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研究最前線 2022年5月23日

有機分子をAIでつくる

「光る分子の構造!」とオーダーしたらAIが分子構造を設計してくれる。欲しい機能を持つ分子を苦労して探していた従来の方法を180度転換し、分子の構造をAIに考えさせる「逆分子設計」に成功したのが隅田真人研究員です。囲碁AIのAlphaGo(アルファ碁)と共通する部分もあるという、この研究の話を聞きました。

隅田 真人の写真

隅田 真人(スミタ・マサト)

革新知能統合研究センター
目的指向基盤技術研究グループ
分子情報科学チーム
研究員

欲しい分子をAIに設計させる

光る分子、磁石になる分子、気体を吸着する分子など、多様な機能を持った分子を人類は見つけ出し活用してきた。その手法は、例えば蛍光を出す分子の場合、光るキノコなどから、どの分子が蛍光を放っているのかを絞り込み、その分子構造を解析する。そして、その分子構造の一部を改変して、より良い蛍光分子を新たに合成する。その後、量子化学などの理論化学でその分子がなぜ蛍光を発するかを考察する。どこかで大きく異なる構造の蛍光分子が発見されると、その分子を足がかりに飛躍的に機能が向上することもある。

隅田研究員は、これとは真逆の手法で分子を設計した(図1)。まず、AIに有機分子データベースにある15万個以上の分子構造を学習させた。次にランダムに分子を設計させ、その分子が蛍光を発するかどうかを量子化学に基づく理論計算で自動シミュレーションする。そして、蛍光分子かどうかをAIにフィードバックし、分子設計に反映させる。このサイクルを繰り返すと、光るはずの分子構造を効率よく設計できる。こうして設計された理論的には光るはずの分子を、実際に実験室で合成して、分子が発する蛍光を測定する。

この手法で、隅田研究員らは6個の分子について、蛍光を発する性質を持つことを確認した。6個のうち1個はこれまでに合成報告のない分子、5個は蛍光を発する性質は知られていなかった分子だ。「実験室での合成を繰り返し、新たな機能性分子を見つけるために何人もの研究者が一生涯をかけることもあります。これまで、量子化学計算は発光などの現象を解析するために使われてきました。しかし、分子設計に使えば人間が思いつかないような新しい機能性分子をコンピュータが設計してくれるのです」。AIによるゼロからの分子設計に量子化学自動計算を取り入れ、分子を実験室で合成して機能を確かめたのは世界でも隅田研究員らだけだ。

逆分子設計の方法の図

図1 逆分子設計の方法

AIが設計した3,643個の分子の中からよく光り、かつ比較的容易に合成できそうな分子を8個選び、実際に合成した。分子をランダムにつくるアルゴリズム「モンテカルロ木探索」は、アルファ碁が人間に思いつかないような次の打ち手を考える際にも使われている。

化学研究を自動化したい

「AIを使った機械学習で機能性分子を探索できると示しました。今回は蛍光分子でしたが、他の機能にも応用できます」と言う隅田研究員。量子化学の知見をコンピュータで扱えるアルゴリズムにした研究を「図や文章で書かれた化学の教科書をコンピュータが理解できるように書き換えた」と表現する。「有機化学など他の教科書も書き換えていきたいです。実験部分にロボットを導入すれば、いずれ化学研究の自動化が実現するはずです。それが究極の目標ですね」と抱負を語る。

(取材・構成:大石かおり/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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