広報活動

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2012年9月20日

独立行政法人理化学研究所
公益財団法人高輝度光科学研究センター

XFELの時間幅“1000兆分の1秒”の評価手法を開発

―X線自由電子レーザー (XFEL) を用いた超高速現象研究へ貢献―

ポイント

  • エネルギースペクトルの計測からXFELのフェムト秒パルス幅を世界で初めて評価
  • 独自開発した超高分解能のスペクトロメーターを活用
  • フェムト秒・アト秒X線サイエンスを切り開く基盤技術

要旨

理化学研究所(野依良治理事長)と高輝度光科学研究センター(白川哲久理事長)は、X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free Electron Laser)のパルス幅(X線の発光時間)を評価する手法の開発を行い、理研のXFEL施設SACLA※1(さくら)において実証実験に成功しました。これは、理研放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)XFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループビームライン開発チームの犬伏雄一特別研究員、矢橋牧名グループディレクターらの研究チームによる成果です。

XFELは、オングストローム(1Å:100億分の1メートル)レベルの波長とフェムト秒(1フェムト秒は10-15秒、1000兆分の1秒)レベルの短いパルス幅を持つ新しい光です。短パルスのXFELを利用すると、物質の化学反応や吸着反応といった超高速現象の観測などが可能になると期待されています。しかし、肝心のXFEL光のパルス幅を計測する方法はいまだ確立されておらず、 実験データを解析し超高速現象を理解する際に深刻な問題となっていました。

研究チームは、14ミリ電子ボルト※2(meV)という極めて高い分解能で、かつ単一パルスごとに計測可能なスペクトロメーターを開発し、X線のエネルギーごとの強度分布(エネルギースペクトル)からSACLAのパルス幅を評価しました。SACLAの電子ビームの状態を変更しながら計測を行い、独自のXFELシミュレーション「SIMPLEX」による計算結果を組み合わせてパルス幅を評価した結果、4.5~31フェムト秒の範囲でパルス幅が制御されていることが分かりました。これまでにレーザーの源となる電子バンチ(塊)の時間幅は測定されていましたが、電子バンチのどの部分が発光しているか不明でした。今回、XFEL光のパルス幅計測という新たな「目」を開発したことにより、今後、さらに短パルスのアト秒領域(1アト秒は10-18秒、100京分の1秒)のXFEL生成に向けた条件探索も可能になります。また、パルス幅の情報は実験データを正しく解釈するためにも極めて有用です。 このように、 今回開発した手法は、フェムト秒からアト秒のX線光源を開発し、化学反応などの超高速過程の解明といったサイエンスを牽引するための重要な基盤を提供します。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版に近日中に掲載されます。

背景

20世紀後半に誕生したレーザーは、半世紀を経た今なお、科学技術に大きな変革をもたらし続けています。通常のレーザーが発振する波長範囲は赤外線から可視光に限られますが、より短波長であるX線領域のレーザーを発振する手法としてSASE方式(自己増幅自発放射方式)※3が考案され、自由電子レーザーの開発が進められてきました。近年、米国のLinac Coherent Light Source(LCLS)や日本のSPring-8 Angstrom Compact free electron Laser(SACLA)といったX線自由電子レーザー(XFEL)施設が完成し、カメラのフラッシュのように極短時間だけ物質を照らすXFELパルスが利用できるようになりました。このXFELの特徴として、①非常に高い輝度(SPring-8※4が放つX線の10億倍の明るさ)、②波が完全にそろっている(良質な空間コヒーレンス)、③数十フェムト秒以下という超短パルス性が挙げられ、生物試料の構造解析、原子物理やX線非線形光学、化学反応や吸着反応などの超高速現象観測といった研究への貢献が期待されています。特に、超高速現象を精緻に観察するには、パルス幅が短いほど時間分解能が高くなるため、パルス幅が短いことが鍵となります。可視光や赤外線領域のフェムト秒パルス幅評価では、非線形光学効果※5を利用した手法が広く用いられていますが、X線領域での非線形光学効果の研究はXFELの誕生によって始まったばかりであり、X線パルス幅計測に用いるには至っておらず、新たなパルス幅評価手法が求められていました。2012年3月から供用運転を開始したSACLA が発振するパルス幅も、加速した電子の特性から数フェムト秒から数十フェムト秒であると推測していましたが、実測には至っていませんでした。

研究手法と成果

現在のSASE方式で発振するXFELでは、エネルギーごとの強度分布(エネルギースペクトル)は微細なスパイク形状の集まりになります。エネルギースペクトルのスパイク幅とパルス幅は密接な関係があり、スパイク幅を精密に計測することによりパルス幅の知見を得ることができます。研究チームは、このエネルギースペクトルの実測と独自開発のXFELシミュレーション「SIMPLEX」を組み合わせ、パルス幅を導き出す手法を考案しました。

1フェムト秒~100フェムト秒レベルのパルス幅を評価するには、エネルギースペクトルの分解能は10 meV程度、観測範囲は数eV程度を必要とします。また、SASE方式のXFELでは、パルスごとにスペクトルの波形が変化するため、1つ1つのパルスを評価する必要があります。研究チームは、エネルギースペクトルの観測範囲を広げるための楕円ミラーと、高い分解能を得ることができるシリコン分光結晶、そして独自に開発した高感度のX線CCDカメラを組み合わせたスペクトロメーターを構築し(図1)、SACLAのビームラインにおいて、10 keV(波長1.24Å)のXFELを用いて計測を行いました。3種類の異なる運転条件で評価したところ、エネルギースペクトルの平均スパイク幅はそれぞれ110 meV(図2a)、290 meV(図2b)、600 meV(図2c)と計測できました。このときのスペクトルの観測範囲は4eV、分解能は14meVであり、パルス幅の評価に十分な性能を満たしていました。これら計測値と一致するような条件を「SIMPLEX」でシミュレーションすることに成功し(図2d~f)、そのときのパルス幅を導き出した結果、各条件でのパルス幅はそれぞれ31フェムト秒(fs)、8.9fs、4.5fsと分かりました(図3)

今後の期待

今回開発した手法を用いると、XFELのパルス幅を精度良く、パルスごとに評価できるため、化学反応などの超高速過程の解明のようなXFELの短パルス性を生かした科学技術分野へ大きく貢献すると期待できます。また、加速した電子バンチの時間幅とXFELパルス幅の関係を知ることが可能となり、より短パルスのXFEL発振のための条件検討に重要な情報を得ることができました。今後の研究開発によりXFELのパルス幅は将来さらに短くなり、アト秒領域に到達すると予想されます。今回開発した手法はアト秒領域のパルス幅評価にも適用が可能です。例えば、10アト秒程度のパルス幅に対しても、スペクトロメーターの分光結晶を適切に選択することで対応可能です。将来の短パルスXFELのパルス幅評価に有力なツールとして期待できます。

発表者

理化学研究所
放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 ビームライン研究開発グループ ビームライン開発チーム
特別研究員 犬伏 雄一(いぬぶし ゆういち)

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel:048-467-9272 / Fax:048-462-4715
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公益財団法人高輝度光科学研究センター 広報室
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. SACLA
    理研が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある日本初のXFEL施設。利用者支援は高輝度光科学研究センターが行っている。SACLAの名前はSPring-8 Angstrom Compact free electron LAserに由来。XFELとは、X線領域で発振するレーザーのこと。可干渉性を持ち、短いパルス幅、高いピーク輝度を持つ。SACLAは2012年3月に供用運転を開始し、利用実験が始まっている。
  2. 電子ボルト
    光子や電子、原子などが持つエネルギーを表すときに広く利用されるエネルギーの単位。1 V の電位差がある自由空間内で電子 1個が得るエネルギーを 1 電子ボルト(1eV)とする。
  3. SASE方式(自己増幅自発放射方式)
    Self Amplified Spontaneous Emissionの略。短波長のX線では反射率の高い鏡が存在せず共振器を作ることができない。そのため、加速した電子を非常に長いアンジュレータ(磁石列を上下に配置して、その間を通り抜ける電子から明るい光を放射させる装置)に通して、後ろの電子から出る光と前の電子との相互作用によって電子を波長間隔に並べ、コヒーレントなX線を発生させる方式。SASEのスペクトルおよび時間構造は、微細に観測すると細かいスパイク形状の集まりとなる。
  4. SPring-8
    理研が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す施設。その運転管理と利用者支援は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて小惑星探査機「はやぶさ」が取得した粒子の解析などの基礎科学からリチウムイオン電池や製薬などの産業利用までの幅広い研究が行われている。
  5. 非線形光学効果
    光を物質に照射した時に起こる現象は、多くの場合、光の強度に比例してその度合いが変化する。すなわち、光の強度が2倍、3倍になれば対象とする現象の強度も2倍、3倍になる。非線形現象は、このような単純な比例関係の成立しない光学現象の総称で、レーザーのように強い光が物質に入射したときに起こる。例えば、光の強度の2乗に比例する現象では、光の強度が2倍、3倍になれば現象の度合いは4倍、9倍となる。

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円ミラー、シリコン分光結晶、X線CCDカメラを組み合わせたスペクトロメーター

図1 楕円ミラー、シリコン分光結晶、X線CCDカメラを組み合わせたスペクトロメーター

広範囲なエネルギースペクトルの観測範囲を得るには、発散角(ビームの拡がりの角度)が大きなX線ビームが必要である。XFELは非常に指向性が良い(発散角が小さい)ので、楕円ミラーで反射させて発散角を大きくした。このビームをシリコン分光結晶へ入射させると、ブラッグの条件(X線のエネルギーに依存した角度でX線が回折される)を満たすように、X線のエネルギーによって違う角度で回折される。この反射ビームをX線CCDカメラで検出した。このスペクトロメーターでは、観測範囲4 eV、分解能14 meVという、パルス幅の評価に十分な性能を得た。

SACLAが発振したXFELの典型的なエネルギースペクトルとシミュレーション結果

図2 SACLAが発振したXFELの典型的なエネルギースペクトルとシミュレーション結果

XFELのスパイク幅が最も小さい(パルス幅が最も長い)条件では、スペクトルの細かいスパイク構造は完全に分解できており、平均スパイク幅が110meVとなった(a)。SACLAの運転条件を調整してスパイク幅を大きく(パルス幅を短く)すると、波形も変化し、平均スパイク幅290meV(b)と600meV(c)を得た。各条件の実験結果にシミュレーション結果を一致させることにも成功した(d~f)。

さまざまなパルス幅でSACLAが発振したXFELの時間波形の様子

図3 さまざまなパルス幅でSACLAが発振したXFELの時間波形の様子

各条件におけるパルス幅を統計処理して導き出した結果、それぞれ31fs、8.9fs、4.5fsと求められた。

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