広報活動

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2009年12月11日

独立行政法人 理化学研究所

星の大爆発が宇宙に残した超高温火の玉の「化石」を発見

-X線天文衛星「すざく」が明かした新タイプの超新星残骸-

ポイント

  • 4千年前に超新星爆発した星の残骸から1億度を超す巨大火の玉の「化石」を発見
  • 爆発の直後に急激に熱くなる「新しいタイプ」の超新星残骸を世界で初めて特定
  • 火の玉化石の観察は、爆発前の星の大きさ、活動性、爆発メカニズムを知る手がかりに

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人京都大学(松本紘総長)、首都大学東京(原島文雄学長)は、ふたご座のクラゲ星雲(約4,000年前に爆発した超新星の残骸)が、爆発直後には太陽の1万倍以上も熱い巨大な火の玉であった証拠を世界で初めてとらえました。理研基幹研究所牧島宇宙放射線研究室の山口弘悦基礎科学特別研究員と京都大学大学院の小澤碧博士課程学生(日本学術振興会特別研究員)を中心とする研究グループ※1の成果です。

重い星※2が生涯の終わりに起こす大爆発「超新星」は、激しい爆風によって宇宙空間に衝撃波を作り、1万年以上にわたってその痕跡(超新星残骸)を残します。この超新星残骸をX線で観測すると、衝撃波によって100万度から数1,000万度に加熱された高温ガスを確認できます。研究グループは、過去最高の感度を持つ日本のX線天文衛星「すざく」※3を用いたクラゲ星雲の観測で、現在のガス温度(700万度)では作ることができない完全電離ケイ素や硫黄を大量に発見しました。これらの完全電離元素は、超新星が起きた直後の衝撃波によって4,000年も前に生成したもので、超高温の火の玉が宇宙に残した「化石」といえます。通常の超新星残骸では、希薄な宇宙空間の中で、ガスの温度は数百年以上かけてようやく1,000万度ほどに達します。今回、高温ガスの中に「化石」を観測したことから、クラゲ星雲は、爆発後まもなく星を取りまく厚い雲を一気に1億度以上にまで加熱した「新しいタイプ」の超新星残骸であることが明らかとなりました。太陽の表面温度が6,000度なので、新タイプの超新星残骸はその1万倍以上も熱い灼熱の火の玉となります。

本研究は、さらに、爆発前の星の大きさや活動性、ひいては爆発メカニズムを、何千年も経過した後の超新星残骸から解き明かす重要な手がかりを与えました。宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストや極超新星の残骸が見つかる日も近いと期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レター』(705号:11月1日発行)に掲載されました。

背景

重い星は、その生涯を終える際、超新星と呼ばれる大爆発を起こして最期の輝きを放ちます。その時の強烈な爆風は、星間空間に衝撃波を作り、1万年以上にわたって爆発の痕跡を残します。これを超新星残骸といいます。ふたご座の中にあるクラゲ星雲(図1、別名:IC443)は、太陽より10倍以上も重い星が約4,000年も前に爆発した後にできた超新星残骸で、地球からの距離は5,000光年程度と推定されています。「ふたご」の兄・カストルの足元でフワフワと漂うクラゲのような姿をした星雲は、アマチュア天文写真家の間でも高い人気を得ています。

研究手法と成果

超新星残骸をX線で観測すると、衝撃波によって加熱された高温ガスを見ることができます。研究グループは、日本のX線天文衛星「すざく」を用いてクラゲ星雲のX線画像を撮影し、可視光写真に重ねて示しました(図1)。700万度の高温ガスが、クラゲ星雲の中にすっぽり包まれるように分布している状況が確認できました。さらに、研究グループは、「すざく」の優れた感度を最大限に活かし、このガスのX線エネルギースペクトルの測定を行いました。その解析結果から、ほかの超新星残骸には見られない特異なシグナルを発見しました(図2)。具体的には、700万度のガスからの放射に加え、自由-束縛遷移※4と呼ばれる量子力学的プロセスに起因した2つのすべり台状のスペクトル構造を、世界で初めて検出しました。このすべり台状の構造は、原子を構成する電子が1つ残らずはぎ取られ、原子核がむき出しになった状態のケイ素(Si14+)や硫黄(S16+)が大量に存在することを意味します(図3)。このように電子が1つも残っていない原子のことを「完全電離イオン」といいますが、ケイ素や硫黄を完全電離させるためにはガスの温度が700万度では足りず、少なくともその数倍は熱くなければなりません。つまりクラゲ星雲を満たす高温ガスは、はるか過去において現在の何倍も熱かったと考えられ、私たち人類はその痕跡を見ていることになります。

そのような熱いガスはいかにして作られたのでしょうか?超新星残骸は一般に、爆発によってまき散らされた物質や衝撃波がはき集めた星間物質が衝突を繰り返すことで高温になります。ところが宇宙空間は1立方センチメートルあたりに原子1個以下という超高真空状態の環境であるため、物質同士の衝突が非常に起こりにくく、ガスが十分に加熱されるためには数百年から数千年もの長い年月を要します。これまでに見つかっていた超新星残骸はすべて、このような「ゆっくり熱くなるタイプ」のものでした。

一方、爆発前のクラゲ星雲のように特に重い星は、生涯の末期に自身の表層ガスを放出して星のまわりに厚い雲を作ります(図4)。その中心で星が爆発すると、爆風が雲と激しく衝突し合って一気に加熱し、爆発後数年のうちに1億度を超す灼熱の巨大火の玉に成長します。クラゲ星雲は、このように従来とはまったく異なる「急激に熱くなるタイプ」の超新星残骸でした。やがて衝撃波が雲を突き破ると、中の火の玉は、急速な断熱膨張※5によってどんどん冷えて行きます。クラゲ星雲のガス温度も、そのようにして今の700万度まで下がりました(図5)。それでも火の玉時代に作られた完全電離イオンがまるで宇宙の「化石」のように今なお残り、爆発直後の激動の様子を語りかけています。

今後の期待

今回、研究グループが明らかにした超新星残骸の特異性は、星の爆発が周囲を取りまく厚い雲の中で起こった事実に起因します。この雲の存在は、爆発前の星が少なくとも太陽の10倍以上は重く、なおかつ超新星を起こす直前まで自身の表層ガスを放出していたことを意味します。つまり研究グループが発見した超高温火の玉の「化石」は、爆発後の現象にとどまらず、爆発前の星の質量や活動性をも解き明かす重要な手がかりを与えてくれます。太陽より40~50倍以上重い星は、極超新星と呼ばれる通常の10倍のエネルギーを放つ大爆発を起こすと考えられています。宇宙最大の爆発現象として知られるガンマ線バーストも、この極超新星に関連することが有力視されています。しかし、これらの天体現象は、宇宙のはるか彼方で起こるため詳細な観測が難しく、肝心の爆発メカニズムもいまだ解明されていません。私たち人類が住む天の川銀河には、これまでに分かっているだけでも300個近くの超新星残骸が存在します。そのうちどれかは、極超新星やガンマ線バーストを起こしていた可能性が十分に考えられます。今回の研究成果は、そのような大爆発の「化石」を探査する指針ともなります。銀河系内のように詳しい観測が可能な近傍の宇宙から「化石」を発見することができると、爆発メカニズムの解明に大きな役割を果たすと期待できます。

発表者

理化学研究所
基幹研究所 牧島宇宙放射線研究室
基礎科学特別研究員 山口 弘悦(やまぐちひろや)
Tel: 048-467-9337 / Fax: 048-462-4640

お問い合わせ先

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

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補足説明

  1. 研究グループ
    山口弘悦理研基礎科学特別研究員、小澤碧京都大学博士課程学生、小山勝二京都大学名誉教授、政井邦昭首都大学東京教授を主要メンバーとする共同研究グループ。
  2. 重い星
    太陽は 2×1033グラム(2,000億(2×1011)グラムの1,000億(1011)倍の1,000億(1011)倍)もの質量を持つが、それでも恒星の中では平均的な質量で、宇宙にはさらに重い星がたくさん存在する。中でも太陽より10倍以上重い星は、形成されてからおよそ100万年から1,000万年のうちに重力崩壊により大超新星爆発を起こす。爆発後には星の中心核部分が中性子星やブラックホールとして残り、外層部は星間空間にまき散らされる。
  3. X線天文衛星「すざく」
    2005年7月10日に宇宙航空研究開発機構(JAXA)内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた、わが国5番目のX線天文衛星。これまでに、銀河系の中心部の激しい活動、隠されたブラックホールの発見、宇宙線の起源解明など、数多くの成果を挙げてきた。
  4. 自由-束縛遷移
    気体が1万度を超えるような高温になると、原子を構成する電子は原子核の束縛から離れ、ガス中を自由に飛び回ることができる。このようなガスのことを「プラズマ(電離気体)」といい、高速で飛び回る電子は「自由電子」と呼ばれる。ガスの温度が下がると自由電子は原子核に捕獲され再び原子の一部となるが、このとき電子が失うエネルギーに相当する波長のX線が放出される。このプロセスを「自由-束縛遷移」あるいは「放射性再結合」という。
  5. 断熱膨張
    外部と熱のやり取りがない状態で気体が膨張すること。このとき気体は外部に対して仕事を行うので、熱力学第一法則に従って内部エネルギーが減少、すなわち温度が低下する。冷蔵庫が冷える過程においても、この原理が利用されている。超新星残骸の場合は、衝撃波が星間物質をはき集めることが仕事に相当する。

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クラゲ星雲(IC443)の可視光画像(a)と可視光およびX線(RGBカラー)の合成写真(b)

図1 クラゲ星雲(IC443)の可視光画像(a)と可視光およびX線(RGBカラー)の合成写真(b)

クラゲ星雲は、約4,000年前に爆発した超新星の残骸であることが知られ、その直径はおよそ65光年に相当する。なお、右端で明るく輝くのはプロプス(ふたご座イータ星)と呼ばれる赤色の変光星である。可視光画像はDigitized Sky Survey (DSS)のデータを用いて作成。

「すざく」が観測したクラゲ星雲のX線スペクトル

図2 「すざく」が観測したクラゲ星雲のX線スペクトル

(上) X線の強度をエネルギー毎に表示した。青線は、通常の超新星残骸でも見られる約700万度の高温ガスからの放射を示しており、ケイ素(Si)などさまざまな元素の特性X線が確認できる。「すざく」はさらに、赤線で示したすべり台状のスペクトル構造を発見した。

(下) 縦軸は実際のデータから高温ガス(上図青線)の寄与を差し引いた残りを示す。2つのすべり台構造がよりはっきりと確認できる。この構造は、完全電離したケイ素(Si)と硫黄(S)が自由電子を捕獲(自由-束縛遷移)した際に発生する「放射性再結合X線」と呼ばれるもので、超新星残骸から検出されたのは世界で初めてである。この発見によって、通常では考えられないほど多量の完全電離イオン(Si14+、S16+)がガス中に存在することが明らかになった。

ケイ素原子とそのイオンの概念図

図3 ケイ素原子とそのイオンの概念図

私たちの身のまわりにあるケイ素原子では、14個の電子が14個の陽子と14個の中性子からなる原子核の周りを回っているが、ガスの温度が高くなるにつれて電離(周りの電子が少しずつ引きはがされること)が起こり、3,000万度以上になると大部分のケイ素がすべての電子を失い(完全電離)、裸の原子核の状態になる。ガスの温度が700万度程度の場合、ケイ素イオンは電子を2個残した状態にとどまり、完全には電離されない。従ってクラゲ星雲で確認された大量の完全電離イオンは、はるか過去において今より何倍も熱かったガスが残した「化石」ともいえる。なお、硫黄原子の場合は陽子・中性子・電子がそれぞれ16個ずつになる。

重い星が末期に作る厚い雲の例(りゅうこつ座イータ星) (Jon Morse, NASA提供)

図4 重い星が末期に作る厚い雲の例(りゅうこつ座イータ星)(Jon Morse, NASA提供)

星は虫の繭にも似た雲の中心にある。このような環境の下で超新星爆発を起こすと、まき散らされた物質は周囲の雲と激しく衝突して一気に超高温の火の玉が形成される。このとき高温にさらされたケイ素や硫黄はすぐに完全電離する。

爆発直後のクラゲ星雲の想像図(池下章裕氏 作成)

図5 爆発直後のクラゲ星雲の想像図(池下章裕氏 作成)

厚い雲を灼熱の火の玉にした衝撃波が、まさに雲を突き破ろうとしている瞬間。そのとき内部からは強烈なX線やガンマ線が放射されたと推測される。この後、火の玉は急速な膨張によって冷えるが、完全電離イオンは「化石」のように残り、当時の激しさを私たちに伝える。

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