大型衛星「はるか」における通信レベルの異常低下の分析

東京電機大学学部・修士課程在籍時
JAXA 宇宙科学研究本部と共同研究

 10m の大型構造物を持つ科学衛星「はるか」の通信回線には,受信レベルの周期的変動や予測外の急激な落込みが見られ,中には通信回線保持に必要な最低レベルを下回る場合もある.この現象は従来の小型衛星には見られないため,大型構造物の影響によって,衛星に搭載される通信アンテナの指向性利得に,空間的な変動や,特定方向で異常な低下が生じていると推測される.

 本研究では,衛星運用で随時得られる1年分(545時間)のテレメトリデータを解析して,軌道上における通信アンテナの実効的な放射パターンを可視化した.通信回線の受信レベルと軌道位置から電波の伝搬損失,及びそこから指向性利得を導き出し,さらに衛星の姿勢情報を基に,衛星から見た地上局の方向(見込み角)を求め,これらを合わせて放射パターンを計算した.

 その結果,多数の方向において通信アンテナ単体の利得を大幅に下回る落込みが確認され,しかも,開発段階で予測されていない方向でも利得低下が確認された.これらの利得低下の特徴を分析し,指向性利得の落ち込みの原因を考察した.



図1.科学衛星MUSES-B「はるか」の外観。電波天文観測に利用される口径10mの大型展開メッシュアンテナが搭載されている。地上局との間のテレメトリ/コマンドデータの通信には、筐体に取り付けられる3つのSバンドアンテナ(SANT-A,B,C)で行われる。

図2.Sバンドアンテナの配置。SANT-A,Bは本体側面の対称位置に反対方向を向いて取り付けられており、水平方向から到来する電波を受信する。A,Bでの受信電波は合成され一つの受信機で受信される。SANT-Cは下面に搭載され下方向をカバーする。


図3.受信レベルの時間変化の例。1999年6月17日(左)、及び同年1月5日(右)のSANT-A,Bの合成信号レベル。受信機の入力最低レベル-99dBmを下回る期間が存在する。


図4.衛星から見た地上局方向(見込み角)の全解析結果(16万点以上)

図5.実効指向性利得の解析結果(-10dBm以下のデータを抽出)。θ=50°付近の破線よりもθが小さい角度は大型アンテナの影にあたる。図のHやIの点破線で囲んだ領域内で利得の局所的な低下が複数見られる。

参考文献

  1. 牧 謙一郎,植木 亙,井上 浩三郎,高野 忠, "大型衛星「はるか」における通信回線の劣化に関する特性解析", 電子情報通信学会総合大会,B-2-11 (2001)
  2. 牧 謙一郎,井上 浩三郎,高野 忠, "科学衛星「はるか」の回線劣化に関する特性解析", 電子情報通信学会ソサイエティ大会,B-2-21 (1999)
  3. 牧 謙一郎,井上 浩三郎,高野 忠, "大型衛星の通信における多重波干渉の解析", 第42回宇宙科学技術連合講演会,3E11 (1998)