◇ポイント◇
- 結晶中でナノワイヤーを絶縁被覆し、規則的に並べる
- 芯線を1本から2本に、絶縁被覆の厚みを1ナノメートルに増やすことに成功
- 1立方センチあたり100ペタバイトの記憶媒体実現へ道
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、伝導性の有機分子と絶縁性の有機分子とが自己組織的に集合して結晶を形成するという性質を利用して、絶縁被覆した太さ1ナノメートルの結晶性ナノワイヤーの開発に成功しました。理研中央研究所加藤分子物性研究室の加藤礼三主任研究員、山本浩史専任研究員らの研究グループによる成果です。
エレクトロニクスの分野では、記憶装置(DRAMなど)や記録媒体(光ディスク・フラッシュメモリー・ハードディスクなど)が重要な役割を担っており、近年、より大容量・より高密度・より小型軽量にといった方向を目指し、さらに活発に開発が進んでいます。こうした高速高密度化する情報処理の進歩を支えるためには、記憶素子と配線の微細化が欠かせず、技術開発のターゲットとしてナノ領域の素子である分子素子と配線材料となるナノワイヤーが注目され、さまざまな材料が活発に研究されています。
ナノワイヤーとしてはすでに、カーボンナノチューブなどが登場していますが、これらの材料を絶縁被覆する技術が確立していないために、集積回路で短絡を起こしやすい点と、1本1本が独立なため規則的に配列させる技術がない点が問題となっていました。研究グループは、伝導性有機分子であるテトラチアフルバレン誘導体と絶縁性の含ヨウ素中性分子とを結晶中で自己組織的に組み立てることによって、規則的に配列させた被覆ナノワイヤーの研究開発を行なってきました。今回、この手法で、芯線の数を増やすことと絶縁被覆の厚みを増やすことに成功し、実用的なナノワイヤーの実現に一歩近付きました。
本成果はナノワイヤーを、分子メモリーを搭載した超高密度3次元記憶媒体の配線材料として活用する道を拓くものです。この技術を用いると、1立方センチメートルあたり100ペタバイト(ペタ=1015)もの情報を記録することが期待できます。さらに、こうした配線技術は、メモリー回路だけではなく論理回路への応用も期待されており、エレクトロニクス産業に革新をもたらす可能性を秘めています。
本研究成果は、米国の科学雑誌『ACS Nano』(1月号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(1月1日付け:日本時間1月2日)に掲載されます。
| 1. |
背景 |
コンピューターなどの情報機器のみならず、デジタルカメラ・ビデオ・音楽プレーヤーなどの様々な家庭用電子機器にも大容量のメモリーが使われるようになってきています。メモリーの容量は年々増加しており、より大容量・より高密度・より小型軽量にといった方向を目指し、さらに活発に開発が進んでいます。こうした高密度化する情報処理の進歩を支えるためには、記憶素子と配線の微細化が欠かせず、技術開発のターゲットとしてナノ領域の素子である分子メモリーと配線材料となるナノワイヤーが注目され、さまざまな材料が活発に研究されています。
ナノワイヤーとしてはすでに、カーボンナノチューブなどが登場していますが、これらの材料を絶縁被覆する技術が確立していないために、集積回路で短絡を起こしやすい点と、1本1本が独立なため規則的に配列させる技術がない点が問題となっていました。
研究グループは、伝導性有機分子であるテトラチアフルバレン誘導体(例えばEDT-TTF)と絶縁性の含ヨウ素中性分子(例えばTIE)およびハロゲン化物イオン(例えば塩化物イオン)とを結晶中で自己組織的に組み立てることによって、規則的に配列させた絶縁被覆ナノワイヤーを開発し、その改良を行なってきました(図1、図2)。これまでの研究では、結晶性ナノワイヤーが格子欠陥※1に弱いこと、また被覆の絶縁性が十分ではないことが明らかとなり、その構造と物性の改良が課題となっていました。
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| 2. |
研究手法と成果 |
| ナノワイヤー結晶は、要素となる、伝導性有機分子、絶縁性中性分子およびハロゲン化物イオンを有機溶媒に溶解させ、この溶液を白金電極上で電解酸化することにより作製します。電極(アノード)上では伝導性有機分子が酸化されてカチオン(正イオン)となり、これがハロゲン化物イオン(負イオン)と塩を作ることによって結晶が成長します。結晶は黒色の針状晶として電極から放射状に成長してきます。 |
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| (1) |
2芯ナノワイヤーの開発 |
| 伝導性有機分子のPT(ビス(プロピレンジチオ)テトラチアフルバレン)、絶縁性中性分子DFBIB(1,4-ジフルオロ-2,5-ビス(ヨードエチニル)ベンゼン)および塩化テトラフェニルホスホニウムを、クロロベンゼンとメタノールの混合溶媒に溶解させ、これに1マイクロアンペア(μA)の電流を1週間ほど通電させると、黒色の直径0.1ミリメートル程度の結晶を得ました。X線回折の測定により、この結晶の内部構造を決定すると、2本の芯線(PT)を絶縁体(DFBIB)と塩化物イオンが取り巻き、108本程度が整然と並んだ状態のナノワイヤー構造(図3)が結晶中に完成していることがわかりました。すなわち、2芯ナノワイヤーの結晶である(PT) 2,Cl(DFBIB)2を作製することに成功したことになります。この結晶中では、1本のナノワイヤーに2本の芯線が通っているので、これまでに開発してきたナノワイヤーに比べて、格子欠陥の影響を低減できると考えられます。1本のワイヤーが断線しても、もう1本がつながっていれば電気は流れるようになります。 |
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| (2) |
絶縁性を向上させたナノワイヤーの開発 |
| 同様の方法で、TSF(テトラセレナフルバレン)、HFTIEB(1,1’-3,3’-5,5’-ヘキサフルオロ-2,2’,4,4’-テトラキス(ヨードエチニル)-ビフェニル)および塩化テトラフェニルホスホニウムを用いて結晶を作製すると、さらに絶縁性を向上させた構造を持つ結晶(図4)が得られました。HFTIEBは、研究グループが独自に開発した分子で、フッ素分子量を多くするなどして、絶縁性能を高める構造となっています。この結晶では、芯線(TSF)間の絶縁被覆(HFTIEBと塩化物イオン)が1ナノメートルの厚さに達しており、ワイヤー間の漏れ電流※2が少なくなることが期待できます。実際に、この被覆の絶縁抵抗を測定したところ、1013オームセンチ※3という非常に高い抵抗率が実現していることが明らかとなりました。 |
| 3. |
今後の期待 |
絶縁体で取り巻き、規則的な配列をした今回のナノワイヤー開発では、2芯線ナノワイヤー、被覆の絶縁性を向上させたナノワイヤーを世界で初めて作製しました。2芯線ナノワイヤーでは、結晶性ナノワイヤーの弱点であった格子欠陥の影響を克服する道筋がつき、さらに信頼性を増す多芯線化の製造手法を開発していく計画です。被覆の絶縁性を向上させたナノワイヤーでは、ワイヤー間の漏れ電流を防ぐ絶縁機能を確実にする、規則的な配置技術を確立することになりました。
2つのナノワイヤーはそれぞれ別の成果ですが、今後は、図5に示すようにこれらのワイヤーを結晶中で交互に直交させ、その交点に分子メモリーを組み込んでいくという物質開発が期待できます。こうした3次元結晶構造を実現できると、分子メモリーへの超高密度配線が達成され、1立方センチメートルあたり100ペタバイト(ペタ=1015) もの情報を記録することができます。これだけの密度の情報記録が実現すれば、メモリーの容量による電子機器の動作制限がなくなり、これまでに想像しなかったような電子機器の使い方が生まれるかもしれません。
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| (問い合わせ先) |
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独立行政法人理化学研究所 |
| 中央研究所 加藤分子物性研究室 |
| 専任研究員 山本 浩史(やまもと ひろし) |
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| Tel | : |
048-467-9410 |
/ |
Fax | : |
048-462-4661 |
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| 中央研究所 加藤分子物性研究室 |
| 主任研究員 加藤 礼三(かとう れいぞう) |
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| Tel | : |
048-467-9408 |
/ |
Fax | : |
048-462-4661 |
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| (報道担当) |
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独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当 |
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<補足説明>
| ※1 |
格子欠陥 |
| 結晶の中に本来の結晶構造とは異なる格子が混入すること。 |
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| ※2 |
漏れ電流 |
| 本来独立の回路間に意図せず流れてしまう電流。回路間の絶縁が不十分であるために起きる。 |
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| ※3 |
オームセンチ |
| 電気の流れにくさを物質固有の値として示す単位。数字が高いほど絶縁性が高い。銅で10-6程度、ガラスで1011〜1014程度。 |
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| 図1 結晶性ナノワイヤーの作製に用いる分子の構造式 |
EDT-TTF = エチレンジチオテトラチアフルバレン
PT = ビス(プロピレンジチオ)テトラチアフルバレン
TSF = テトラセレナフルバレン
TIE = テトラヨードエチレン
DFBIB = 1,4-ジフルオロ-2,5-ビス(ヨードエチニル)ベンゼン
HFTIEB = 1,1’-3,3’-5,5’-ヘキサフルオロ-2,2’,4,4’-テトラキス(ヨードエチニル)-ビフェニル
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| 図2 ナノワイヤーの結晶構造 |
| TTF誘導体(図の例はEDT-TTF)は平面性の伝導分子で、1次元のワイヤーを作りやすい性質がある。一方、TIEなどの含ヨウ素中性分子は絶縁性で、ハロゲン化物イオンと組み合わせると自己組織的にネットワーク構造を形成する。この2つを組み合わせて結晶化すると、中央に示すような配列ナノワイヤーが完成する。 |
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| 図3 2芯ナノワイヤーの結晶構造 |
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| 図4 絶縁被覆ナノワイヤーの結晶構造 |
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| 図5 3次元ナノワイヤー配線の概念図 |
| 結晶中にこのようなクロスバー配線を作製し、さらにナノワイヤー同士の交点に分子メモリーを埋め込むことにより、結晶自体が高密度の記憶媒体となる。 |
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