セミナー

望月理論生物学研究室では、研究に関するセミナーやイベントを積極的に主催、または参加する事で、広く理論生物学の面白さや奥深さを皆様に知っていただく機会を作ろうと考えています。ぜひお気軽にご参加ください。

現在のセミナー

哺乳類の冬眠を可能とする生体状態とは?

 
日時: 2017年11月17日(金)14:00〜
講演者: 山口 良文(東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室)
場所: 理化学研究所 生物科学研究棟 S406
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要 旨
冬眠は、寒冷・飢餓などの過酷な環境を、代謝を抑制し低体温状態で乗り切る生命現象である。ヒトをはじめ、外界温度に依存せず体温を一定に維持する恒温性を獲得した哺乳類の多くは低体温耐性がなく冬眠できないが、クマやリスなど、冬眠可能な哺乳類(冬眠動物)の存在が知られる。近年の研究から、これら冬眠動物も1年中冬眠可能なのではなく、冬の冬眠可能な生体状態と夏の冬眠不能な生体状態とを、春と秋に変換するリモデリングを行うことが示唆されてきた。しかし、冬眠動物の多くは野生動物であり、実験室での飼育や実験系の構築には困難が伴う。そのため、冬眠可能な生体状態やそのリモデリング機構は未だ多くの点が不明のまま残されている。
シリアンハムスターは、遺伝的に比較的均一な動物の入手が可能な冬眠動物である。私たちは数年前から、冬眠可能状態の実現機構の解明を目指し、シリアンハムスターを用いた研究を開始した。現在までに、安定した冬眠誘導系を樹立することで、シリアンハムスターが長期間の短日寒冷刺激に応答して示す生体リモデリングを同定した。これらには、基礎体温と体重セットポイントの変更(Chayama, et al., R.Soc. Open Sci., 2016)、脂質代謝の亢進などが含まれる。現在までに、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析により、肝臓、白色脂肪組織、骨格筋などエネルギー代謝制御に関わる組織で、冬眠可能状態を特徴づける生体変化を明らかにしている。本セミナーではこれらの生体変化について紹介するとともに、その冬眠制御における意義について議論したい。