広報活動

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2009年7月1日

独立行政法人 理化学研究所

エレクトロスプレー・デポジション法で有機EL薄膜パターンを形成

-有機半導体・有機ELディスプレイの新たな製造方法を確立-

ポイント

  • 蒸発速度の異なる2種類の溶媒を混合し、ピンホールなどの問題を解消
  • 薄膜の表面粗さが平均で1nm以下を達成、パターン化も可能
  • 有機半導体の製造手法を画期的に低コスト化できる可能性を提示

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、新しいタイプのエレクトロスプレー・デポジション(ESD)法※1を確立し、有機EL材料※2などの品質低下を招くピンホールなどの問題を解消した、高品質な薄膜パターンを形成することに世界で初めて成功しました。理研知的財産戦略センター加工応用チームの山形豊チームリーダーと東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻の樋口俊郎教授らによる研究成果です。

有機EL材料をはじめとする有機高分子半導体材料※2は、フレキシブル(形を自由に変形可能)で高機能化が容易なだけでなく、フイルムのように大量生産が可能なことから、次世代のディスプレイや有機半導体デバイス、さらには有機太陽電池など幅広い分野への応用が期待されています。しかし、薄膜を形成する手法は、真空や高温を必要とするプロセスが主流で、真空や高温に弱い高分子系の材料にはダメージを与える可能性が高く、また、低コスト化や製造エネルギーの軽減といった材料本来の特長を生かすことができませんでした。ESD法は、常温・大気圧という穏やかな条件で薄膜形成が可能なプロセスで、生体高分子材料や有機高分子材料などにダメージを与えることなく薄膜化・パターン化でき、サンプルの利用効率が極めて高く、微細なパターン形成が可能であるという特長も兼ね備えています。しかし、従来のESD法では、基板にスプレーした溶液の微細な液滴が乾燥する際に、ナノ粒子ができて薄膜を形成するため、薄膜上にピンホールが発生してしまい、良好な電気的特性を得ることを困難にしていました。研究グループは、2種類の蒸発速度の異なる溶媒を適切な割合で混合することで、ピンホールのない優れた品質の薄膜形成を可能にする条件を発見し、この課題を解決しました。新たに開発したESD法で製造した薄膜の表面粗さは、JIS規格の算術平均粗さで1nm(1nmは10-9m)もの平滑さを達成し、スピンコート法※3などの従来の手法を上回る品質を実現しました。

この研究成果は、近い将来の有機ELディスプレイの低コスト化に役立つだけでなく、エネルギーペイバックタイム※4の短い有機太陽電池の効率的な製造など、幅広い分野への波及効果が期待されます。

本研究成果は、ドイツの科学雑誌『Advanced Materials』に掲載されるに先立ち、オンライン版(7月1日付け:日本時間7月1日)に掲載されます。

背景

有機高分子材料は、日本で白川英樹博士が導電性ポリマーの発見と開発で2000年ノーベル化学賞を受賞して以来注目されている新しい半導体材料で、従来のシリコンなどを利用した結晶系の半導体と比べて、製造に必要なエネルギーが小さく、薄くてフレキシブルなデバイスの製造が可能などの特長を持っています。このため、次世代のディスプレイ、太陽電池、電子回路に利用可能な材料として期待されています。しかし、こうした高分子系の材料は、高温や真空で変性してしまうため、従来から薄膜形成などに利用してきた真空蒸着などのプロセスを適用することが困難でした。このため、高温や真空を用いないスピンコート法やインクジェット法※3などが開発されてきていますが、サンプルの利用効率、大面積の薄膜形成、生成速度などの点で必ずしも十分な手法とはいえませんでした。

研究手法

研究グループでは、タンパク質などの生体高分子の薄膜形成手法として、静電気力を活用したESD法(図1)に注目し、改良を進めてきました。従来のESD法は、サンプル溶液を細いキャピラリーに収め、基板との間に高電圧を印加し、電界集中によって発生する極めて微細な液滴をスプレーし、帯電した霧状のサンプル溶液を静電気力により基板上に捕集することで薄膜化する手法です。このESD法を用いると、微細なナノパーティクルやナノファイバーを形成することが可能で、こうした特性がタンパク質チップなどの製造で大きな利点となります。しかし、有機半導体材料の薄膜形成手法としては、ピンホールができやすいという問題があり、実用的な薄膜形成が実現していませんでした。研究グループは、2種類の異なる蒸発速度を持つ溶媒を適切な割合で混合しながらESD法を実施するという独自の手法を開発し、ピンホールの生成を抑え、極めて高品質な薄膜形成を可能とする条件を世界で初めて見いだしました。

研究成果

新たに開発したESD法に基づき、有機半導体材料の1つpoly(2-methoxy-5-(2-ethylhexoxy)-1,4-phenylenevinylene)(MEH-PPV)を用いて、厚さ約120nmの薄膜をITO電極※5上に形成しました。電子顕微鏡などによる表面状態の観察から、薄膜は、溶媒の混合比率やサンプルの濃度によって、パーティクルモードとウエットモードのほかに、それらの間の高品質なフィルムモードをとることが判明しました。パーティクルモードでは、従来のナノパーティクルの集積からなる多孔状の薄膜となり、ウエットモードでは、液体を基板上に塗布して乾燥させた際に発生する不均一な薄膜が形成します。一方、フィルムモードは、この2つのモードの課題を克服し、平滑な薄膜を形成します。今回検証した30種類の条件のうちのいくつかは、算術平均粗さで1nm以下という極めて高品質な薄膜を形成可能であることを見いだしました。さらに、この手法によって100×340μm(1μmは10-6m)の薄膜のドットをITO基板上に形成し、電気的特性や発光特性を測定したところ、スピンコート法で形成した薄膜と同等以上の性能を示すことを確認できました(図2)。これにより、今回開発した新手法は、スプレーすることで広範囲に薄膜を形成することが可能となるとともに、微細なパターンをも効率的に形成できることが分かりました。

今後の期待

ESD法は、有機材料ばかりではなく、さまざまな物質で広範囲に適用が可能な手法です。今後は、より大規模な製造設備への適用を進めると共に、さまざまな有機半導体デバイスの製造手法として基礎的な科学研究から、ものづくりの現場まで適用範囲を広げることを予定しています。

発表者

理化学研究所
知的財産戦略研究センター
VCADシステム研究プログラム 加工応用チーム
チームリーダー 山形 豊(やまがた ゆたか)
Tel: 048-467-9315 / Fax: 048-462-4655

お問い合わせ先

チームリーダー 生越 満(おごし みつる)
Tel: 048-462-5287 / Fax: 048-462-4718

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. エレクトロスプレー・デポジション(ESD)法
    サンプル溶液を細いキャピラリーに収め、基板との間に高電圧を印加することで電界集中により発生する極めて微細な液滴を利用してスプレーし、さらに帯電したサンプルを静電気力により捕集して基板上に薄膜化する手法。タンパク質やDNAなどの固定化によるバイオチップの製造や、合成高分子材料を用いてナノファイバー不織布を作る方法などに応用されている。
  2. 有機EL材料、有機高分子半導体材料
    現在の多くの電子回路に使用されている半導体素子は、シリコンやガリウム・ヒ素などの無機材料の結晶を用いているが、有機高分子材料などで半導体特性が発揮される材料は、製造に必要なエネルギーが低く、フレキシブルな素子を実現できるなどの点から注目されており、有機ELディスプレイや有機電界効果トランジスタ、有機太陽電池などへの応用が期待されている。
  3. スピンコート法、インクジェット法
    スピンコート法は、回転する基板にサンプル溶液を滴下することで、遠心力によりサンプル溶液を塗り広げ薄膜を形成する手法。フォトレジストの塗布などに広く用いられているが、サンプルの利用効率が低いという問題点がある。インクジェット法は、圧電アクチュエータなどによりサンプル溶液を液滴としてノズルから押し出し基板上に付着させる手法で、任意の薄膜パターンを形成可能な手法として工業的にも広く用いられている。ノズルの閉塞や成膜速度の向上が課題とされている。
  4. エネルギーペイバックタイム
    太陽電池などのエネルギー機器を製造するのに必要とされるエネルギーを生産するのに必要な時間。つまり、投入したエネルギーを回収するための時間のことであり、短いほど良いエネルギー機器とされる。現在主流のシリコン多結晶太陽電池のエネルギーペイバックタイムは2年程度と試算されている。
  5. ITO電極
    酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide)の略称。透明な電極として液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどに使用されている。

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エレクトロスプレー・デポジション法(ESD法)の原理

図1 エレクトロスプレー・デポジション法(ESD法)の原理

ESD法により形成された有機EL薄膜とその発光特性

(a)オレンジ色のストライプ部分が、有機EL薄膜を表す。

(b)発光しているドットのCCDカメラによる画像。グラフは、スピンコート法により形成されたサンプルとの比較データ。低電圧領域ではESDサンプル(C-4)の方が高い輝度値を示している。

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