理化学研究所(理研)が2020年4月に試行的利用を、2021年3月に共用を開始したスーパーコンピュータ「富岳」は、世界のスーパーコンピュータに関するランキングの、「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、「Graph500」において7期連続の第1位、「TOP500」で第2位、「HPL-MxP」で第3位を獲得しました。
これらのランキングは、現在ドイツ ハンブルクのコングレス・センター・ハンブルクおよびオンラインで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「ISC2023」において、5月22日付で発表されます。
「富岳」は、多様なアプリケーションを高性能かつ低電力で実行可能とするコデザイン[1]の考えにより開発され、ライフサイエンス・防災減災・エネルギー・ものづくり・基礎科学・社会経済などの分野において、デジタルツイン[2]によるさまざまな成果を社会実装のレベルで創出し、Society 5.0[3]の実現に貢献し続けています。米国などの海外機関で新規のマシンが開発されている中、スーパーコンピュータランキングの複数の分野において高い評価を3年以上も受け続けていることは、「富岳」の競争力の高さ、幅広い分野での活用を目指す「富岳」の開発方針が正しく実現できたことを立証する指標です。
そしてそれらは、新型コロナウイルス感染症対策や、気象・気候予測、地震と津波による災害予測、がん治療に貢献する病理メカニズムの解明など、人々の生命と社会を守る成果にも結び付いています。
理研はネクスト「富岳」時代の次世代システムの研究を続けることで、研究DXの早期実現を目指します。その第一歩として、文部科学省からの受託により、2022年8月から次世代計算基盤に係る調査研究事業(システム調査研究)に取り組んでいます。本調査研究では、サイエンス・産業・社会のニーズも考慮し、Society 5.0を実現可能なシステムなどの選択肢を提案することを目的とします。また将来の研究DXのあるべき姿を目指して、次世代計算基盤のアーキテクチャ、システムソフトウェア・ライブラリ、アプリケーションの調査と要素技術の検討を行い、技術的課題や制約要因を抽出しつつ、次世代計算基盤に求められる性能・機能要件を明らかにしていきます。これらの調査研究から始まる流れの中でも「富岳」およびそのアプリケーションの開発で培った知見と能力が十分に生かされていくものと考えます。
ランキングの詳細などは下記をご参照ください。
- 2023年5月22日お知らせ「スーパーコンピュータ「富岳」HPCGのランキング結果について」
- 2023年5月22日お知らせ「スーパーコンピュータ「富岳」Graph500のランキング結果について」
関係者のコメント
「富岳」は試行的な稼働を2020年前半から開始し、半年に一度のスパコン主要性能ランキングでの登場は累計で7回目となりますが、HPCG、Graph500では第1位、TOP500では第2位、HPL-MxPでは第3位と、世界トップクラスの総合的な実力の高さを示しています。
これは、世界各国で新しいスパコンの開発が繰り広げられている中、長期間にわたって世界トップクラスの性能を維持するため、継続的な研究開発により性能向上を図ってきた成果だと考えています。実際に、Graph500ではさらにスコアを伸ばしリードを広げました。また、多角的な指標で評価を受け続けていることは、幅広い分野での活用を目指した「富岳」の開発方針が正しく実現できたことを示しています。
また、「富岳」で本センターが培った知見と能力は次世代のスパコン開発の検討においても生かされていくものと考えています。
(理研 計算科学研究センター センター長 松岡 聡)
関連リンク
- 2021年3月9日お知らせ「スーパーコンピュータ「富岳」完成、共用開始」
- 計算科学研究センター 成果創出加速プログラム
- 計算科学研究センター 「富岳」ユーザーの主な研究成果
- 計算科学研究センター 利用方法
- 次世代計算基盤に係る調査研究事業における採択チームを決定
- 次世代計算基盤に係る調査研究(2022年8月~)
補足説明
- 1.コデザイン
ハードウェアとソフトウェアの設計を、開発の初期段階から協調して行うこと。通常は先行されるハードウェアの設計を、ソフトウェア設計と協調させることで、開発期間の短縮やシステム全体の最適化を図るもの。 - 2.デジタルツイン
現実世界にあるモノの形状や状態、機能を瓜二つの双子(ツイン)のように仮想世界に実現する技術。リアルタイムで非常に高い精度のシミュレーションが行えることから、幅広い分野での活用が期待されている。 - 3.Society 5.0
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。IoT(Internet of Things)、ロボット、AI(人工知能)、ビッグデータといった社会のあり方に影響を及ぼす新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会の実現を目指す考え方。