2014年3月5日
原虫感染症(トリパノソーマ症)の予防・治療
理研No. 08193
発明者
御子柴 克彦(理研:発生神経生物研究チーム)、奈良 武司(順天堂大学大学院医学研究科)
背景
「顧みられない熱帯病(NTDs)」の一つであるシャーガス病は、病原体クルーズトリパノソーマが原因です。感染者を治療せずに放置すると、感染者の約3分の1が重篤な心疾患などを発症し、死に至ることがあります。現在の治療薬では副作用が強くて治療効果も限定的である上に、近年は薬剤耐性も報告され、新薬の開発が望まれています。
また、地球温暖化の進行、国際化が進んでいる現代では、シャーガス病は熱帯域のみの課題ではなく、日本でも真剣に取り組まなければならない疾患の一つになりつつあります。
概要
◎ トリパノソーマIP3R特異的なアンチセンス核酸に基づく治療法開発
クルーズトリパノソーマにおいて細胞内カルシウム濃度の上昇が宿主細胞への侵入に必須である点に注目し、このカルシウム濃度の上昇を担う本体がイノシトール3リン酸受容体(IP3R)であることを突き止めました。原虫をIP3R特異的なアンチセンス核酸で処理した結果、原虫が宿主細胞に侵入することを防ぐことに成功しました。

図1:作用機構

図2:ヒトへの副作用回避
利点
- ヒト・家畜動物のIP3R との配列相同性が低く、副作用の少ない核酸医薬の設計が可能
- 細胞内カルシウム濃度を調節するIP3R は重要遺伝子であるため、耐性獲得の変異が起こりにくいと期待され、仮に変異があっても核酸医薬であれば設計変更が簡便
応用
- シャーガス病の新規治療薬の開発
- 家畜動物におけるトリパノソーマ症に対する治療薬開発
文献情報
- 1.特願2013-211448
- 2.Hashimoto et al., DOI: 10.1038/srep04231, Scientific Reports, (2014)
関連情報
- 1.2014年2月28日 順天堂大学大学院 医学研究科 報道発表資料「シャーガス病の治療法に新たな光」
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