2012年11月1日
慢性疲労症候群の血液バイオマーカーの発見
理研No. 07785
発明者
片岡 洋祐(理研:細胞機能イメージング研究チーム、大阪市立大学大学院)、金 光華(細胞機能イメージング研究チーム)、曽我 朋義(慶應義塾大学)
背景
慢性疲労症候群の発症メカニズムは不明であり、現在でも患者の自覚的症状および医師による身体所見を基準に診断されているのが実状です。そのため、患者の経済的な負担に加え、医者による長期間にわたる観察の必要性や判断基準の個人差などが問題となっています。
概要
慢性疲労症候群患者(20名)と健常人(20名)の血漿を対象に代謝物質の変動を網羅的に解析することにより、慢性疲労のメカニズムに基づいた客観的な疲労バイオマーカーを探索しました。両群で血糖値(Glucose濃度)に差はありませんでしたが、慢性疲労症候群患者では、エネルギー(ATP)産生に与る解糖系およびTCA回路中の代謝物が減少していること、さらに、その低下は自覚的疲労度(PS)に相関することが見出されました。解糖系機能を表すCitrate/Glucose比、TCA回路上流のアコニターゼ活性を表すIsocitrate/Citrate比、TCA回路下流での代謝機能の回復を表すIsocitrate/Malate比の3つの値から、95%の正確さで、慢性疲労症候群を客観的に診断できる可能性があります。
図1:慢性疲労症候群患者におけるTCA回路中の代謝物の減少
図2:自覚的疲労度との相関
図3:慢性疲労症候群患者の判別モデル
利点
- 数種類の代謝物を測定するだけで、慢性疲労症候群を診断可能
- 患者の治療効果判定や回復過程でのフォローアップが可能
- 疲労原因に即したバイオマーカーであるため、治療や予防法の開発が可能
応用
- 慢性疲労症候群を客観的かつ迅速に診断するキットの開発
- 個々人の慢性疲労の治療方針を数理計算により立案し、効果を予測する方法を開発
- 疲労を予防・軽減する食薬開発
文献情報
- 1.PCT/IB2011/001917
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