広報活動

Print

2010年2月23日

独立行政法人 理化学研究所

皮膚アレルギーの火消しは、炎症患部から大量移動する制御性T細胞

―光で色が変わるカエデマウスを使って皮膚免疫炎症抑制の新メカニズムを発見―

ポイント

  • 皮膚免疫炎症の部位からリンパ系へ移動する免疫細胞を、カエデマウスで追跡
  • 強い免疫抑制活性を持つ制御性T細胞の移動が皮膚炎症を終息へ導く
  • 末梢組織とリンパ系の間を移動する免疫細胞の機構解明で、皮膚アレルギー疾患克服へ

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、皮膚免疫炎症が終息するためには、炎症部位からリンパ系に移動する制御性T細胞※1が重要であることを発見しました。理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)自己免疫制御研究グループ(金川修身グループディレクター)の戸村道夫上級研究員と京都大学次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点 創薬研究グループの椛島健治リーダーらを中心とする国際共同研究※2の成果です。

皮膚アレルギー疾患の克服は社会的課題ですが、その発症・慢性化のメカニズムの全体像は不明のままです。私たちの体を病原菌から守っている免疫系は、皮膚などの末梢組織とリンパ節などを含むリンパ系の間で、多種の免疫細胞が移動してクロストーク※3することで成立しています。しかし、正常時や皮膚炎症時に、皮膚からリンパ系に移動する免疫細胞の種類や数、タイミング、役割は、今まで評価系が無く、不明のままでした。

研究グループは、紫色の光を照射すると緑から赤に変色する光変換蛍光タンパク質「カエデ」※4をマウスに導入して、「カエデマウス」と名付けた新しい評価系を確立してきました。今回、このカエデマウスを使って、正常時と皮膚炎症時に、皮膚からリンパ系に移動した免疫細胞を追跡した結果、強い免疫抑制活性を持つ活性化した制御性T細胞が皮膚炎症部位からリンパ節に短時間で大量に移動すること、さらに、この移動が皮膚炎症の終息に重要であることを発見しました。

この発見は、制御性T細胞の移動が、皮膚アレルギー疾患の慢性化や免疫応答の質※5を決める要因になるという新しい概念を示しています。今後、カエデマウスを利用した研究をさらに進めていくことで、皮膚免疫炎症の疾患、アレルギー疾患の克服に関する重要な知見だけでなく、免疫細胞が全身をどうやって巡りながら免疫系全体を成立させているのか、というメカニズムを解明することができると期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Clinical Investigation』(3月1日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(2月22日付け:日本時間2月23日)に掲載されます。

背景

皮膚アレルギー疾患の克服は重要な社会的課題ですが、その発症・慢性化のメカニズムの全体像はいまだ不明です。免疫系は、多種の免疫細胞が、皮膚や腸管などの末梢組織とリンパ節などを含むリンパ系の間を行き来して、クロストークすることにより成立していると考えられています。しかし、皮膚からリンパ系に移動する免疫細胞の解析は、皮膚からリンパ節につながっているリンパ管に、ガラス管などを挿入して免疫細胞を回収する必要があるため、大型動物であるヒツジなどでしか行うことができませんでした。さらに、これら大型動物の細胞を詳細に解析するための試薬なども整っていませんでした。そのため、例えば、免疫応答抑制に重要な制御性T細胞は、皮膚とリンパ系の両方に存在していますが、正常時や炎症時にはこの組織間を移動しているのか否か、移動しているとすればどれくらいの数の細胞が移動しているのかなど、制御性T細胞の具体的な挙動は、まったくと言ってよいほど分かっていませんでした。

研究グループは、紫色の光を照射すると緑色から赤色に変色する光変換蛍光タンパク質「カエデ」を導入した「カエデマウス」を開発し(図1)、赤色にマークした目的部位の細胞が、一定時間後、どこへ移動しているかを追跡することで、全身の細胞移動を目で見て把握することができる評価系を確立していました(Tomura et.al. PNAS. 105, 10870-10875(2008))。このカエデマウスを使って、正常時と皮膚炎症時で、皮膚からリンパ系にどの種類の免疫細胞が、いつ、どれくらいの数だけ移動しているのか、さらに、免疫応答制御における移動した免疫細胞の役割解明に挑みました。

研究手法と成果

(1)正常時と皮膚炎症時に皮膚からリンパ系に移動する細胞

皮膚からリンパ系に移動する免疫細胞を追跡するために、カエデマウスの腹部の毛を剃った後、紫色の光を当て、皮膚組織や皮膚に存在している免疫細胞を赤色にマークしました(図2)。24時間後、赤色の免疫細胞が移動した先のリンパ節(所属リンパ節※6)を解析しました。その結果、移動した細胞は、樹状細胞※7とT細胞が約半数ずつ占めていることが分かりました。同時に、このT細胞の内の約5分の1が、制御性T細胞であることを初めて見いだしました。

次に、正常時から皮膚炎症時になると、皮膚炎症部位からリンパ節に移動する細胞の種類の割合がどう変わるのかを調べるために、接触性皮膚炎モデルマウス※8を使って解析しました。その結果、皮膚炎症時では、移動したT細胞のうち、制御性T細胞でないT細胞が約5倍に増えた一方、制御性T細胞は約20倍にまで増加し、移動したT細胞の約半分を制御性T細胞が占めるまでになりました。

(2)接触性皮膚炎の終息に制御性T細胞は必須の役割

この接触性皮膚炎モデルマウスでは、炎症は時間が経過すると自然に収まります。しかし、全身の制御性T細胞を4分の1に減らしたマウスを使って皮膚炎症を起こすと、炎症は時間を経過してもまったく収まりませんでした。この結果から、皮膚炎症の終息には制御性T細胞が必須であることが分かりました(図3)

また、所属リンパ節での反応を模倣した実験系を試験管内で再現して調べたところ、皮膚炎症部位からリンパ節に移動した制御性T細胞は、もともとリンパ節に存在する制御性T細胞に比べ、約10倍の免疫応答抑制活性を示しました。さらに、皮膚炎症部位からリンパ節に移動した制御性T細胞を単離し、直接、マウスの皮膚炎症部位に注射すると炎症を抑制しました。これは、個体レベルの炎症部位でも、制御性T細胞の炎症抑制作用があることを示しています。つまり、皮膚炎症が起こると、皮膚炎症部位の制御性T細胞は強い免疫抑制活性を発揮し、所属リンパ節と炎症が起こっている皮膚の両方で炎症を抑制するといえます。さらに解析を進めた結果、この活性化した制御性T細胞が、強い細胞増殖抑制活性とともに免疫を抑制するタンパク質を作っていること、炎症を起こして2~3日目の間、一過性に皮膚炎症部位からリンパ節へ移動していることが分かりました。

こうして、免疫炎症の終息には、炎症部位からリンパ節に移動する大量の強い免疫抑制活性を持つ制御性T細胞が重要であることを明らかにしました(図4)

今後の期待

今回の結果は、免疫反応を起こしている末梢組織からリンパ系に移動する細胞が、免疫疾患の制御に重要な役割を果たしていることを示しています。また、強い抑制活性を持つ活性化した制御性T細胞は、炎症を起こした後、短時間だけ、皮膚からリンパ節に移動してくることが分かりました。従って、皮膚炎症を制御するには、どのタイミングで、どのような性格を持った細胞が、皮膚からリンパ節に移動するかを知ることが重要であることを示しています。

これまでは、個々の免疫細胞の機能解析を中心に研究が行われていたため、全身レベルでの免疫細胞の時間・空間・数量的な制御という情報に基づいて、免疫応答を考察することが不可能でした。研究グループは、カエデマウスを使って、免疫反応を起こしている末梢組織からリンパ系に移動する細胞の機能と、その時間空間的な制御機構を詳細に調べることによって、皮膚疾患、アレルギー疾患の克服につながる重要な知見が得られると考えています。現在、アレルギーや感染症の克服のために、これらのモデルになるカエデマウスを用いて、皮膚、腸管や粘膜組織からリンパ系に、どのような細胞がどのくらいの数移行して、どんな機能を発揮することで免疫系が身体を守っているのかを明らかにすることを目指し、共同研究を行っています。このように、カエデマウスを使った研究は、最終的には、アレルギー疾患克服のために有用な情報となる新しい概念を提唱するだけでなく、免疫細胞が全身をどう巡りながら免疫系全体を成立させているのか、免疫応答の全体像を解明することが可能になると期待されます。

発表者

理化学研究所
免疫・アレルギー科学総合研究センター
自己免疫制御研究グループ
上級研究員 戸村 道夫(とむら みちお)
Tel: 045-503-9699 / Fax: 045-503-9697

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

このページのトップへ

補足説明

  1. 制御性T細胞
    T細胞は、T細胞受容体と呼ばれるタンパク質を細胞表面に持ち、この受容体を介して異物を特異的に認識して活性化する。ウィルス感染細胞などを殺すキラーT細胞、免疫応答の成立を助けるヘルパーT細胞、さらに、免疫応答を抑制する制御性T細胞に大きく分けられる。制御性T細胞は、リンパ節を含むリンパ組織と、皮膚や腸管などの末梢組織にも存在し、体が正常な状態の時も、自分の組織に対する免疫応答を抑え、免疫恒常性を維持する役割を果たす。
  2. 国際共同研究
    本共同研究は、京都大学医学部(本田 哲也博士、谷崎 英昭博士、大塚 篤大学院生、江川 行平博士、渡邊 武拠点推進室長・名誉教授、宮地 良樹教授)、理研RCAI(堀 昌平ユニットリーダー、金川 修身グループディレクター)、産業医科大学(戸倉 新樹教授)、オックスフォード大学(Herman Waldmann教授)、UCSF(Jason G. Cyster教授)との共同研究による。
  3. クロストーク
    会話をするように、お互いに情報を交換し合うこと。
  4. 光変換蛍光タンパク質 「カエデ」
    細胞に発現させた時は緑色だが、紫色の光を照射すると赤色に変わる蛍光タンパク質のこと。理研脳科学総合研究センター、細胞機能探索技術開発チームの宮脇敦史チームリーダーがヒユ(岩)珊瑚から見いだした。
  5. 免疫応答の質
    免疫応答の質は、感染細胞やがん細胞などを殺すキラーT細胞が中心として働く細胞性免疫と、異物に結合し排除する抗体が中心として働く液性免疫に大きく分けられ、互いに抑制し合っていると考えられている。免疫応答が誘導される環境により、いずれの免疫応答が優位になるかが決定していると考えられている。いろいろな免疫疾患において、いずれのタイプに傾くかにより、病状が回復するのか、あるいは悪化するかなど、実際の病状にもかかわる可能性が考えられている。
  6. 所属リンパ節
    皮膚など末梢組織のある範囲の免疫細胞は、特定のリンパ節(一般的には近くの)に移動する。このリンパ節を所属リンパ節と呼ぶ。あたかも、あるリンパ節に末梢組織の一部が所属しているような意味合いから、所属リンパ節と呼ばれている。
  7. 樹状細胞
    リンパ節や、皮膚や腸管などの末梢組織に存在している。末梢組織に存在する樹状細胞は、正常な時にもリンパ節に移動するが、感染などが末梢組織で起こった時には、その情報を持ってリンパ節へ移動し、T細胞を活性化して免疫応答を開始する重要な役割を果たすと考えられている。
  8. 接触性皮膚炎モデルマウス
    アレルギー性皮膚炎の動物モデルの1つ。アレルギー性皮膚炎は、ピアスなどの金属類や、ダニやほこりなどのハウスダストなどの原因物質に接触することで、生体がこれら原因物質に免疫応答を起こす状態になる。このとき、再度、原因物質に接触すると免疫応答が起こり、皮膚では炎症、腫れ、かゆみが認められる。

このページのトップへ

「カエデ」と「カエデマウス」の図

図1 「カエデ」と「カエデマウス」

A:カエデの色の変化の様子 細胞に発現させた時は緑色だが、紫色の光を照射すると赤色に変わる。

B:カエデマウスを用いた全身の細胞挙動解析評価系 免疫細胞を含む全身のすべての細胞がカエデを発現している。そのままでは緑色(左) だが、紫色の光を照射した下半身では、緑色が薄くなるとともに赤い色が加わって黄色からオレンジ色に見える(数字は紫色の光を照射した時間を示す)。 カエデマウスの目的部位に紫光を照射して細胞をマークし一定時間後に解析することで、マークした部位における細胞の入れ替わりと、全身への細胞移動が追跡できる。

カエデマウスを使った評価実験の図

図2 カエデマウスを使った評価実験

左:皮膚からリンパ系に移動する細胞を追跡するために、カエデマウスの腹部の毛を剃った様子

中:紫色の光を当てる前の様子

右:紫色の光を当て、皮膚組織と皮膚に存在している免疫細胞を赤色にマークした様子

接触性皮膚炎の終息に制御性T細胞は必須の図

図3 接触性皮膚炎の終息に制御性T細胞は必須

接触性皮膚炎を耳に起こした後、炎症の強さを耳の腫れとして検出した。接触性皮膚炎モデルマウスでは、炎症は時間が経過すると収まった(○:コントロール群)。しかし、制御性T細胞を減らしたマウスに皮膚炎を起こすと、皮膚炎は時間を経過してもまったく収まらず、継続した(●:制御性T細胞を減らした群)。

皮膚炎症終息の模式図の画像

図4 皮膚炎症終息の模式図

皮膚の炎症部位から移動する制御性T細胞の中でも、活性化した抑制性T細胞が強い免疫抑制活性を持っている。そして、所属リンパ節と炎症が起こっている皮膚の両方で炎症の抑制に働いている。大量の強い免疫抑制活性を持つ活性化した制御性T細胞の、炎症部位からリンパ節への移動が、免疫炎症の終息に重要である。

このページのトップへ