広報活動

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2009年9月28日

独立行政法人 理化学研究所

生命進化の理由の1つは、遺伝物質にDNAを選択した結果と判明

-RNAから始まった原始生命が、進化の過程で「DNA」を選択した謎を解く-

ポイント

  • 相同組み換え反応の中間体で、普遍的なDNAの引き伸ばし構造を発見
  • 引き伸ばし構造は、RNAでは取れず、DNA固有の構造に依存
  • 父母由来のDNAを混ぜ合わせる遺伝的組み換えはDNAだから起こる

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、環境の変化に適応しながら生命が進化した理由の1つに、遺伝的多様性を獲得するための遺伝物質として、RNAではなくDNAを選択した結果であることを明らかにしました。理研基幹研究所生体超分子構造・機能研究協力グループ(柴田武彦グループヘッド)の増田ときは元ジュニアリサーチアソシエイト(JRA※1)、美川務専任研究員らによる成果です。

高等真核生物は、卵や精子などの配偶子を形成する際に、父方由来、母方由来のDNAを混ぜ合わせます(相同組み換え)。生命は、相同組み換えによって遺伝的多様性を獲得し、新たな形質を身につけます。また、外来から侵入してきたDNAを自身に取り込む際や、類似した異なる遺伝子を混ぜ合わせて、新たな遺伝子を創出する際にも相同組み換えが使われます。すなわち、相同組み換えは生命の進化に関与する重要な生命現象の1つだと考えられます。この相同組み換え反応を触媒するタンパク質は1種類ではなく、形も大きさも異なる多くの種類が存在します。今回研究グループは、相同組み換え反応を触媒し、進化的に由来の異なるタンパク質群から4種類を選択、相同組み換え反応機構に普遍性を見いだすことを試みました。その結果、組み換え反応の中間状態において、4種類すべてのタンパク質が、DNAに共通の構造変化を誘起することを見いだしました。さらに、誘起した構造は、RNAなどほかの遺伝物質では誘起することができないものでした。つまり、相同組み換え反応は、DNAの化学構造に依存した反応であることを突き止めました。

インフルエンザウィルスなど、RNAを遺伝子として持つ原始生命は、変化に富む変異※2を頻繁に起こすものの、進化に関与する相同組み換えは起こさず、実際に、高等生物へと進化していません。研究グループは、今回の結果がこれらの事実とも深い関係があると考えています。

本研究成果は「原始生命はRNAから始まったにもかかわらず、なぜ進化した高等真核生命は遺伝子としてDNAを使用しているのか?」という問いに対する1つの解を示唆したと期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Biological Chemistry』(11月号)に掲載されるに先立ち、オンライン版に近日掲載されます。

背景

相同組み換えとは、互いに相同なDNA領域を組み換える反応です。バクテリアでは、RecAというタンパク質が、単独で組み換え反応を触媒することがよく知られています。ヒトで働くRad51もRecAの類似タンパク質です。さらに、進化的な由来が異なる上、アミノ酸配列や立体構造、大きさなどもまったく異なるにもかかわらず、RecAと同様に相同組み換えを触媒するタンパク質(以下、相同組み換えタンパク質)が、これまでに複数報告されてきました。しかし、各種の相同組み換えタンパク質が、それぞれ独自の反応機構で相同組み換え反応を触媒しているのか、あるいは、共通の機構で触媒しているのかは謎でした。そこで研究グループは、異なる相同組み換えタンパク質の触媒反応について、その反応途中の状態(反応中間状態)にあるDNA構造を決定し、それぞれを比較検討して、相同組み換え反応の普遍性や独自性を明らかにすることを試みました。

研究手法と成果

研究グループは、相同組み換えタンパク質の中から、進化的な由来が異なる4種類を選び、反応中間状態を観察しました。具体的には、ヒトのRecA類似タンパク質であるヒトRad51、非RecA型の相同組み換えタンパク質であるRecO、バクテリオファージ※3を起源とする相同組み換えタンパク質であるRecT、ミトコンドリアの相同組み換えタンパク質であるMhr1を選択し、これら4種類のタンパク質に同一の単鎖DNA構造を結合させ、その立体構造をNMR法※4で決定して、RecAに結合した単鎖DNAの構造(Nishinaka et al., PNAS, 1997)と比較しました。

その結果、驚くべきことに、形や大きさ、その立体構造までもがまったく異なるタンパク質に結合したにもかかわらず、それぞれの相同組み換えタンパク質に結合した単鎖DNAは、すべてほぼ同じ構造を形成しました(図1)。さらに詳しく観察すると、相同組み換えタンパク質が結合していないDNAでは、塩基と塩基が重なり合ってそれぞれ運動が規制されているのに対し、タンパク質が結合したDNAは引き伸ばされ、塩基同士が離れるため、各塩基は結合している糖鎖(五員環)の影響を受けながら、回転できる状態になっていました。この状態は、DNAを組み換える際に必要な塩基の回転を説明することができます。さらに、DNAの糖鎖の2位の水素(H)原子(図2左)は、DNA鎖の隣の塩基と相互作用して、引き伸ばされた構造を準安定化させるとともに(図3左)、塩基が回転する軸(図1図3の青い点線)の形成に寄与していることが明らかになりました。こうして、塩基は水平方向に、糖鎖の規制のもと、自由に回転できるようになっていました。多くの異なるタンパク質でDNAが同じ構造で準安定化したことから、この引き伸ばされた構造はDNAそのものが形成しやすい構造であり、DNAの物性に強く依存していることが明らかになりました。

これに対してRNAでは、2位の水素原子が水酸基(OH)になっています(図2右)。水酸基は水素原子と酸素原子が結合しており、水素原子より大きな分子なので、この回転軸を形成しようとすると隣の塩基と衝突し(図3右)、回転軸を形成しません。そのため、塩基の回転はおろかRNAの引き伸ばしすら妨げます。実際に、RNAが引き伸ばされた構造で安定化するか調べたところ、相同組み換えタンパク質と結合しても、引き伸ばされた構造を取ることができないことが分かりました(図4)。DNAとRNAは、糖鎖の2位が水素(H)であるか水酸基(OH)であるかの違いしかありませんが(図2)、このほんのわずかの構造の違いにより、DNAでは相同組み換えが可能になったのです。

今後の期待

化学物質や放射線によるDNAの損傷や、DNA複製時のエラーなどにより生じる変異が、生命の進化に欠かせない事象であることは広く受け入れられています。しかし、変異だけでは進化を説明することはできません。事実、RNAウイルスでは変異は頻繁に起こりますが、高等生物へと進化していません。高等生物へと進化した生物は、DNAを遺伝子として持つ生命だけです。

今回研究グループは、相同組み換えがDNAだけで起きる反応であることを示しました。これとよく一致して、RNAウイルスでは相同組み換えは観察されません。現在のところ、相同組み換えがどれほど生命の進化に寄与する反応であるのかは議論の余地がありますが、進化に欠かせない事象であることは間違いありません。

DNAは二本鎖を形成しやすいという性質から、相補鎖の情報を基にして傷害を修復することができるため、情報の維持能力に優れています。相同組み換えは、情報を固定化しやすいDNAに動的な変化を与える役割を担っており、時には情報を維持し、時には情報を書き換える方向に働きます。すなわち、相同組み換えは、静的であることが必須のDNAに、動的な性質を付与する反応なのです。

研究グループは、既存の情報を維持しつつ、新たな形質を獲得することを可能にする相同組換えこそ、進化と深い関係があると考えています。今後、相同組み換えが、進化とどのような関係にあるのか、相同組み換えタンパク質の機能解析などから、明らかにしていきたいと考えています。

発表者

理化学研究所
基幹研究所 生体超分子構造・機能研究協力グループ
専任研究員 美川 務(みかわ つとむ)
Tel: 045-508-7224 / Fax: 045-508-7364

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報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  1. JRA(Junior Research Associate:ジュニアリサーチアソシエイト)
    研究現場において知識と経験を豊富に蓄積した研究者と、柔軟な発想と活力に富む若手研究者とが一体となって研究を進めるため、大学院博士課程に在籍する若手研究人材を非常勤として理研に採用し、研究活動に参加させる1996年に発足した理研の制度。
  2. 変異
    DNA傷害などが生じた結果、遺伝子をコードするDNAの塩基配列(ATGCなどの並び)の一部が異なる塩基配列に変化したり(ATTC)、塩基が削除されたり(AT*C)、挿入されたり(ATCCG)することを指す。その結果、その遺伝子に書かれている情報が変化し、例えばインフルエンザウィルスなどでは今までの薬剤が効かなくなったりするなど、新たな形質を獲得する場合がある。
  3. バクテリオファージ
    バクテリアに感染するウィルスの総称。遺伝物質はDNAである。
  4. NMR法
    NMRとはnuclear magnetic resonance:核磁気共鳴の略。 生命科学の分野では、X線結晶解析と並ぶ生体高分子の構造決定手段の1つ。多くの場合、水素原子間の距離が近い場合に生じるシグナルを基に水素原子間の距離を決定し、得られた距離情報から分子の構造を決定する。

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さまざまな相同組み換えタンパク質に結合した単鎖DNAの構造(タンパク質は省略)

図1 さまざまな相同組み換えタンパク質に結合した単鎖DNAの構造(タンパク質は省略)

タンパク質が結合すると、DNAは大きく引き伸ばされ、塩基同士が大きく離れる(矢印)。その結果、塩基は糖鎖(五員環)の影響を受けながら回転できる状態になっている。

DNA(左)とRNA(右)

図2 DNA(左)とRNA(右)

DNAでは糖鎖の2位は水素(H)原子だが、RNAでは水酸基(OH)となっている。

相同組み換えタンパク質に結合したDNAとRNAの構造(タンパク質は省略)

図3 相同組み換えタンパク質に結合したDNAとRNAの構造(タンパク質は省略)

左:DNAの場合
水素原子(小さな白い玉)と隣の塩基の間に弱い相互作用があり、引き伸ばされた構造が 安定化している。

右:RNAの場合
大きな水酸基(大きな赤い球)が隣の塩基と衝突するため、DNAのように引き伸ばされた  構造を維持できない。

遺伝物質と進化の関係

図4 遺伝物質と進化の関係

DNAでは相同組み換えが可能であるが、RNAでは相同組み換えができない。

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