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2017年10月5日

統一的シミュレーションでものづくりの革新を目指す研究者

自動車の設計では、車体のデザインによって空気から受ける力(空力)や操縦安定性、衝突安全性、強度、振動、剛性、騒音などの性能がどのように変わるのか、別個にシミュレーションがなされている。あるデザインでは、空気抵抗が減って燃費は向上しても、操縦安定性は悪化するといったことが起き得る。

計算科学研究機構 複雑現象統一的解法研究チーム(坪倉 誠チームリーダー)では、さまざまな現象を統一的にシミュレーションして最適な設計を実現するための解析システムの開発を目指しており、西口浩司 特別研究員(以下、研究員)は、車体の強度や振動などの構造解析の研究を担当している。

西口浩司

西口浩司 特別研究員

計算科学研究機構 複雑現象統一的解法研究チーム

1985年、広島県生まれ。博士(工学)。広島県立祇園北高等学校卒業。広島大学大学院工学研究科博士課程後期修了。2010年、日東電工㈱ 研究開発本部 機能設計技術センター。2014年、同社同本部 新規軸探索グループを経て、2016年より現職。

ビルディングキューブメッシュと四面体メッシュの図 図 エンジンブロックに対するビルディングキューブ法のメッシュ(左) と、従来法の四面体メッシュ(右)
ビルディングキューブ法では、構造物が変形しても立方体メッシュは変形せず固定したまま。一方、従来法の四面体メッシュは、構造物の変形に従って変形する。協力:マツダ株式会社

「子どものころ、建設会社に勤めていた父が広島市民球場の改修やダムの工事現場に連れていってくれました」。そう振り返る西口研究員は、やがて建設工学を志望して広島大学工学部へ。「当時の体重は108kg。そんな私を、大食い大会で優勝したこともある岡澤重信先生が、大食いチャレンジの店によく連れていってくださいました。そのような縁もあって私は岡澤先生の研究室に入り、固体や構造物の数値シミュレーションを学び始めました」

修士課程修了後の2010年、総合部材メーカーの日東電工㈱に就職。働きながら博士課程へ進み、学位を取得した。そして2016年、統一的なシミュレーションを目指す複雑現象統一的解法研究チームの一員に。

どのようにして統一的シミュレーションを実現するのか。「従来は、それぞれの現象の解析に都合の良いメッシュで空間を区切って計算が行われてきました。例えば、複雑な形状をした構造物の解析では、構造物に追従して変形する四面体のメッシュで計算する方法が主流です(図右)。一方、流体の解析では、空間に固定された四面体や直方体のメッシュで計算する方法が一般的です。しかし、現象ごとにデータ構造がばらばらではスパコンの性能を十分に引き出せません。そこで私たちのチームでは、ビルディングキューブ法と呼ばれる空間を立方体で区切ったメッシュを使って、さまざまな現象を統一的に計算する方法を研究しています」(図左)

不規則な四面体で空間を区切る従来法は、計算機の性能が低かった時代から使われ、さまざまな構造物の計算で実績を積み重ねてきた。ただし不規則なメッシュに区切るにはノウハウが必要で時間がかかり、またスパコンで効率的に並列計算させることが難しい。一方、ビルディングキューブ法は、規則的な立方体なのでメッシュに区切るのに時間はかからず、データ構造が単純なためスパコンで効率的に並列計算させることができる。複雑な構造物の場合は、従来法に比べて細かなメッシュで区切る必要があり計算量は増えてしまうが、スーパーコンピュータ「京」など計算機の性能が格段に向上した時代に適した計算手法だ。

「チームのこれまでの研究では、自動車の空力シミュレーションをはじめとする流体解析の分野で大きな成果が出ています。一方、私が担当する構造解析の研究は2016年に本格的にスタートしたばかりです。日本の産業界に真に役立つ研究にするため、自動車メーカーを何社も訪問してヒアリングさせていただきました。その結果、実際の道路を走行した状態における自動車の構造解析にニーズがあることが分かりました。そのような構造解析には、莫ばく大だいな計算量が必要となるだけでなく、複合した現象を計算する必要があります。そのため、効率的な並列計算や複合現象の計算に適した私たちの方法で実現することを目指しています」

「私が4歳のころ、彦根城の大きなプラモデルを母にねだったところ、買って一緒につくってくれました。今振り返れば、よく付き合ってくれたなぁと思います。それ以来、ものづくりに没頭する楽しさに目覚めました。今、私には3歳の息子がいます。私も子どもがやりたいことをできるだけ体験させてあげたいと、妻と一緒に悪戦苦闘の休日を過ごしています」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『RIKEN NEWS』2017年10月号より転載

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