1. Home
  2. 広報活動
  3. クローズアップ科学道
  4. クローズアップ科学道 2023

私の科学道 2023年6月12日

気付いたら量子ビットができていた

1999年、量子コンピュータの演算素子「超伝導量子ビット」の開発に世界で初めて成功。それは蔡 兆申 チームリーダーが、中村 泰信 センター長(量子コンピュータ研究センター)らとともに成し遂げた大きな成果です。量子現象に魅せられ、ジョセフソン接合素子を追究してきた科学道を聞きました。

蔡 兆申の写真

蔡 兆申(ツァイ・ヅァオシェン)

量子コンピュータ研究センター 超伝導量子シミュレーション研究チーム チームリーダー

建築学から物理学へ

台湾で生まれ、父が外交官だったので小学校時代は5年生まで東京で暮らしました。当時は子ども向け科学雑誌を夢中で読んでいました。特に空間や時間についての記事が好きでしたね。高校は再び東京で過ごし、その後、米国のカリフォルニア大学バークレー校に進みました。科学だけでなくアートにも興味があったので、建築家になろうと考えていました。けれども自分が良いと思うものを貫き通せないことに飽き足らなくなり、3年生で専門を選ぶときに、物理学科に進路を変えました。

ジョセフソン接合素子との遭遇

バークレー校では、成績が良いと4年生で研究室に所属できます。レーザーの発明者、チャールズ・タウンズ教授の研究室に入り、ジョセフソン接合素子(以下、ジョセフソン素子)に出会いました。ジョセフソン接合とは、二つの超伝導体の間に絶縁体を挟んだ接合です。研究室では、ある天文台からマイクロ波の受信部に使うジョセフソン素子の製作の依頼を受けていて、それを担当しました。手を動かせて楽しかった。僕は本来、実験屋ですね。

大学院はニューヨーク州立大学ストーニーブルック校に進み、ジョセフソン素子を使って時空の歪みの測定をしました。一般相対論では時空は歪んでいて、重力が強いほど、つまり地面に近いほど時空の歪みは強く、時間の進みは遅くなります。高低差7cmの2個のジョセフソン素子に同一のマイクロ波を当てると、時空の歪みによって波長にズレが生じ、発生する電圧に差ができます。10-20の精度で時空の歪みの測定に成功しました。40年前ですが、今の最先端の時計を使う測定精度と変わりません。

電子1個の制御から量子ビットへ

学位取得後、IBMに応募しましたが、ジョセフソン素子のコンピュータ分野にはもう人は採らないと言われ、成り行きで1983年10月に株式会社日本電気(NEC)に入りました。そこで「次世代コンピュータを考えろ」と言われ、電子を1個ずつ制御できるようにする「単電子素子」の開発にジョセフソン素子で挑んだのです。

金属が超伝導状態になると全電子が対をつくります。各対の制御法を考え、対1個の有無で「0」と「1」を表す単電子素子を開発しました。この単電子素子でいろいろな量子現象を生じさせることができると考え、1と0の状態を重ね合わせて0と1の間を振動させたところ、重ね合わせ状態の生成と読み出しに成功しました。これが「超伝導量子ビット」の誕生でした。

今狙っているものの一つは、素子の配線です。量子コンピュータでは、各量子ビットに時間差でマイクロ波を送るので、多数の配線が必要で3次元になっています。でも従来の平面配線のほうが設計も製作も楽です。そこで3次元と等価な平面配線を追究し提案しています。このあたりに建築学が生きているのかもしれません。建築も趣味として2年に1軒くらいのペースで設計してきました。物理も建築も楽しんでいますね。

(取材・構成:由利 伸子/撮影:古末 拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

この記事の評価を5段階でご回答ください

回答ありがとうございました。

Top