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研究最前線 2021年11月15日

抗体の種類と量を30分で測定!新たな検査法を開発

伊藤嘉浩主任研究員らは、指先などから採取した1滴の血液から複数の抗体の有無や量を一度に判定できる新しい検査法を開発しました。判定にかかる時間はわずか30分ほど。2020年、アレルギー疾患の診断用として実用化され、2021年には新型コロナの迅速検査システムの開発にも成功しました。

伊藤 嘉浩主任研究員の写真

伊藤 嘉浩(いとう よしひろ)

開拓研究本部
伊藤ナノ医工学研究室
主任研究員
1959年岐阜県生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程中退。工学博士。京都大学工学部助教授、徳島大学工学部教授などを経て、2004年より理研で研究室を主宰、2018年より現職。

光を使ってさまざまな抗原を固定

伊藤主任研究員らが開発したのは、抗原(アレルゲンやウイルスなど)を基板に固定したマイクロアレイチップを用いて、抗体の種類や量を検査するシステム(図1)。血液などの患者の検体をマイクロアレイチップに載せて検査装置にかけると、わずか30分ほどで結果が出る。検体中に抗体があると発光し、光の強さで量も分かる。

マイクロアレイチップを使った検査の流れの図

図1 マイクロアレイチップを使った検査の流れ

多数の物質を基板に固定し検査を行うマイクロアレイ技術は1990年代に登場した。DNAの断片を固定したDNAマイクロアレイは実用化しており、がんゲノム医療で遺伝子変異を判定する遺伝子パネル検査(がん関連遺伝子の変異を一度に調べる検査)に用いられている。しかし、種類によって形や性質が大きく異なるタンパク質を基板に固定するのはとても難しい。

伊藤主任研究員らは2003年、光に反応する高分子を利用した「何でも固定化法」を開発。光反応性高分子を塗布した基板上に物質を並べ、紫外線を当てると物質が固定されるという仕組みだ(動画)。タンパク質など、さまざまな生体分子のほか、細菌やウイルスも固定できる。

塗布する光反応性高分子には、患者の血液などに含まれるタンパク質が吸着しない特性を持たせてある。このため、ノイズの少ない正確な測定が可能になった。

動画「新型コロナウイルス抗体の種類と量を30分で測定」

伊藤主任研究員ら共同研究チームが開発した「ウイルス・マイクロアレイ検出システム」の仕組みと実際の装置を紹介。(6分01秒)
動画テキストファイル

応用領域の拡大を視野に

「何でも固定化法」を用いた検査は、すでに実用化が進んでいる。2020年、41種類のアレルギーを1回で検査できる自動検査装置と診断用キットが商品化された。これらによる検査・診断には健康保険も適用されており、全国の耳鼻咽喉科や小児科のクリニックなどでの導入が進む。伊藤主任研究員は「今後、抗原の種類や量とぜんそく発症の関係や、がんを含むさまざまな疾患に関連した生体分子と抗体の関連などを調べていくことで、健康状態がさらに詳しく分かるでしょう」と、応用が拡大することに期待をしている。

伊藤主任研究員は「人の役に立つものをつくることが研究の動機」という。「研究者というのは、若い頃は基礎研究を手掛け、キャリアを積むと応用研究に進む人がどうやら多いようです。私も同じ。今は実用化を目標に、エンジニアリング的な思考で研究中です。これからも社会に役立つ成果を目指したい」と今後の抱負を語った。

(取材・構成:中沢真也/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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