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2010年4月15日

独立行政法人理化学研究所
独立行政法人国立がん研究センター
独立行政法人医薬基盤研究所

国際がんゲノムコンソーシアムで25,000人分のがんゲノム解読進む

-日本など4カ国の機関による3種類のがんの解析結果を公開-

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)、独立行政法人国立がん研究センター(嘉山孝正理事長)、独立行政法人医薬基盤研究所(山西弘一理事長)らが参加し、25,000人分のがんゲノムを解読する国際共同プロジェクト「国際がんゲノムコンソーシアム」(International Cancer Genome Consortium:ICGC)は、米東部時間2010年4月14日(水)午後1時(日本時間15日午前2時)に、イタリアと欧州連合(EU)が新たに参加国として加わることと、日本を含む4カ国の機関から3種類(乳がん、肝臓がん、膵がん)のがんのゲノム変異の解読データを、ICGCのホームページで公表します。

がんの患者数は、先進国、発展途上国を問わず世界中で急速に増加し、早期診断やがん死亡の減少が人類社会にとって喫緊の課題となっています。ほとんどすべてのがんでは、遺伝子の設計図であるゲノムに異常(変異)が生じ、正常な分子経路が破たんした結果、無秩序な細胞増殖をもたらすことが分かっており、がんは「ゲノムの病気」であるといえます。さらに、特定のがんや病態では、特徴的なゲノム変異が認められることも明らかになっているため、それぞれのがんに生じたゲノム変異を網羅的に同定し、カタログ化することは、新たな予防・診断・治療法を開発するための基盤として大きな期待が寄せられています。

このような状況の下、2008年4月、臨床的に重要ながんを選定し、ゲノム変異の姿を明らかにする国際共同プロジェクトICGCが発足しました。今回、これまでの参加国(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、日本、スペイン、英国、米国)に、新たにイタリアと欧州連合(EU)のプロジェクトが加わることが決まり、全身の臓器(血液、脳、乳腺、大腸、腎臓、肝臓、肺、すい臓、胃、口腔、卵巣)で起こるさまざまながんについて、10,000症例以上の解析を行ないます。また、すでに英国(乳がん)、日本(肝臓がん)、オーストラリア/カナダ(膵がん)の各プロジェクトによって解析した解読データが、4月15日からICGCのホームページで入手可能となります。

さらに、ICGCに参加する200名以上の研究者による、ICGCの倫理的な枠組み、研究デザイン、方針と各プロジェクトの進捗状況についての論文が、英国科学誌『Nature』(4月15日付け)に掲載されるとともに、4月17日から21日にワシントンで開催する米国がん研究会議(American Association for Cancer Research:AACR)年次総会でも発表する予定です。

経緯

わが国では、抗生物質の発見や戦後の衛生環境の向上などにより、感染症による死亡が激減した一方で、高齢化とともにがんの発生・死亡数が増加を続け、1981年には国民の死亡原因の第1位になりました。がんは、先進国だけでなく発展途上国でも急速に患者数が増加し、その克服が人類共通の目的となっています。2007年には、全世界で約760万人以上ががんで死亡し、1,200万人以上が新たにがんと診断されました。がんの解明と克服に何らかの進歩が見られなければ、2050年には2,700万人ものがん罹患と1,750万人ものがん死亡にまで増加するものと予測されています(出典:米国がん学会(American Cancer Society:ACS)の統計Global Cancer Facts & Figures 2007(英語))。このため、がん罹患やがん死亡の減少は、人類にとっての喫緊の課題となっています。

1種類の疾患と考えられていたがんは、現在、極めて多数の病態を含むことが明らかになっています。しかし、ほとんどすべてのがんでは、遺伝子の設計図であるゲノムに異常(変異)が生じ、正常な分子経路が破たんした結果、無秩序な細胞増殖を繰り返すことが分かっており、がんは「ゲノムの病気」であるといえます。ゲノム変異は、しばしば特定のがんや病態に特徴的に認められるため、それぞれのがんのゲノム変異を網羅的に同定し、カタログ化することが、新しい治療・診断・予防戦略を開発する研究の基盤になると期待されています。このため、世界中のがんやゲノムの研究機関では、がんのゲノム変異の研究を精力的に推進しています。

塩基配列解読技術の急速な進展に伴い、さまざまなタイプのがんについて、がんゲノム変異がどこで、どのように生じているか、全体像を明らかにすることが現実のものとなってきました。このような状況の下、臨床的に重要ながんについては、国際協力でゲノム変異の姿を明らかしようと結成したのが「国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)」です。2007年10月に、6機関(オンタリオがん研究所、ゲノムカナダ、欧州委員会、英国ウェルカムトラスト財団、米国立がん研究所、米国立ヒトゲノム研究所)が共同で開催したICGC設立準備会合(カナダ・トロントで開催)には22カ国が参加し、2008年4月、ICGC(事務局:オンタリオがん研究所、事務局長:トーマス・ハドソン同研究所長)が発足しました。

これまで、第1回(2008年11月15~17日、米国)、第2回(2009年6月22~24日、英国)、第3回(2010年3月21~23日、スペイン)のICGCワークショップを開催し、がんの解析の担当など各種取り決めについて協議したり、研究の進捗状況を報告してきました。現在、オーストラリアとカナダが膵がん、中国が胃がん、フランスがアルコール関連肝臓がんとHER2陽性乳がん、ドイツが小児脳腫瘍、インドが口腔がん、日本が肝炎ウイルス関連肝臓がん、スペインが慢性リンパ性白血病、英国が乳がんの亜種、米国が脳腫瘍、卵巣がん、肺がんのプロジェクトを担当しているのに加え、今回新たに、イタリアが膵がんの亜種を、欧州連合(EU)が腎臓がんと乳がんのプロジェクトを担当することとなりました。

ICGCの概要

ICGCは、世界各国を通じて臨床的に重要ながんを選定し、それらのがんについてゲノム変異の包括的なカタログを作成するため、情報交換の促進やゲノム解析作業の重複阻止など、メンバー間の調整を行う組織です。ICGCの各メンバーは、ICGCの定めたデータ収集・解析に関する共通基準に従い、少なくとも1種類のがんについて約20億円を負担し、約500症例の解析を分担します。

また、ICGC参加国・機関は、研究に参加する患者の個人情報を保護しながら試料の保存を担保できるよう、インフォームド・コンセントと倫理的配慮についても共通の標準プロセスを設定しています。ICGCメンバーによる研究の公共的意義を最大限にするため、取得したデータは適切な基準を満たす研究者に速やかに提供されます。さらに、すべてのコンソーシアム参加者は、ICGC研究から生じる1次データに対して特許などの知的所有権の申請を行わないことで合意しています。こうして構築してきたがんゲノムカタログは、速やかにがん研究者の共同体が参照し、臨床的に意味のあるがんの分類、患者の予後予測や治療方針の決定、さらには新たながんの治療法の開発に貢献すると期待されます。

ICGCに関する詳細情報や最新の活動については、ICGCのホームページ(英語)に掲載しています。

解読データの公開状況

これまでのICGCの活動の中から、英国の乳がん、日本の肝臓がん、オーストラリアとカナダの膵がんの研究グループが、すでに解読データを産出し、4月15日からICGCのホームページ(英語)で提供します。これらのデータは、カナダのトロントにあるオンタリオがん研究所が運営するデータ調整センターが管理します。

今後の展望

ICGCは、ヒトのゲノムの塩基配列すべての解読を目指した国際ヒトゲノムプロジェクト以来、最も野心的な医学生物研究の試みの1つであり、現在そして将来にわたって、がんに関係したゲノム変異を理解しようとする大型プロジェクト間の協調を支援します。このプロジェクトによって得られたゲノム情報は、多くのがんの診断、治療、予防の研究を加速すると期待されます。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 ゲノム医科学研究センター バイオマーカー探索・開発チーム
チームリーダー 中川 英刀(なかがわ ひでわき)
Tel: 03-5449-5785 / Fax: 03-5449-5785

横浜研究推進部
次長 渡部 康一(わたなべ こういち)
Tel: 045-503-9321 / Fax: 045-503-9113

独立行政法人国立がん研究センター ゲノム構造解析プロジェクト
プロジェクトリーダー 柴田 龍弘(しばた たつひろ)
Tel: 03-3542-2511(内線3123) / Fax: 03-3547-5137

独立行政法人医薬基盤研究所 研究振興部 基礎研究推進課
課長 佐野 喜彦(さの よしひこ)
Tel: 072-641-9803 / Fax: 072-641-9831

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

独立行政法人国立がん研究センター がん対策企画課
Tel: 03-3542-2511(内線2440) / Fax: 03-3542-2401

独立行政法人医薬基盤研究所 基礎研究推進課
Tel: 072-641-9803 / Fax: 072-641-9831

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