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研究最前線 2022年2月7日

グリーン水素の低価格化を非貴金属触媒で実現

太陽光、風力など再生可能なエネルギーから得た電力で水を電気分解(水電解)してつくるグリーン水素。製造時にも使用時にも二酸化炭素(CO2)を出さない「カーボンフリー」なエネルギーとして注目されています。りそなグループの「SDGs推進私募債」を通じて、賛同企業からの寄附金による応援を受けながら、孔爽特別研究員(以下、研究員)はグリーン水素をこれまでより低コストで製造できる触媒の研究を進めています。

孔 爽の写真

孔 爽 (こう そう)

環境資源科学研究センター
生体機能触媒研究チーム
特別研究員
1990年中国生まれ。2017年中国科学院大学理学系研究科物理化学専攻修了。博士(理学)。2018年理研にテクニカルスタッフとして入所、2019年より現職。

水素の低価格化に挑む

石油などの化石燃料を水素で代替する。そんな水素社会を実現するために重要な課題の一つが水素の低価格化だ。グリーン水素の製造に使われる「固体高分子(PEM)型水電解」というシステムの触媒には高価な希少金属、イリジウム(Ir)が使われている。その価格が水素製造コスト全体の25%を占めるという試算もある。

Irに代わる触媒として非貴金属を対象に研究を進めている孔研究員は「高い活性を示す触媒の研究が盛んに行われています。しかし、コスト面だけでなく安定性にも優れた触媒でなければ実用化できません」と指摘する。例えば、比較的安価な金属の一つ、コバルト(Co)は触媒としてIrと同程度の活性を持つが、たった数時間の水電解で腐食し、機能しなくなってしまう。

「価格・活性・安定性」の三拍子そろった触媒

孔研究員らは実用化を視野に入れ、まず、酸性の水電解環境でも腐食しない非貴金属酸化物を探した。すると、二酸化マンガン(MnO2)には、酸性でも1.23V以上の電位では、理論的に溶け出さない領域があると分かった。MnO2(γ型)は乾電池にも使われており、安価だ。

次に、MnO2の最適な結晶構造を探索。γ型MnO2の特徴として2種類の大きさのトンネル状の構造を有する(図1)。2種の組み合わせの比率が変わると触媒性能も変わる。理研の大型放射光施設「SPring-8」で水電解中の触媒構造の変化を追い、触媒としての機能劣化と結晶構造の関係を調べ、安定性の構造支配因子を解明した。

γ-MnO2の結晶構造の図

図1 γ-MnO2の結晶構造(断面図)

1×1トンネル構造と1×2トンネル構造、2種類の隙間構造を持つγ-MnO2

触媒の活性の高さは電流密度の大きさで測ることができる。非貴金属の触媒ではこれまで0.01A/cm2程度の電流密度しか出せなかったが、孔研究員は0.2A/cm2で1,000時間以上の水電解が可能な触媒を合成した(図2)。その成果は、2年半にわたる論文査読を経て科学雑誌『Nature Catalysis』に受理された。

触媒塗布部から酸素が発生する様子の写真

図2 触媒塗布部から酸素が発生する様子。もう一方の電極からはこの2倍量の水素が発生する。©Makoto Oikawa

しかし、実用化に求められるのは1A/cm2以上だ。孔研究員はさらに検討を重ね、MnO2にIrを少量混ぜると飛躍的に性能が向上することを発見。MnO2に微量のIrを混ぜたところ、固体高分子(PEM)型電解槽において1A/cm2で3,000時間以上もの安定稼働が可能になった。この成果を受け、現在、企業との実用化研究も進んでいる。

触媒研究でSDGsに貢献したい

「水電解の研究がとても好き。持続可能な社会づくりに貢献できるから」と目を輝かせる孔研究員は現在、水電解触媒の安定性が何によって決定づけられるのかを突き止めようとしている。そして最後に「水電解で発生する水素は、水電解時にCO2と反応させれば燃料に、窒素(N2)と反応させれば肥料になります。将来的にこれらの触媒も研究したいですね」と抱負を語った。

(取材・構成:大石かおり/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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