000種を同定しました。キャッサバにおいて完全長cDNAの情報が大量に公開されるのは、今回が世界で初めてで、遺伝資源の収集規模としても世界最大です。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)ゲノム情報統合化ユニットの櫻井哲也ユニットリーダー、植物ゲノム発現研究チームの関 原明チームリーダーらによる研究成果です。また、国際熱帯農業センターの石谷学研究員らのグループとの連携で進めてきました。
 世界人口が増加を続けている現在、食糧問題の解決のために、作物増産は非常に重要な課題です。しかし、気象環境の変化(降水地域、降水量、乾燥地域の拡大)、土壌の劣化(酸化、地下水位の低下、塩蓄積)などにより、作物を良好に生育できる適地が失われ続けています。このため、これまで農地として適さないとしてきた問題のある土地でも作物を生育させる必要があり、作物増産の大きな課題となっています。熱帯低木キャッサバは、乾燥、酸性土壌、貧栄養土壌という問題のある土地での栽培が可能であることから、食糧問題解決の糸口と期待される作物です。特に、キャッサバはアフリカ大陸の人口の40%、2億5,000万人の基本食糧で、最も重要な作物の一つであると言われています。
 さらに、世界的な問題として地球温暖化現象があります。二酸化炭素などの温室効果ガス排出の削減に向け、化石燃料に替わる循環型エネルギー「バイオ燃料※3」の開発に期待が寄せられています。キャッサバは、バイオ燃料の原料(デンプン)としても優れた植物であることが知られています。
 研究では、分子生物学のあらゆる解析の基本となるEST※4について、公共のデータベースで既に利用可能なキャッサバデータとほぼ同数を、新たに追加しました。これを他植物データと比較することで、デンプン代謝、環境ストレス応答に関係するキャッサバの遺伝子を示しました。遺伝子の実在を示す大量のESTは、米国で進行中のゲノム配列決定プロジェクト、DNAマイクロアレイ※5開発などのゲノム研究※6、トランスクリプトーム研究※7に貢献すると期待されます。また、米国ビル&メリンダ・ゲイツ財団が支援するキャッサバプロジェクトにcDNA情報を提供することが決まっており、この研究成果が育種の現場に活用されることが期待されます。
 本研究成果は、英国の科学雑誌『BMC Plant Biology』に近くオンライン掲載されます。


1. 背 景
 毎年7,000万人もの世界人口が、増加を続けている現在、作物増産は非常に重要です。しかし、地球温暖化による降水地域、降水量の変化、乾燥地域の拡大や耕地の酷使による酸化、地下水位の低下、塩蓄積といった土壌劣化により、1年間に500万ヘクタール(日本の農地面積とほぼ同じ)もの耕地が、作物の生育に適さない土地へと変わり、失われています。このため、これまで農地として適さないとしてきた問題のある土地での作物生育を可能にすることが、作物増産にとって大きな課題の1つとなっています。
 熱帯低木キャッサバ(タピオカ)(写真1)は、全世界でおよそ10億人の人々の食糧源であり、アフリカ、東南アジア、中南米を中心とした国々で盛んに栽培され、その年間生産量は1億6,300万トンにのぼります。乾燥地、酸性土壌、貧栄養土壌での栽培が可能であるうえに、トウモロコシやイネなど他のデンプン作物と比べても、単位面積あたりの収穫量が多いことから、食糧問題解決の糸口と期待される作物です。特に、国連のミレニアム開発目標の対象であるアフリカ大陸の多くの国がキャッサバを主食としており、病害虫や環境ストレスに対する抵抗性を高めるための品種改良は重要です。この食糧問題解決、貧困追放と関連して、米国ビル&メリンダ・ゲイツ財団とロックフェラー財団の支援のもと、「アフリカの緑の革命のための連合」という新たなイニシアチブも最近とられています。
 さらに、世界的な問題として地球温暖化現象があります。温暖化現象の原因となっている二酸化炭素などの温室効果ガス排出削減に向け、化石燃料に替わる循環型エネルギー「バイオ燃料」の開発が注目されています。このバイオ燃料としてもキャッサバは、サトウキビ、トウモロコシ、パーム、トウゴマなどと同様に原料として優れた植物であると期待されています。
 特にキャッサバは、様々な悪環境下での生育が可能であり、デンプンの高い生合成能力を持つことから、植物全般の環境ストレス耐性、生産性の向上に関わる有用遺伝子の探索やそのメカニズム解明に適する作物と考えられます。


2. 研究手法と成果
 乾燥、高温、酸性土壌条件などの環境ストレスを与えたキャッサバ植物体を材料として完全長cDNAライブラリを作製しました。キャッサバの試料は、国際熱帯農業センターが準備しました。このライブラリから約20,000種の完全長cDNAを単離し、5′末端および3′末端から約35,000種 のESTを解読しました。得られたESTを類似性に基づいて分類し、重複を除くことで約11,000種のキャッサバ完全長cDNAを同定しました。その重複頻度を調べたところ、多くのクローンにおいて重複が見られませんでした(図1)。これは、研究グループが多様な遺伝子を獲得したことを意味します。また、既知のキャッサバ遺伝子と比較した結果、約5,000種の新規キャッサバ遺伝子を獲得していたことがわかりました。さらに、他植物との比較をした結果、そのうち約1,500種は植物の遺伝子としても新規であることがわかりました。
 双子葉モデル植物シロイヌナズナの全遺伝子情報と今回発見したキャッサバの遺伝子を既知の代謝経路図へ対応させ、比較したところ、高い一致性を示しました。これは、今回同定したキャッサバ遺伝子は、植物遺伝子として偏りのない全体的なものを獲得できたことを意味します。特にキャッサバ研究において強い関心が持たれているデンプン代謝経路については、約80%の一致性を示しました(図2)。シロイヌナズナでストレス応答に関係すると報告されている遺伝子44種と比較してみると、キャッサバでは、高い相同性を示す遺伝子32種を単離したことがわかりました。これらの結果は、本研究で作成したキャッサバ完全長cDNAライブラリが多様性に富むだけでなく、キャッサバ特有のメカニズム解明の手がかりになりうる有用な遺伝資源であることを示しています。
 なお、本研究で得たESTは日本DNAデータバンク(DDBJ)へ、配列決定時の測定データは米国のNCBI Trace Archiveへ登録を完了しており、誰でも自由に利用できる状況となっています。


3. 今後の期待
 米国では、2007年からキャッサバのゲノム配列決定プロジェクトが進行中です。しかし、ゲノムの塩基配列だけでは、遺伝子を予測、同定するには不十分であり、遺伝子の機能の裏付けのためには転写産物であるcDNAデータが有効です。また、網羅的な遺伝子発現解析に用いるDNAマイクロアレイあるいはDNAマーカー※8の開発にも、大量のcDNA情報が必要です。このように、多くの期待を集めているキャッサバの遺伝子と、その機能を知るための大量のESTが、ゲノム、トランスクリプトーム研究に重要な情報資源を与えることになります。
 また、有用作物キャッサバの持つ様々な環境ストレスへの耐性、デンプンの高効率な生合成メカニズムを解明することで、他の作物においても生育可能な土壌の拡大と収量増へつながると期待されます。さらに、国際熱帯農業センターなどの国際的なキャッサバ研究グループと連携し、ゲノム育種への利用を進めていきたいと考えています。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 植物科学研究センター ゲノム情報統合化ユニット
  ユニットリーダー  櫻井 哲也(さくらい てつや)

Tel: 045-503-9488 / Fax: 045-503-9489
 横浜研究推進部 企画課

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 キャッサバ(タピオカ)
学名はManihot esculentaでマニオク、マニホット、タピオカとも呼ばれる。高さ2〜3mのトウダイグサ科の熱帯低木。芋(根)は長さ30〜70cm、直径5〜10cmで幹の根元に放射状に実り、食用、デンプン原料として使用される。タピオカココナッツミルクやパールミルクティなどのデザート材料としても馴染み深い。葉は長さ10〜15cmで掌のように裂が入る。茎を畑に突き刺すだけで繁殖し、乾燥地、酸性土壌にも耐え、他のデンプン作物よりも単位面積当たりの収穫量が高い。
※2 完全長cDNA
cDNAとは、ゲノムDNAの中から不要な配列を除き、タンパク質をコードする配列のみに整理された遺伝情報物質であるmRNA(メッセンジャーRNA)を鋳型にして作られたDNAのこと。完全長cDNAは、断片cDNAと異なり、タンパク質を合成するための設計情報をすべて有しているため、タンパク質を合成することができる。
※3 バイオ燃料
温室効果ガス排出削減の見地から、二酸化炭素を光合成によって炭水化物へと固定する植物を燃料にすれば、大気中の二酸化炭素量を増加させないという「カーボンニュートラル」の考えに基づく循環型エネルギーとして注目されている。生物を原料として作られる燃料の総称で、サトウキビ、トウモロコシなどのデンプンや糖を原料とする「バイオエタノール」、ナタネ、パームなどの植物油を原料とする「バイオディーゼル」に大別される。
※4 EST
Expressed Sequence Tag。cDNAライブラリからランダムに選んだクローンの5′末端あるいは3′末端から数百塩基程度の配列を決定したもの。
※5 DNAマイクロアレイ
別名DNAチップとも呼ばれ、数万に区切られたスライドグラスやシリコン基盤の上に、DNAの部分配列を高密度に固定化したもの。この実験器具を用いることにより、数万にも及ぶ遺伝子発現を一度に検出することが可能となる。
※6 ゲノム研究
ゲノム(genome)とは、ある生物種が持つ遺伝情報(gene)の総体(-ome)をさす。ゲノム研究とは、ある生物種のゲノムDNA塩基配列の決定のほか、ゲノム上の遺伝子コード領域の特定などをさす。
※7 トランスクリプトーム研究
トランスクリプトーム(transcriptome)とは、ある生物種のゲノムDNAから転写されたRNA(transcript)の総体(-ome)をさす。トランスクリプトーム研究とは、cDNAの収集、DNAマイクロアレイを用いたmRNAの量的変化解析などをさす。
※8 DNAマーカー
塩基置換やDNA配列の繰り返し数の違いなど、他のDNA配列と区別でき、指標として用いることが可能なDNA配列をさす。生物個体の遺伝的性質、もしくは系統(個体の特定、品種など)の目印となる。


写真1 キャッサバ
(左)キャッサバ畑。(右上)全体。(右下)収穫した芋。


図1 獲得した完全長cDNAの高い多様性
遺伝子あたりの平均重複数は1.83で、約8,000種の完全長cDNAは重複していないことを示す。これは、このcDNAライブラリが多様性に富み、非常に品質が高いことを意味する。
縦軸は、重複したmRNA数で、数値が大きくなる(下へ行く)ほど同じ遺伝子を収集していることを意味する。横軸は遺伝子の数で、横軸をすべて加算すると約11,000種となる。


>>拡大図
図2 双子葉モデル植物シロイヌナズナの代謝経路図(デンプン、糖代謝)
緑色はシロイヌナズナ遺伝子での対応、赤色はそのうち本研究で獲得したキャッサバ遺伝子での対応を示す。他の代謝経路についても、キャッサバの遺伝子はシロイヌナズナで対応した部分の半数以上にマップした。デンプン、糖などの1次代謝については、概ね生物で共通していると考えられている。今回、キャッサバ研究において強い関心が持たれるデンプン代謝経路については約80%を獲得していることになる。

<< 戻る [Go top]
copyright (c) RIKEN, Japan. All rights reserved.