プレスリリース 独立行政法人 理化学研究所
免疫の要「NF-κB」の活性化シグナルを増幅する機構を発見
- リン酸化酵素「IKK」が正のフィーッドバックを担当 -
平成19年12月17日
◇ポイント◇
  • NF-κB活性化に新しい概念を提唱
  • フィードバック機構の主役は、IKKとアダプタータンパク質CARMA1
  • 自己免疫疾患やがん、免疫不全などへの応用に期待
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、免疫細胞において、細胞増殖やがんの誘導に関わる転写因子「Nuclear Factor-κB (NF-κB)」の活性化シグナルを増幅するフィードバック機構を発見しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)分化制御研究グループの黒崎知博グループディレクターと篠原久明研究員らによる研究成果です。
 細菌などの病原体が身体に侵入してくると、免疫系がそれを異物(抗原)として認識・排除するための様々な反応を発動します。B細胞による抗体の産生は、その重要な反応のひとつです。B細胞の表面にある抗原受容体(BCR)が抗原を受け取ると、細胞内でシグナルが誘導されます。シグナルは、多様な経路をたどり、核内に伝わって、機能、増殖、分化を決定する転写因子を活性化します。活性化した転写因子は、B細胞の活性化や免疫応答に必要な遺伝子を発現させます。転写因子であるNF-κBは、このようなB細胞活性化の中心的役割を担っています。したがって、NF-κBの活性化に関わる分子が欠損すると、免疫不全を招き、逆にNF-κBの過活性は、自己免疫疾患やがんを誘導します。このことから、NF-κB活性化の機構を理解し、適切に調節することが、これらの病気を制御するために大切と考えられます。
 これまで、NF-κBの活性化には、IKKというリン酸化酵素が関わることが知られていました。研究チームは、B細胞でNF-κBが活性化する機構を調べ、IKKがNF-κB活性化シグナルのフィードバックループを形成し、シグナルを増幅していることを発見しました。このようなNF-κB活性化の機構は、これまで知られていなかった全く新しいものです。
 NF-κB活性化シグナルの増幅機構を調節することによって、これまで困難であった、NF-κB活性の上昇や減少といった微妙な調節が可能となることが期待できます。自己免疫疾患やがん、免疫不全など様々な疾患を人為的に制御するために、有効なターゲットであると考えられます。
 本研究の成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Experimental Medicine』オンライン版(12月17日付け:日本時間12月17日)に掲載されます。


1. 背 景
 細菌などの病原体が身体に侵入してくると、免疫系がそれを異物(抗原)として認識・排除するための様々な反応を発動します。B細胞による抗体の産生は、その重要な反応のひとつです。B細胞の表面にある抗原受容体(BCR)が抗原を受け取ると、細胞内でB細胞の機能、増殖、分化などを決定するシグナルを誘導します。シグナルは、多様な経路をたどり、核内の転写因子を活性化します。活性化した転写因子は、B細胞の活性化や免疫応答に必要な遺伝子を発現させます。転写因子である「NF-κB」は、B細胞の活性化に関与し、この過程の中心的役割を担っています。NF-κBの活性化に関わる分子が欠損すると、免疫不全を招き、逆にNF-κBの過活性は、自己免疫疾患やがんを誘導することが知られています。このことから、NF-κB活性化の機構を理解し、適切に調節することが、これらの病気を制御するために大切と考えられます。
 B細胞抗原受容体からどのようにシグナルが伝わって、NF-κBの活性化まで至るのか、この数年間に盛んに研究されてきました。NF-κBの活性化には、α、β、γの3つのサブユニットからなる「IKK※1」というリン酸化酵素が重要です。また、腫瘍形成に関与するとされるアダプタータンパク質「Bcl10」、およびBcl10と結合して複合体を形成し、リンパ球の活性化に関わるアダプタータンパク質「CARMA1※2」が必須であることも明らかになってきました。さらに、最近になって、研究チームは、CARMA1には、Bcl10の他にTAK1という酵素が会合すること、そして、このTAK1がIKKを活性化し、その結果、NF-κBの働きが活発になる、という経路を明らかにしました(J Exp Med, Vol.202 1423-1431, 2005)(図1)。
 本研究では、さらに、CARMA1がどのようにIKKの活性化を調節するのか、B細胞を使って詳細に研究しました。


2. 研究手法と成果
 B細胞の抗原受容体が抗原を受け取ると、その刺激によって、PKCβという酵素がCARMA1をリン酸化します。PKCβによってリン酸化したCARMA1は、Bcl10やTAK1と複合体を形成し、下流のIKK、さらにNF-κBを活性化します(図1)。
 研究チームは、CARMA1の役割を調べるため、機能的に重要ではないかと予測される部位に変異を誘導し、9種類の変異型CARMA1を作製しました。CARMA1を欠損した細胞に、これらの変異型CARMA1をそれぞれ導入し、IKKの活性を測定しました。その結果、IKKの活性化には、CARMA1の複数のアミノ酸部位のリン酸化が関わっていることがわかりました。
 そこで、これらの部位をどの酵素がリン酸化するのかを調べました。PKCβ、PDK1、IKKβといったリン酸化酵素を欠損させた細胞で、アミノ酸部位にリン酸化が起きるかどうかをそれぞれ観察しました。
 この結果、意外にも、IKKβが上流のCARMA1に2回目の活性化を起こすことがわかりました(図2)。IKKのサブユニットIKKβは、PKCβとは異なるCARMA1のアミノ酸部位(578番目のアミノ酸)を狙ってリン酸化していました。CARMA1の複数のリン酸化は、IKKをさらに活性化します。こうしたシグナルの増幅によって、NF-κBを活性化するのに十分なIKKの活性を誘導できるようになる、と考えられました。このような、NF-κBの活性化シグナルの正のフィードバックループは、これまで全く考えられていなかった機構で、NF-κBの調節に新しい概念をもたらすものです(図1)。


3. 今後の展開
 本研究で明らかになった、NF-κBの活性化シグナルの増幅機構は、迅速な免疫反応を可能にするための生体メカニズムであるかもしれません。この増幅シグナルを調節することで、NF-κBの活性をやや上昇させる、あるいはやや減少させるといった、微妙な調節が可能になると期待されます。このように、NF-κBの活性を適切に調節することは、がんや自己免疫疾患、免疫不全など、様々な疾患を人為的に制御する上で、大変重要です。今後、このNF-κBの活性化シグナルの増幅機構は、これらの疾患への治療応用に向けて有効なターゲットになると考えられます。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 免疫・アレルギー科学総合研究センター
  分化制御研究グループ グループディレクター
   黒崎 知博(くろさき ともひろ)

Tel: 045-503-7019 / Fax: 045-503-7018
 横浜研究推進部 企画課

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 IKK
リン酸化酵素セリンスレオニンキナーゼの種類のひとつ。B細胞が刺激を受け取ると、IKKα、IKKβ、IKKγ複合体が活性化し、NF-κBのインヒビター(IκBα)をリン酸化する。リン酸下を受けたIκBαが分解されることでNF-κBは核へ移行し、転写因子として活性化する。
※2 CARMA1
B細胞のシグナル伝達を転写因子NF-κBに結びつけるアダプター分子。B細胞が刺激を受け取り、CARMA1をPKCβがリン酸化すると、CARMA1はTAK1、Bcl10と複合体を形成し、さらにIKK複合体とも会合して、これを活性化する。


図1 B細胞受容体を介したNF-κB活性化モデル
B細胞抗原受容体(BCR)が抗原を受け取ると、チロシンリン酸化酵素が活性化してPLC-γ2をリン酸化し、これによって、PKCβが活性化する。活性化したPKCβは、CARMA1タンパク質をリン酸化する(1)。TAK1はリン酸化したCARMA1タンパク質に会合し活性化する(2)。一方、IKK複合体は、Bcl10を介し、CARMA1タンパク質に会合する(3、4)。CARMA1タンパク質と会合したTAK1は同時に、CARMA1タンパク質と会合するIKKにアクセスし、IKKをリン酸化して活性化する(5)。IKKはNF-κBの核内移行、転写活性化を促進する(6)とともに、CARMA1タンパク質に第2のリン酸化を起こし、NF-κBの活性を増幅させる。


図2 IKKによるCARMA1のリン酸化
IKKのサブユニットIKKβは、CARMA1タンパク質の578番目のアミノ酸をリン酸化し、活性を増幅する(最上段右から2列目)。

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