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研究手法と成果 |
| 同研究ユニットは、ショウジョウバエを用いて研究しました。ショウジョウバエのニューロンを利用すると、ニューロンの樹状突起の形態形成や維持を制御する遺伝子を容易に単離することができます。また、単離した遺伝子は、ニューロンの中で過剰発現させたり欠失させたりすることによって、その機能を容易にテストでき、さらに詳細に研究することができます。これらのニューロンは、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの発光分子マーカーをつけ、蛍光顕微鏡法で簡単に見ることができます。このハエの神経系の中には、da neuronと呼ばれる感覚ニューロンがあり、分岐数と樹状突起を占める範囲の大きさによってクラスTからクラスIVに分類されています。研究ユニットは、その中で一番大きい樹状突起を形成するクラスIVニューロンに注目しました。 |
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Knotタンパク質の役割 |
まず、この4つのクラスのニューロンの転写因子を調べたところ、クラスIVニューロンには、Knotタンパク質と呼ばれる転写因子があり、その他のクラスのニューロンには、このKnotタンパク質が存在しないことがわかりました。そこで、クラスIVニューロンにおいて、このKnotタンパク質を失活させてみると、クラスIVのニューロンの樹状突起は小さくなりました(図1上)。一方、その他のクラスのニューロンに、Knotタンパク質を強制発現させると、それぞれの樹状突起は大きくなりました(図1下)。この実験から、クラスWニューロンの大きな樹状突起の形成には、Knotタンパク質が作用していることがわかりました。
なお、ほぼ同時期に、京都大学上村匡博士研究室でも、同じようにクラスIVニューロンでKnotタンパク質が作用していることを発見していました。(Genes to Cells, 12: 1011-1022)
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Cutタンパク質の役割 |
これまでに、クラスVニューロンの形態は、Cutと呼ばれる調節タンパク質の活性によって決定されることや、クラスIVニューロンにもCutタンパク質が作用していることは知られていました。そこで、Knotタンパク質とCutタンパク質の機能を理解するために、神経細胞の骨格である、樹状突起全体に見られる「アクチン」と呼ばれる繊維構造と「微小管」と呼ばれる管状の構造の形成の様子を、蛍光顕微鏡法で観察しました。da neuronにKnotタンパク質とCutタンパク質の発現量を変化させながら観察していくと、Cutタンパク質が「アクチン」を制御し、またKnotタンパク質が「微小管」を制御していることを見いだしました。すなわち、Knotタンパク質とCutタンパク質の2つの転写因子には、樹状突起形成において異なる役割を担っていました。Cutタンパク質は、アクチンが作る網状構造の形成に司令塔として働き、Knotタンパク質は、微小管の構造形成を促進していました。微小管は、樹状突起の主幹を安定させるために必要で、微小管の形成を促進させると樹状突起はより大きくなります。
今回の発見は、職人が家を建てる時にそれぞれの職人が各自違った役目があるように、それぞれの転写因子は完成した樹状突起の内部骨格の異なる部分を形成する役目があるのではないかということを示しています。この発見により、「ニューロンがどのように樹状突起の形態を制御するのか」を解明する研究は、一歩前進したといえます。
興味深いことに、Knotタンパク質とCutタンパク質のホモログは、哺乳類の脳のニューロンの中でも発見されています。このショウジョウバエを使った研究により、私たちの脳がどのように形成され、何が正常に機能しなくなって疾病が生じるのかを解明することが期待できます。
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Spastinタンパク質の役割 |
さらに、その他のクラスのニューロンにKnotタンパク質を強制発現させると樹状突起が大きくなることから、Knotタンパク質を強制発現させることで、どの遺伝子が変化するか観察しました。すると、ある1つの遺伝子の発現量が、大幅に増大しました。これがSpastinタンパク質でした。
Spastinタンパク質が大きい微小管を細かいパーツに切り分けることは知られていましたが、Knotタンパク質の発現量によってSpastinタンパク質の活性が変化していることは、今回初めて発見されました。Knotタンパク質によって樹状突起が大きく枝をはることができるのは、Knotタンパク質によって発現量が増大したSpastinタンパク質が、大きい微小管を細かいパーツに切り分け、その切り分けられた細かいパーツを材料として、樹状突起をさらに成長させるためではないかと推察できました。
今回の発見によって、情報収集に使われる大きく複雑な樹状突起の形成にもSpastinタンパク質が作用することが明らかになりました。この発見は、ハエを使った実験で明らかとなりましたが、Spastinタンパク質がヒトの体においても同じ働きを持つ可能性を示唆しています。
特に、神経系疾患であるヒト遺伝性痙性対麻痺の約40%は、Spastinタンパク質が破壊されることが原因で引き起こることから、Spastinタンパク質は医学分野で大変重要なタンパク質であることがすでに知られています。また、Spastinタンパク質は、ニューロンの情報伝達部分である軸策と呼ばれる一本の長い糸のような突起物を正しく形成するのに必要なことが知られています。こうしたことから、神経疾患の解明や神経回路の形成メカニズムを解明する新たな手掛かりが得られたことになりました。
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