広報活動

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2016年7月14日

理化学研究所

光合成のメカニズム解明に一歩前進

-酸素発生触媒の反応直前の分子構造を提示-

要旨

理化学研究所(理研)産業連携本部イノベーション推進センター中村特別研究室の中村振一郎特別招聘研究員、畠山允研究員らの国際共同研究チームは、光合成における酸素発生反応の触媒「酸素発生中心」について、酸素が発生する直前の高酸化状態[1]における分子構造を新たに見出しました。

植物や光合成細菌は光合成において、水(H2O)から酸素(O2)を作る酸素発生反応を起こします。この反応の酸素発生中心は、4個のマンガン(Mn)と1個のカルシウム(Ca)からなるMn4Caクラスターからなり触媒としての役割を担っています。酸素発生中心は、電子数の異なる状態(酸化状態)を五つもとり、これによってH2Oから電子(e-)を4個も引き抜く複雑な酸素発生反応を実現しています。この反応のメカニズムを解明するため、Mn4Caクラスターの五つの状態それぞれの解析が国内外で進められています。

今回、国際共同研究チームは、酸素発生の一歩手前の高酸化状態におけるMn4Caクラスターに注目し、各原子が互いに近接した密な構造となることを広域X線吸収微細構造(EXAFS)実験[2]量子化学計算[3]の両面から見出しました。これらは、低酸化状態[1]からMn4Caクラスターに結合していた残基から得られました。H2Oやそこからプロトン(H+)のとれたヒドロキシル基(OH-)はMn4Caクラスターの外縁に位置し、外縁のH2OからO2ができる新しい反応機構が示されました。

本研究は新たな電極設計指針に大きな示唆を与えるため、今後の新たな展開が期待できます。

本研究は、米国の科学雑誌『Chemical Physics Letters』(6月8日号)に掲載されました。

※国際共同研究チーム

理化学研究所 産業連携本部 イノベーション推進センター 中村特別研究室
特別招聘研究員 中村 振一郎(なかむら しんいちろう)
研究員 緒方 浩二 (おがた こうじ)
研究員 畠山 允 (はたけやま まこと)
客員研究員 藤井 克司 (ふじい かつし)

ローレンス・バークレー国立研究所(米国)
Staff Scientist ヴィタル ヤチャンドラ(Vittal K. Yachandra)
Staff Scientist 矢野 淳子 (やの じゅんこ)

背景

植物や光合成細菌は光合成において、水(H2O)から酸素(O2)を作る酸素発生反応を起こします。O2を発生させるには、2個のH2Oから4個の電子(e-)と4個のプロトン(H+)を引き抜く難しい反応(2H2O → O2 + 4e- + 4H+)が必要です。この酸素発生反応は、生体内の色素(クロロフィル)、および4個のマンガン(Mn)と1個のカルシウム(Ca)からなる触媒「酸化反応中心」のMn4Caクラスターによって実現されています(図1)。

具体的には、まず光化学反応[4]によって電子不足となったクロロフィルがMn4Caクラスターから電子を1個与えられます。これを4回繰り返したMn4CaクラスターがH2Oから4個の電子を与えられることで、Mn4Caクラスターが元の酸化状態に戻りつつH2OがO2へと変換されます。すなわち、Mn4Caクラスターは五つの酸化状態S0、S1、S2、S3、S4(添字は電子の欠損数)を遷移します。各状態の解析は国内外で進められていますが、特に電子の欠損数が多い高酸化状態には、構造・電子状態共に不明な点が多く、注目を集めています。

研究手法と成果

国際共同研究チームは、電子欠損数が1個の低酸化状態S1におけるMn4Caクラスターの結晶構造(図2左)から出発し、そこから2個の電子が失われた高酸化状態S3の構造を量子化学計算から探索しました。特に、電気的中性を担う負電荷とMnの配位数[5]について、他のMn化合物も参考に検討しました。その結果、低酸化状態からMn4Caクラスターにもともと結合していた残基によって実現された構造(図2右)を見出しました。

この構造では、クラスター外縁に結合していたH2OがOH-となり、また内部に結合していたオキソ酸素(O2-)がMnとの新しい結合を作ることで、各Mnが架橋された形になります。その結果、Mn間の距離が短くなりました。この特徴は、EXAFS実験で得た距離情報でも見られました。また、密度変化に周囲のタンパク場が追随することでクラスターが安定化することが分かりました。

今後の期待

今回、Mn4Caクラスターの外縁にもともと結合していた水がヒドロキシル基となった構造が見出され、外縁の水が酸素となる新しい反応機構が示唆されました。水の電解では酸素発生側の劣化が課題でした。本研究は新たな電極設計指針に大きな示唆を与えるため、今後の新たな展開が期待できます。

原論文情報

  • M. Hatakeyama, K. Ogata, K. Fujii, V. K. Yachandra, J. Yano, S. Nakamura, "Structural changes in the S3 state of the oxygen evolving complex in photosystem II", Chemical Physics Letters, doi: 10.1016/j.cplett.2016.03.010

発表者

理化学研究所
イノベーション推進センター 中村特別研究室
特別招聘研究員 中村 振一郎 (なかむら しんいちろう)
研究員 畠山 允 (はたけやま まこと)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. 高酸化状態、低酸化状態
    金属を含む分子では、金属(本研究ではMn)の電子欠損数が多いほど高酸化状態となり、電子欠損数が少ないほど低酸化状態となる。
  2. 広域X線吸収微細構造(EXAFS)実験
    注目している原子から他の原子までの距離を、X線を用いて解析する実験。X線によって原子内電子を原子外に放出させ、放出された電子が他の原子に散乱される様子から距離を解析する。EXAFSはExtended X-ray Absorption Fine Structureの略。
  3. 量子化学計算
    分子内電子に関する方程式を計算機を用いて近似的に解き、電子の状態やそれに適した分子構造を解析する手法およびその研究領域
  4. 光化学反応
    物質が光を吸収して起こす化学反応。光合成の酸素発生反応における色素は、吸収した光エネルギーによって自身の電子を活性化させ、その電子をタンパク質表面に控えている別の分子に送り込む。電子を受け取った分子は、糖を合成する反応機構に利用される。
  5. 配位数
    注目している原子に結合している他の原子の数。マンガンは、高酸化状態にあるほど配位数が大きくなる傾向がある。

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Mn4Caクラスターを含む膜タンパク複合体の模式図の画像

図1 Mn4Caクラスターを含む膜タンパク複合体の模式図

膜タンパク複合体は脂質膜に埋まって存在する。入射した光は、まず、色素(クロロフィル)に捕えられる。すると、クロロフィルは励起され、1個の電子(e)が電子受容体(キノン)に送られる。電子不足になったクロロフィルには、Mn4Caクラスターから電子が1個与えられます。これを4回繰り返したMn4Caクラスターが2個の水(H2O)から4個の電子を与えられることで、Mn4Caクラスターが元の酸化状態に戻りつつH2OはO2へと変換される。

Mn4Caクラスターの模式図の画像

図2 Mn4Caクラスターの模式図

左が低酸化状態S1におけるMn4Caクラスターの結晶構造(X線回折構造)、右が量子化学計算から探索した高酸化状態S3の結晶構造。S1では酸化数がⅢ(ピンク)とⅣ(紫)のMnがそれぞれ2個ずつ存在したが、S3では4個のMn全ての酸化数がⅣ(紫)の高酸化状態となった。また、それに伴い、S3ではMn4Caクラスター外縁に結合していたH2OがOH-(共に赤)となり、また内部に結合していたオキソ酸素(O2-、黒)がMnとの新しい結合を作ることで、各Mnが架橋された形になった。その結果、Mn間の距離が短くなった。

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