2019年5月10日
室温動作可能な単電子トランジスタ
理研No. 08412
発明者
大野 圭司(石橋極微デバイス工学研究室)
森 貴洋(産業技術総合研究所)
森山 悟士(物質・材料研究機構)
背景
単電子トランジスタは量子ドットなどの局在準位を介したトンネル電流を利用します。通常のトランジスタには10万個程度の電子が流れるのに対し、単電子トランジスタでは電子が一つずつ流れます。次世代低消費電力素子としてだけではなく、半導体量子コンピュータの構成要素としても注目されています。しかしこれまでの単電子トランジスタは室温で動作しないか、あるいは既存の半導体製造ラインでは作製できないものばかりでした。
概要
既存の半導体製造ラインで製造可能な単電子トランジスタを開発し、その室温での動作に成功しました。シリコンにイオン注入法によりAl-Nペア等のアイソエレクトロニック形成不純物を導入して量子ドットとしました。不純物を介したトンネル電流を得るためNタイプのソース電極、Pタイプのドレイン電極をもつトランジスタ構造(TFET構造)を採用しました。チャネル長が数十ナノメートルのTFETにおいて適度なトンネル電流が得られました。

図1:単電子トランジスタ素子の模式図
シリコンTFET構造をもとにしており、Nタイプのソース電極、Pタイプのドレイン電極からなります。チャネル部分は長さ数十ナノメートル程度で、アイソエレクトロニック形成不純物を含んでいます。

図2:素子のエネルギーバンド模式図
素子のソース・ドレイン方向のエネルギーバンドおよびアイソエレクトロニック形成不純物のエネルギー準位を示します。電子はソース電極→不純物準位→ドレイン電極のように2回のトンネル効果でソース・ドレイン間を流れます。アイソエレクトロニック形成不純物の強く局在した電子状態により単電子伝導が生じます。Pタイプ、Nタイプの両電極を有すること、およびチャネル長が数十ナノメートルと比較的短いことで、アイソエレクトロニック形成不純物のようなバンドギャップ深くに位置するエネルギー準位を経由した電気伝導が可能となりました。

図3:素子の単電子伝導特性
素子の伝導度Id/Vs(Vsはソース電圧、Idはドレイン電流Id、測定回路は図1参照)のゲート電圧依存性を低温20ケルビン(K)から室温300ケルビンまでの4つの温度において測定したものです。20Kにおいては単電子伝導に起因する鋭いピークが複数測定されます。これらのピーク幅は温度の上昇とともに増大しますが、室温においても残っています。これは室温においても単電子伝導が起こっていることを示します。
利点
- 一般的なシリコン素子製造ラインで安価に大量生産が可能
- 室温動作であるためモバイル・ウェアラブル端末にも搭載可能
- 1ケルビン程度の極低温でも安定して動作
応用
- 単一電子のスピン制御による高感度磁気センサー
- 量子メモリ
- 室温動作量子コンピュータ
文献情報
- 1.特願2015-146869
- 2.K. Ono, T. Mori, S. Moriyama, High-temperature operation of a silicon qubit, Scientific reports 9, 469 (2019).
関連情報
- 1.2019年1月24日プレスリリース「シリコン量子ビットの高温動作に成功」
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