2013年9月1日
細胞周期を可視化する蛍光タンパク質プローブ、Fucci
理研No. 07219
発明者
宮脇 敦史、阪上-沢野 朝子(理研:細胞機能探索技術開発チーム)
正井 久雄(東京都臨床医学総合研究所)
背景
細胞周期は生命現象をつかさどる「エンジン」に例えられ、多くの研究成果によりこのエンジンの制御メカニズムが解明されてきました。ところが、実際に顕微鏡下の細胞や個体を形づくる個々の細胞の細胞周期を「生きたまま知る」ことは困難でした。これまで、細胞周期を観察する様々な技術が開発されて来ましたが、細胞周期の変遷を高感度にかつリアルタイムで観察できる技術は開発されていませんでした。
概要
G1/G0期とS/G2/M期を異なる蛍光波長で可視化
細胞周期における抗がん剤などの各種薬剤の評価
ユビキチン介在性タンパク質分解のメカニズムと蛍光タンパク質を利用して、細胞周期インディケータ Fucci (fluorescent, ubiquitination-based cell cycle indicator)を開発しました。
Fucciは、APCcdh1およびSCFskp2複合体の基質であるGemininおよびCdt1が、細胞周期依存的にその発現パターンを変化させることを利用しています。GemininおよびCdt1の断片を蛍光タンパク質に結合することにより、G1期あるいはS/G2/M期を高感度にリアルタイムで観察できます。Fucciは細胞周期自体には影響を及ぼすことがありません。培養細胞のみならずマウスなどの個体にも導入することが可能です。
図1:G1/G0期を赤、G2/S/M期を緑としてがん転移の様子を可視化
ヌードマウスの皮下静脈よりFucciを発現したHeLa細胞を注入して観察した写真。
図2:Fucciを遺伝子導入したマウスの発生過程における細胞周期を可視化
Fucciトランスジェニックマウス;Tg(FucciS/G2/M)#504Bsi/Tg(FucciG1)#596Bsiの発生過程を観察した。
胎児全体の様子は、透明化液Scale U2を用いて観察。
図3:薬剤投与による細胞周期の変化
NMuMG細胞のエトポシド(古典的な抗がん剤)に対する応答。
エトポシドの濃度に依存して、異なる様相が観察された。
利点
- 細胞周期をリアルタイムで観察可能:G1/G0期とS/G2/M期を異なる蛍光波長で可視化できる
- 細胞周期における抗がん剤などの各種薬剤の評価が可能
応用
- 抗がん剤等のスクリーニング
- ES 細胞、幹細胞などの性能評価
- 特異的分化と細胞周期の関連に関する研究への応用
文献情報
- 1.PCT/JP2008/051973
- 2.Sakaue-Sawano A et al.: Cell, 132: 487-498, 2008
- 3.Sakaue-Sawano A et al.: Chem. Biol., 15: 1243-1248, 2008
- 4.Sakaue-Sawano A et al.: BMC Cell Biol., 12:2, 2011
- 5.Hama H et al.: Nat. Neuroscience, 14: 1481-1488, 2011
関連情報
- 1.2009年3月30日トピックス「蛍光細胞周期プローブ「Fucci」を組み込んだマウスの提供開始」
- 2.2009年11月17日プレスリリース「魚の胚発生における増殖と分化のパターンが生きたまま丸見え」
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