Research

メッセンジャーRNA (mRNA) は細胞の中では常に、特定の蛋白質との複合体である メッセンジャーRNP (mRNP, messenger ribonucleoprotein) として存在しています。それぞれのmRNAの安定性や翻訳活性の調節といった運命は、どのような蛋白質とmRNPと なっているかによって決められていると考えられるので、mRNAの運命決定機構を知るためには、mRNP構成因子の研究が欠かせません。

私たちは、mRNPを構成している蛋白質にはどのようなものがあり、それらがどのようにしてmRNAの運命に関わっているのか、を知るために、以下のような点について研究しています。また、RNA結合蛋白質が関与する疾患の原因の解明にむけた研究も開始しています。

(1) アフリカツメガエル卵母細胞における母性mRNAの貯蔵

動物の卵成熟、初期発生段階では転写が不活発で、卵毋細胞の時に転写され貯蔵mRNPとして蓄えられてきた母性mRNAの翻訳段階での調節が遺伝子発現調節の主要な位置を占めます。カエル卵毋細胞では核で合成されたmRNAの80%以上が細胞質で貯蔵mRNPの形で翻訳抑制されています。このmRNAの貯蔵は、mRNAマスキング(mRNA masking)とよばれています。カエル卵毋細胞はmRNP構造による翻訳調節の研究に古くから用いられて、母性mRNA翻訳調節の研究をリードしてきました。

これらの貯蔵されたmRNAは、一斉に翻訳されようになるわけではなく、特定のmRNAが特定の時期に翻訳されはじめます(翻訳脱抑制unmaskingとよばれます)。このmRNA特異的かつ時期特異的な翻訳脱抑制は卵成熟や体軸形成や分化を含む初期発生の進行に必須です。

私たちはこのようなmRNAマスキングと翻訳脱抑制にどのような因子が関わり、各因子がどのような働きをしているのかを研究しています。

(2) カエル卵母細胞およびヒト培養細胞のmRNPを構成する蛋白質の同定と解析

カエル卵毋細胞や培養細胞でY-ボックス蛋白質やポリ(A)結合蛋白質がmRNPのおもな構成蛋白質であることが知られています。これらの構成因子は細胞内で翻訳されていないmRNPのみならず、翻訳されているmRNPにも含まれます。

私たちはこれまで、mRNP構成蛋白質がmRNAの翻訳や安定性に与える影響についての研究を行い、Y-ボックス蛋白質がmRNPの主要な蛋白質として翻訳やmRNA安定性に重要であることを示してきました。さらに、タグをつけたY-ボックス蛋白質を利用してカエル卵毋細胞や培養細胞からmRNPを含む画分を調製し、構成因子を同定しました。そのうちのRAP55蛋白質やP100蛋白質は、卵毋細胞のなかで翻訳抑制因子として働きます。

(3) 細胞質のmRNP顆粒の形成と分解の機構

RAP55蛋白質に対する抗体でヒト培養細胞の免疫染色を行なったところ、細胞質にいくつかの顆粒状の構造が観察され、他の蛋白質との共染色の結果、この顆粒状の構造はP-body(Pボディ、processing bodyの略)と呼ばれるmRNP顆粒の一種であることがわかりました。これらは、翻訳抑制されているmRNPがあつまった顆粒状の構造であると考えられています。さらにRNA干渉に関係する因子もこのP-bodyに局在します。P-bodyは通常の培養条件で多くの細胞に観察されますが、一方、細胞に熱ショックなどのストレスを与え、翻訳活性を低下させたときには、ストレス顆粒と呼ばれるmRNP顆粒が形成されます。私たちは、mRNP顆粒の形成と分解の分子機構を明らかにしたいと考えています。

(4) mRNPリモデリングの分子機構

mRNAが作られてから蛋白質合成に使われて分解されるまでの各段階で、mRNPの構造が変化していくことが必要だと考えられます。私たちは、mRNPの構造変化の分子機構を明らかにしたいと考えて研究を行っています。