広報活動

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2009年5月18日

独立行政法人 理化学研究所

アレルギー性接触皮膚炎に亜鉛輸送体が関与していることを発見

-香水、金属、ハウスダストなどのアレルギー性接触皮膚炎の治療薬開発に貢献-

ポイント

  • 亜鉛の恒常性維持とアレルギー応答の関係を初めて突き止める
  • 亜鉛輸送体の欠損により、アレルギー性接触皮膚炎が抑制
  • 細胞内亜鉛濃度の制御が、アレルギー性接触皮膚炎の新規治療を生み出すと期待

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、国立大学法人大阪大学(鷲田清一総長)、国立成育医療センター(加藤達夫総長)、国立大学法人東京大学(濱田純一総長)と共同で、細胞の恒常性を維持する必須の微量元素「亜鉛」の濃度などを調節する亜鉛輸送体※1が、アレルギー性接触皮膚炎※2の発症に重要な役割を担っていることを発見しました。これは理研免疫・アレルギー科学総合研究センターサイトカイン制御研究グループの平野俊夫グループディレクター(大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科 医学部長)、西田圭吾上級研究員、国立成育医療センター研究所の斎藤博久研究部長、大保木啓介研究員、国立大学法人東京大学医科学研究所の中江進特任講師らによる共同研究の成果です。

亜鉛は、私たちの生命の維持に重要な役割を担う必須微量元素です。生体では発育、成長、創傷治癒(ちゆ)、免疫能、皮膚代謝、味覚や嗅覚、精子の活動性、中枢神経系の機能などさまざまな機能に関与しており、亜鉛欠乏が成長障害、免疫不全、神経系の異常などを来たすことがすでに報告されています。また、生体内には、亜鉛と結合して機能を獲得する転写因子や酵素、シグナル伝達物質などのタンパク質が300種類以上も存在すると考えられています。亜鉛は、これらのタンパク質に必須な成分で、細胞内では亜鉛輸送体により、亜鉛の恒常性が厳密に維持されています。

研究グループは、22種類ある亜鉛輸送体の1つであるZnt5タンパク質に注目し、その遺伝子欠損マウス※3を調べた結果、アレルギー性接触皮膚炎の発症に重要な役割を担っていることを世界で初めて発見しました。これらの発見から、細胞内の亜鉛濃度を人為的に制御することにより、アレルギー性接触皮膚炎を治療する新規の薬剤開発が期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal of Experimental Medicine』に掲載されるに先立ち、オンライン版(5月18日号)に掲載されます。

背景

亜鉛は、私たち生命の維持に重要な役割を担う必須微量元素です。生体内における亜鉛の恒常性維持は、亜鉛輸送体により厳密に制御されています。亜鉛輸送体は現在22種類見つかっており、細胞質における亜鉛濃度を上昇させる方向性の輸送体として14種類のZIP(ZRT, IRT-like Protein)ファミリータンパク質と、逆に細胞内亜鉛濃度を減少させる方向性の輸送体として8種類のZnt(Zinc transporter)ファミリータンパク質があります。サイトカイン制御研究グループは、亜鉛の持つ機能について研究を進め、免疫細胞である樹状細胞の成熟が、亜鉛輸送体のタンパク質の量の変化により制御されていることを明らかにしました(2006年8月7日プレス発表)。

また、多くの人が一度は経験していると思われる“かぶれ”は、化粧品、香水、制汗剤などの香料、時計、ネックレス、ピアスなどの金属類、ダニやほこりなどのハウスダストなど、皮膚との接触によって引き起こされるアレルギー性接触皮膚炎です。

さらに、この皮膚炎は、動物モデルにおいて免疫細胞であるマスト細胞※4が発症に関与していることが知られるようになってきました。これまで、亜鉛がマスト細胞の活性化に重要であることは明らかになっていましたが、亜鉛輸送体そのもののアレルギー応答における役割は不明でした。

今回、共同研究グループは亜鉛輸送体が、実験的接触性皮膚炎の発症にどのような役割があるのかを解析しました。

研究手法と成果

アレルギー応答に深く関与しているマスト細胞において、亜鉛輸送体の発現レベルを確認した結果、亜鉛輸送体のファミリータンパク質の中で、Znt5が高発現していることを見いだしました。

この、Znt5遺伝子が欠損したマウスを用いて、皮膚に抗原を感作※5させ、その5日後、同様の抗原をマウスの耳に接触して接触性皮膚炎を誘発させました。興味深いことに、Znt5遺伝子欠損マウスは野生型と比較して、著しく耳の腫れが軽減し、アレルギー反応が低下することが判明しました(図1)。すでに接触性皮膚炎による耳の腫れには、マスト細胞から産生される炎症性のサイトカイン※6がかかわっていることが知られています。このため、さらにZnt5遺伝子欠損マウス由来の培養マスト細胞を用いて、抗原刺激依存的なサイトカイン分泌能力を調べたところ、予想通りZnt5遺伝子欠損マウス由来のマスト細胞で、サイトカインの産生が低下していることを確認することができました。

詳細なメカニズムに関して解析を行ったところ、Znt5遺伝子欠損マウス由来のマスト細胞では、サイトカイン産生に必須であるシグナル伝達分子PKC/NF-κBの、シグナル伝達経路が障害されていることが分かりました。特に、プロテインキナーゼC (PKC)※7の活性化に重要な細胞質から細胞膜へのPKCの移行が障害されていました。これらの結果は、亜鉛輸送体Znt5がアレルギー性接触皮膚炎において重要な役割を担っていることを示すとともに、Znt5がサイトカイン産生に重要なPKC/NF-κBシグナル伝達経路を調節する新規の分子である可能性を示すものとなりました(図2)

今後の期待

今回研究グループは、細胞内亜鉛の恒常性維持に機能している亜鉛輸送体がアレルギー性接触皮膚炎の発症に深く関与していることを発見しました。これらの発見により、細胞内亜鉛濃度を人為的に制御することで、アレルギー性接触皮膚炎に対する新規の治療薬開発が可能になる手掛かりを得たと期待できます。

発表者

理化学研究所
免疫・アレルギー科学総合研究センター
サイトカイン制御研究グループ
グループディレクター 平野 俊夫(ひらの としお)
Tel: 045-503-7056 / Fax: 045-503-7054

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. 亜鉛輸送体
    亜鉛を輸送する膜貫通領域を有する膜タンパク質。細胞内の亜鉛濃度を調節する機能を有している。細胞質における亜鉛濃度を上昇させる方向性の輸送体と、逆に細胞内亜鉛濃度を減少させる方向性を持つ輸送体の2種類が報告されている。細胞の種類によって、その発現や局在は異なっている。
  2. アレルギー性接触皮膚炎
    化粧品、香水、制汗剤などの香料、時計、ネックレス、ピアスなどの金属類、ダニやほこりなどのハウスダストなどの原因物質に触れると、皮膚の炎症細胞はアレルギー反応を起こす原因物質に対し抗体を作り、それが記憶されている状態になる。さらに同じ原因物質に触れることで、皮膚内の炎症細胞が働き湿疹を誘発する。症状としては、接触した皮膚に掻痒(そうよう)を伴う発疹が出現する。
  3. 遺伝子欠損マウス
    特定の遺伝子が欠損した遺伝子改変マウス。生体での特定の遺伝子の機能を調べる目的で使用される。
  4. マスト細胞
    肥満細胞とも呼ばれる。血液幹細胞の子孫の一つで、好塩基性の色素で染色される顆粒を細胞質内に多数有する細胞であり、その顆粒内にはヒスタミンやセロトニンといった化学伝達物質が含まれている。また活性化によって、多量のサイトカインも放出する。血液中には観察されず、結合組織や粘膜組織内に存在している。
  5. 感作
    一度侵入してきたアレルギー反応を起こす原因物質を体が記憶し、二度目に侵入してきた時にすぐに攻撃できるようにしておくこと。
  6. サイトカイン
    免疫系、血液系、炎症反応に中心的な役割を果たす可溶性の生理活性物質。さまざまな細胞から分泌され、標的細胞の増殖・分化・細胞死を誘導する。
  7. プロテインキナーゼC (PKC)
    サイトカインなどの生理活性物質の分泌をはじめ、多彩な細胞機能制御にかかわるシグナル伝達分子。

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正常マウスとZnt5欠損マウスの比較

図1 正常マウスとZnt5欠損マウスの比較

Znt5遺伝子欠損マウスではアレルギー性接触皮膚炎の発症が抑制される。正常マウスでは、抗原刺激後24時間をピークとして、耳の腫れ、血管の拡張が観察された。一方、Znt5欠損マウスでは、耳の腫れは正常マウスに比べ低下していた。

マスト細胞でのZnt5を介するサイトカイン産生メカニズム

図2 マスト細胞でのZnt5を介するサイトカイン産生メカニズム

抗原で刺激されたマスト細胞はサイトカインを産生する。PKC/NF-κBシグナル伝達経路は、サイトカイン産生の重要な調節経路である。Znt5はPKC/NF-κBシグナル伝達経路において、PKCの細胞質から細胞膜への移行のプロセスに重要な役割を担っていると考えられる。

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