| 4. |
今後の期待 |
| 今回の研究により、始原生殖細胞が形成される過程で発現する遺伝子群の全容とその動態が明らかとなりました。また、その過程で重要な役割を果たすBlimp1の作用機序を解明しました。これらの成果は、生体に存在する特定の細胞系譜の決定に関与する全遺伝子群の発現動態と、その過程に関与する重要な遺伝子機能を、単一細胞レベルの精度で明らかにした世界で初めての研究成果となります。今後、以下に記すような発展が期待できます。 |
| (1) |
同定した新規遺伝子群の生殖細胞形成過程における機能解析や利用 |
| 本研究により、生殖細胞形成過程に関与する遺伝子群の全容が明らかとなりました。これらの中には、機能がいまだに知られていない新規遺伝子群も多数含まれており、それらの機能解析により、生殖細胞形成過程の分子機構をさらに詳細に理解できるようになります。また、生殖細胞で特異的に発現する遺伝子群は、生殖細胞に特異的な遺伝子操作(遺伝子破壊や過剰発現)を行う際の、有用なツールとなり得ると期待できます。 |
| (2) |
試験管内での生殖細胞系列誘導系の確立と評価 |
これまで世界のさまざまな研究者が、ES細胞から生殖系列の細胞を誘導する研究を行ってきました。これらの研究により、生殖細胞の形成過程の科学的な理解が促進することに加え、究極的には、誘導した生殖細胞を、不妊治療を含む生殖補助医療に用いることが期待されます。しかし、いまだ実験レベルでも機能的な(子孫を形成しうる)生殖細胞の作成に成功した例はありません※10。これは、 生殖細胞の発生過程が十分に理解されていなかったため、理論的にES 細胞を起点とする生殖細胞の誘導が不可能であったこと、 誘導された細胞がどの程度正しいものであるかを判断する基準が乏しかったこと、によると考えられます。今回の研究で得た情報は、試験管内で誘導される生殖細胞様細胞が、どの程度正しく形成されているかを判定する貴重な情報になるだけでなく、今後、生殖細胞系列を誘導する系を開発するために、基盤となる情報を提供するものです。
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| (3) |
ほかの細胞系譜の解析への発展と組織再生医学の基盤情報形成 |
| 本研究成果を得るために重要な役割を果たした単一細胞マイクロアレイ法は、基本的には、発生過程および成体に存在するあらゆる細胞系譜の形成・機能維持過程の解明に応用が可能です。すなわち、この方法論の開発により、さまざまな生物学・医学生理学的文脈における、いかなる時点の、いかなる細胞からも、ゲノムワイドな遺伝子発現プロファイルを取得できる基盤を形成したことになります。少数の特異的細胞群が、しばしば決定的な役割を果たす発生生物学、幹細胞生物学、神経生物学分野、さらには少量の材料から診断が必要な医学分野などでは、少数の、理想的には単一の細胞機能を解析する需要が増大しています。それら多くの生命科学分野において、今後単一細胞マイクロアレイ法は決定的な役割を果たすことが期待できます。
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| ※1 |
細胞系譜 |
| ヒトを含むほ乳類は200種以上の細胞から構成されている。そのすべては、元はただ1つの受精卵である。このように発生の過程で細胞が特別な形や機能を持つようになることを細胞分化と呼ぶ。これらの細胞は、受精卵からいきなり出現するのではなく、系統的な道筋を追って、最終的に機能を持つ細胞へと系統的に分化していく。この細胞分化の系統を細胞系譜と呼ぶ。体細胞系譜と生殖細胞系譜は発生の初期にその運命を分かつ、大きな系譜である。 |
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| ※2 |
遺伝子を欠損した胚 |
| 特定の遺伝子の機能を知るためにその遺伝子を人工的にゲノムから取り除いた胚。ある遺伝子の機能を知るためには、その遺伝子を持たない動物(マウス)がどうなるのかを調べることが効率的である。そのような目的で作製された動物を遺伝子欠損(ノックアウト)動物と呼ぶ。 |
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| ※3 |
遺伝子の発現 |
| ヒトを含めた多細胞生物では、ほぼすべての細胞が同じ遺伝情報(ゲノム)を保持している。私たちの生命が多様な細胞によって支えられているのは、それぞれの細胞種で働く遺伝子が異なるからである。遺伝子が働くためには、ゲノムDNAの中の特定の遺伝子をコードする部分をコピーすることにより1次的な産物である「メッセンジャーRNA(mRNA)」が作られ、さらにそのmRNAに対応するタンパク質が作られなければならない。ある遺伝子からmRNAが作られることを「遺伝子が発現する」という。「どの遺伝子が、どの程度の量、発現しているか」という「遺伝子発現パターン」は細胞の個性を知るために有用な情報である。 |
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| ※4 |
単一細胞cDNA増幅法 |
| 細胞1つに含まれるmRNAの量は非常に少ないため、有効な解析をするためには遺伝子発現パターンを損なわずに、増幅しなければならない。我々は、近年、少量のmRNAからcDNAを作り、正確に増幅し、かつそれをマイクロアレイに適用できるようにする手法を開発し、単一細胞レベルでの質の高いマイクロアレイ解析が可能になった。 |
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| ※5 |
cDNAライブラリ |
| 遺伝子の1次的産物であるmRNAは、そのままでは分子生物学的な解析に不向きである。mRNAを鋳型にして、より解析に適したDNAへと変換して解析を行うことが一般的である。そのようなDNAのことをcDNAと呼ぶ。mRNAの集団から作ったcDNAの集団のことをcDNAライブラリと呼ぶ。 |
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| ※6 |
PCR(Polymerase Chain Reaction) |
| DNAの集団の中から、特定のDNAだけを増幅することができる技術。この方法を用いると、cDNAライブラリの中に特定の遺伝子(たとえばBlimp1)が存在しているか否かを知ることができる。Blimp1を増幅できるように設計したPCRを使ってDNAが増幅されれば、そのcDNAライブラリにはBlimp1のcDNAが含まれているということがわかる。 |
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| ※7 |
マイクロアレイ |
| ヒトやマウスのゲノムには2万個以上の遺伝子がコードされている。これら1つ1つの発現の有無や量をしらみつぶしに解析することは事実上不可能である。マイクロアレイ法を用いると、同時に非常に多数の遺伝子の発現を解析することができる。一辺、数マイクロメートルの微細なチップに各遺伝子に対応するDNAが貼り付けられており、「ハイブリダイゼーション」というDNAの物理的性質を利用して、どの遺伝子がどれだけ発現しているかを解析することができる。 |
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| ※8 |
遺伝的マーカー |
| どの遺伝子を発現するかによって細胞の性質が決定付けられる。逆に言えば細胞の性質を反映して、その細胞でしか発現しない遺伝子も存在する。このような遺伝子を目印にして細胞を同定することができる。このような遺伝子のことを遺伝的マーカーと呼ぶ。 |
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| ※9 |
全遺伝子 |
| 今回の研究ではマイクロアレイに貼り付けられた遺伝子を解析の対象とした。 |
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| ※10 |
ヒトES細胞などからの生殖細胞の作成などに係る当面の対応について |
| 現時点のわが国の規制では、ヒトES細胞をはじめとする生殖細胞系列以外のヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成は行わないものとされている。 |