研究紹介

脳科学総合研究センター

発生神経生物研究チーム

チームリーダー 御子柴 克彦 (M.D., Ph.D.)
御子柴 克彦 (M.D., Ph.D.)

我々の脳は、数千億個に及ぶニューロンとそれを取り囲むグリア細胞から構成されています。学習・記憶などの高次脳機能にはこれらの細胞の緊密なコミュニケーションが必須であります。ニューロンは互いに複雑な神経回路を形成し、各種の情報処理を効率よく行っています。脳神経系がその機能を発揮するためには、ニューロンの周囲に存在するグリア細胞も重要な役割を荷なっています。私達の研究室では、脳がどの様にして形成され、どの様に働くかをDNA-RNA-蛋白質—細胞内小器官—細胞−組織−臓器−個体の各レベルから研究を進めています。特に行動異常を起こすミュータントマウスと正常マウスを比較解析していますが、行動異常を起こすミュータントで欠落していたP400タンパク質がイノシトール3リン酸受容体(IP3レセプター)であることを発見したことからIP3レセプター/カルシウムシグナルの研究へ入っていきました。当チームでIP3レセプターの全構造を決定し、小胞体にある413kDaのユニットからなる4量体の巨大なCa2+チャネルであることを証明しました。また、最近2217アミノ酸残基からなる巨大な細胞質ドメインのIP3存在下、非存在下での結晶化に成功し、そのX線結晶構造解析に成功しました。IP3が結合してダイナミックな構造変化が起きて、チャネルが開くゲート機構を解明しました。重要なリーフレット構造も明らかにしました。これまでの研究で、膵液・唾液分泌、受精、背腹軸決定など様々な生理現象に必須であることを明らかにしてきました。現在はIP3レセプターを中心に細胞内カルシウム動態と高次脳機能(記憶、情動、協調運動性など)や様々な脳疾患(精神疾患を含む)との関係を分子レベルで解明を行なっています。IP3レセプターによって産生されるCa2+波やCa2+振動の時空間的な特性IP3レセプター自身がカルシウムチャネル機能に加えてsignaling hub(シグナル拠点)として、20以上もの分子が相互作用するプラットフォームを提供する事により、多様な機能を引き起こすことがわかりました。我々はIP3レセプターの偽リガンドであるIRBIT を発見しました。IRBITはそのN-末端部分にmultiple Ser region を有する分子で、IP3レセプターのIP3 結合領域にIP3 と競合的に結合し、IP3レセプターのIP3 感受性を調節しうることを見出しました。しかもIP3レセプターがIP3と結合することにより放出されること、またNa+HCO3-コトランスポーター1やNa+H+ exchangerを活性化することをみつけ、酸・塩基平衡を制御する事を見いだしました。近年病気との関連ではIP3レセプタータイプ1型の変異がヒトの運動失調症で発見されました。また脳障害と小胞体のストレスとの関連もIP3レセプターを介していることを明らかにしています。またIRBITはリボヌクレオチドリダクターゼを抑えて抗腫瘍作用を起こすことが報告され、最近IRBITは細胞の生と死に関わるBCl2ファミリーと結合して小胞体・ミトコンドリア接合部を介してアポトーシスを制御することをみいだしています。IP3レセプター1型に特異的に結合する酸化・還元に関わるERP44を見つけました。また、GRP78という分子シャペロンは小胞体ストレスに対してIP3レセプター1型と結合して神経細胞死から防御していることを明らかにしました。IP3レセプター2型はアストロサイトの機能に必須で、難治性慢性疼痛、経頭蓋直流電気刺激法による脳の活性化、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) を改善することを明らかにしてきました。IP3レセプター3型は味覚、毛の発生、破骨細胞の形成、鼻粘膜の維持に重要であることをノックアウトマウスの解析から明らかにしています。我々は各種インディケーターを開発してIP3レセプター分子の動きや、細胞内IP3動態および細胞内の各小器官の局所的Ca2+放出やCa2+波やCa2+振動の解析などに力を注ぐことによりCa2+動態の時空間的制御メカニズムの解明を行っています。また、世界最高の検出感度をもつカルシウムイオンセンサーの開発も成功し、これを用いて2光子顕微鏡でのin vivo イメージングにも成功しています。以上のように当研究室では研究手法としては分子生物学的、生化学的解析手法はもとより、構造生物学、蛍光顕微鏡による細胞イメージング、共焦点顕微鏡による解析や多光子顕微鏡を用いた解析、量子ドットを用いた1分子イメージング、パッチクランプや人工脂質二重膜を用いたチャネル活性の解析や電気生理学などの生物物理学的手法やin vivo イメージングなど多岐にわたる手法を用いて脳の高次機能発現のメカニズムの解析を行っています。

研究主分野

総合生物

研究関連分野

複合領域 / 総合理工 / 生物学 / 医歯薬学

キーワード

  • 脳神経の発生・分化・可塑性
  • 細胞内情報伝達系
  • 生体分子イメージング
  • 生体の恒常性と破綻
  • 機能分子の構造・機能相関解析

主要論文

  1. Hamada K, Miyatake H, Terauchi A, Mikoshiba K.
    "IP3-mediated gating mechanism of the IP3 receptor revealed by mutagenesis and X-ray crystallography"
    Proc Natl Acad Sci U S A. 114(18): 4661-4666. (2017)
  2. Sugawara T. Hisatsune C, Miyamoto H, Ogawa N, Mikoshiba K.
    "Regulation of spinogenesis in mature Purkinje cells via mGluR/PKC-mediated phosphorylation of CaMKII"
    Proc Natl Acad Sci U S A. 114(26): E5256-E5265. (2017)
  3. Kawaai K, Ando H, Satoh N, Yamada H, Ogawa N, Hirose M, Mizutani A, Bonneau B, Seki G, Mikoshiba K.
    "Splicing variation of Long-IRBIT determines the target selectivity of IRBIT family proteins."
    Proc Natl Acad Sci U SA. 114(15): 3921-3926. (2017)
  4. Yamada Y., *Matsumoto (*equal contribution)Y., Okahara N., and Mikoshiba K.
    "Chronic multiscale imaging of neuronal activity in the awake common marmoset."
    Scientific Reports 6: 35722 (2016)
  5. Bonneau B, Ando H, Kawaai K, Hirose M, Takahashi-Iwanaga H, Mikoshiba K.
    "IRBIT controls apoptosis by interacting with the Bcl-2 homolog, Bcl2l10, and by promoting ER-mitochondria contact."
    eLife 19896. (2016)
  6. Monai H, Ohkura M, Tanaka M, Oe Y, Konno A, Hirai H, Mikoshiba K, Itohara S, Nakai J, Iwai Y, Hirase H.
    "Calcium imaging reveals glial involvement in transcranial direct current stimulation-induced plasticity in mouse brain."
    Nature Communications 7: 11100 (2016)
  7. Bannai H, Niwa F, Sherwood M.W, Shrivastava A.N, Arizono M, Miyamoto A, Sugiura K, Lévi S, TrillerA, Mikoshiba K
    "Bidirectional control of synaptic GABAAR clustering by glutamate and calcium."
    Cell Reports 13:1-3 (2015)
  8. Hisatsune C, Ebisui E, Usui M, Ogawa N, Suzuki A, Mataga N, Takahashi-Iwanaga H, Mikoshiba K.
    "ERp44 Exerts Redox-Dependent Control of Blood Pressure at the ER."
    Molecular Cell. S1097-2765(15)00264-6. (2015)
  9. Kawaai K, Mizutani A, Shoji H, Ogawa N, Ebisui E, Kuroda Y, Wakana S, Miyakawa T, Hisatsune C, Mikoshiba K.
    "IRBIT regulates CaMKIIα activity and contributes to catecholamine homeostasis through tyrosine hydroxylase phosphorylation."
    Proc Natl Acad Sci U S A. 112(17): 5515-20. (2015)
  10. Tsuboi D, Kuroda K, Tanaka M, Namba T, Iizuka Y, Taya S, Shinoda T, Hikita T, Muraoka S, Iizuka M, Nimura A, Mizoguchi A, Shiina N, Sokabe M, Okano H, Mikoshiba K, and Kaibuchi K.
    "Disrupted-in-Schizophrenia-1 regulates transport of IP3R1 mRNA for synaptic plasticity."
    Nature Neurosci. 18(5): 698-707. (2015)

メンバーリスト

主宰者

御子柴 克彦
チームリーダー

メンバー

濱田 耕造
研究員
久恒 智博
研究員
樺山 博之
研究員
安東 英明
研究員
河合 克宏
研究員
宮本 章歳
研究員
菅原 健之
研究員
松本 圭史
研究員
BONNEAU Benjamin Remi
基礎科学特別研究員
廣瀬 松美
テクニカルスタッフⅠ
戎井 悦子
テクニカルスタッフⅠ
徳重 直子
テクニカルスタッフⅠ
寺内 明子
テクニカルスタッフⅠ
小川 直子
テクニカルスタッフⅠ
竹内 誠
テクニカルスタッフⅠ
杉浦 琴美
テクニカルスタッフⅠ