広報活動

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2013年7月9日

理化学研究所

胚発生過程と化石記録から解き明かされたカメの甲羅の初期進化

-カメの背中の甲羅は肋骨成分のみから進化してきたことが明らかに-

ポイント

  • カメの背側の甲羅(背甲)は肋骨が拡張・変形してつくられ、皮骨の付加はない
  • 三畳紀爬(は)虫類の一種にもカメと同様の背甲があった
  • 発生学と古生物学の発見が結びつき、初期進化の過程がより鮮明に

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、カメの胚発生過程の組織学的な解析と三畳紀[1]の化石記録の調査を行い、カメの甲羅が他の脊椎動物に見られる皮骨[2]成分を含まず、純粋に肋骨が拡張し変形することで進化してきたことを明らかにしました。これは、理研発生・再生科学総合研究センター(竹市雅俊センター長)形態進化研究グループの倉谷滋グループディレクター、平沢達矢研究員と、新潟大学医歯学総合研究科の長島寛助教ら研究グループによる成果です。

脊椎動物の進化の歴史の中では、アルマジロやワニ、ある種の恐竜など、背中に「骨の装甲」を持つようになった動物が何度も登場してきました。多くの脊椎動物の「骨の装甲」は筋肉の外側につくられる、皮骨と言われる組織です。一方、カメの背側の甲羅である背甲(はいこう)も一種の「骨の装甲」で、カメの筋肉のすべてに対して外側にありますが、これがどのように進化してきたのかについては19世紀から論争の的でした。カメの背甲は体幹の骨(肋骨と背骨)とひと続きとなっていますが、このような構造が皮骨と肋骨が進化の過程で融合して成立したのか、または皮骨成分の関与なしに肋骨が形を変えることだけで成立したのか、いまだに結論が出ていなかったのです。

カメの背甲の初期進化の様式を明らかにするため、研究グループは、カメ(スッポン)胚において背甲の発生過程を詳細に観察し、ニワトリの肋骨やワニの皮骨性装甲の発生過程と比較しました。その結果、カメ胚では、最初に肋骨が形成されたのち、肋骨を取り巻く骨膜が拡張し、その骨膜[3]の内側で板状の骨形成が起こる様子を確認しました。また、ワニの皮骨性装甲は真皮層[4]で形成されますが、カメの背甲に見られる板状の骨形成は真皮層より下層の結合組織内で進行することを示しました。これらのことから、カメの背甲は皮骨の成分を含まず、単に肋骨が拡張して形づくられることを立証しました。さらに、化石標本を研究し、カメと系統的に近縁な三畳紀の海生爬虫類シノサウロスファルギス[5]が、皮骨性装甲とは別に、その下層に肋骨が拡張してつくられたカメ型の背甲を持っていたことを突き止めました。このことから、化石証拠からも、カメ型の背甲には皮骨成分が入っていないことが支持されました。

本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(7月9日付け:日本時間7月9日)に掲載されます。

背景

脊椎動物の歴史の中では、背中に装甲を備えた動物が何度も登場してきました。このうち、アルマジロやワニなどは、皮膚の中にタイル状に敷きつめられた骨片の「骨の装甲」、すなわち皮骨を持っています。皮骨は、筋肉の外側、真皮の中にあり、皮骨の内側では肋骨や筋肉を自由に動かすことができるため、いわば「骨のよろいを着ている」状態です。この「骨の装甲」は化石にも広く見られ、たとえばある種の恐竜(アンキロサウルス類[6]など)もそのような装甲を持っていたことが分かっています。

一方、カメの甲羅は、背側の「背甲(はいこう)」と、腹側の「腹甲(ふくこう)」で構成されており、現在生息しているカメは甲羅の中に頭部や手足を引き込んで身を守ります。背甲は、体幹の骨(肋骨や背骨)と一体型で(図1)、「背甲を脱ぐ」ことはできません。また、他の脊椎動物が持つ肋骨の周りの筋肉も、カメは進化の過程で失っています。このように特異な形態的特徴を持つカメの背甲の進化的起源の謎は、生物進化が認識されるようになった19世紀以降、多くの研究者の興味を惹きつけてきました。

皮骨と異なり、肋骨や四肢骨の発生は、骨が形成される前に、まず軟骨として「型」がつくられることから始まります。一方、カメ胚では、この軟骨の型に沿った骨形成だけでなく、板状に伸びる骨形成も観察されます(図2)。この板状に拡張した骨がやがて肋骨の間のすき間を埋めて、一体型の背甲となります。この板状の骨が進化的に何に由来するのかについては、これまで明らかになっておらず、発生学、古生物学の両面から論争が続いていました。

カメの背甲の由来に関する仮説は、大きく2つに分けられます。1つは「カメの祖先動物は皮骨性装甲を外側に持っており、現在のカメも、体幹の骨に加えてこの皮骨成分を用いて背甲を形成している」という説です。これは、カメの背甲表面の骨組織の微細構造が皮骨性装甲のものと非常に良く似ていることとも、整合性があると見られていました。そしてもう1つは、「カメの背甲は単に肋骨や背骨が変形したものであり、皮骨成分は含まれていない」という説です。

皮骨成分の関与の有無を明らかにし、この論争を解決するには、カメの背甲において板状に拡張する骨形成を組織-細胞レベルで正確に観察することが不可欠です。そこで、研究グループはカメの一種であるスッポンの胚を用いて背甲の発生過程を詳細に観察し、ニワトリの肋骨やワニの皮骨性装甲の発生過程と比較することで、カメの背甲の謎の解明に挑みました。また、形態進化研究グループは2013年4月に、ゲノム情報からカメの系統的位置を明らかにしましたが[]、研究グループはこの現生種間の系統解析結果を土台にして化石記録を照合し、絶滅種も考慮した背甲の初期進化の過程を探りました。

注)プレスリリース:2013年4月29日

研究手法と成果

(1) カメ胚における背甲の発生過程

研究グループは、スッポン胚の組織切片を作製して骨形成過程を詳細に観察し、背甲に見られる板状の骨形成がどの組織内で起こるのかを調べました。その結果、通常皮骨が形成される真皮層の中ではなく、より深層にある結合組織で起こることを確認しました。この板状の骨形成は発生の過程を通して、真皮層と明瞭な境界を保って進行しており、皮骨性装甲とは明らかに異なる由来であることが分かりました。一方、ワニ(アメリカアリゲーター)の背中にある皮骨性装甲は、真皮層の表層、すなわち表皮と真皮の境界領域で生じる細胞の凝集でつくられ、カメの板状の骨をつくる細胞とは異なっていました。さらに、カメの肋骨周辺の組織を詳細に観察すると、軟骨の型を取り巻く骨膜が外側に拡張し、板状の骨形成はその骨膜の内側だけで起こることを見いだしました。このような骨膜の拡張は、ニワトリ胚における肋骨形成でもごく小規模ながら観察されたことから、カメの背甲の板状の骨は単に肋骨が変形したものであることが強く示唆されました。

また、研究グループは「皮骨成分関与説」を支持する根拠の1つである、カメの背甲表面と皮骨性装甲の骨組織の微細構造の類似性についても検証しました。指先の骨(末節骨)の先端は、四肢や体幹の骨の中では例外的に、カメの背甲と同様に筋肉に覆われておらず、真皮の直下にあります。この点に注目し、ニワトリの末節骨の組織を観察したところ、カメの背甲表面と同様の骨組織の微細構造が認められました。このことから、カメの背甲表面と皮骨性装甲だけに共通すると考えられていた骨組織の微細構造は、実は四肢や体幹の骨にも生じるものであり、必ずしも皮骨成分が加わってないことが分かりました。

これらの発生学的アプローチから、カメの背甲は肋骨が表面に露出し板状に変形したものであり、皮骨成分は関与していないと結論付けました。

(2) 三畳紀の化石記録

研究グループは、カメの背甲の初期進化の様子を探るため、中国科学院古脊椎動物・古人類研究所(IVPP、北京)所蔵の中生代爬虫類の化石標本も研究しました。

その中で注目したのは、2011年に新種記載された中期三畳紀(約2億4500万年前)の海生爬虫類であるシノサウロスファルギスの骨格化石です(図3)。シノサウロスファルギスの肋骨は板状になっていましたが、今回、肋骨が背骨とつながる関節の構造を詳細に観察し、生息時の状態を復元した結果、肋骨の可動性はほとんどなく、背骨から側方に張り出して背中を覆っていたことが判明しました。これは、カメの背甲と同じ構造で、他の爬虫類、鳥類、哺乳類の多くに見られる可動性のある関節構造からすると非常に特異な例と言えます。

カメは、現生種の中では主竜類(鳥類とワニを含むグループ)と最も近縁であることが最近の研究から明らかになりましたが、この系統図に化石種を含めた系統解析結果を当てはめると、カメと最も近縁な動物は鰭竜類(きりゅうるい)[7]を含むグループであることが分かりました。シノサウロスファルギスもこのグループに含まれます(図4)。このことから、カメの背甲の発生機構の出自はこれまで考えられていたよりも古く、シノサウロスファルギスとカメとの共通祖先ですでに獲得され始めていた可能性が示唆されました。

また、シノサウロスファルギスの背甲の表面は、この板状の肋骨とは別に、びっしりと皮骨性装甲に覆われていました。これは、背甲と皮骨性装甲は全く別の由来であることを示しています。つまり、化石証拠からも、背甲に皮骨成分は含まれていないということが支持されます。

今後の期待

今回、カメの甲羅は、他の脊椎動物が持つ皮骨性装甲とは異なり、進化の過程で肋骨が劇的に形を変えることで獲得されたことを示しました。ヒトを含む多くの脊椎動物の肋骨は筋肉に覆われていますが、カメの肋骨は進化の過程で表面に露出し、拡張して、背甲を形成するようになったと考えられます。脊椎動物の歴史の中で、体の表面にあった骨がより内側に位置するように進化した例[8]はこれまでにも知られていましたが、カメの背甲の進化はその逆も起こりうることを示しています。

では、「なぜ、カメの肋骨は背中側にだけ広がり、それを覆う筋肉は形成されないのか」、この進化過程の解明はこれからの課題です。この課題を解決するには、発生学的研究だけでなく、今回注目したような化石種との比較も重要な知見をもたらすと考えられます。現在生息している脊椎動物は、これまで地球上に誕生してきた脊椎動物の総数のわずか1%にすぎず、残りの99%は絶滅種であるとも言われますが、シノサウロスファルギスに背甲が発見されたように、化石記録から「進化の中間段階」の系列が認められる可能性は大いにあります。また、化石記録をひも解くことで、カメの甲羅が完成するまでに祖先動物の生態がどのように変化していったのかについても、理解が進むと期待できます。私たちの体も進化の産物に他なりませんが、カメの体に見られるような劇的な変化をともなった進化は、進化の中で体の構造がどのようなルールのもとに変化するものなのかについて、多くのことを教えてくれるでしょう。

原論文情報

  • Tatsuya Hirasawa, Hiroshi Nagashima, Shigeru Kuratani. "The endoskeletal origin of the turtle carapace". Nature Communications, 2013, doi: 10.1038/ncomms3107

発表者

理化学研究所
発生・再生科学総合研究センター 形態進化研究グループ
グループディレクター 倉谷 滋 (くらたに しげる)
研究員 平沢 達矢 (ひらさわ たつや)

お問い合わせ先

発生・再生科学総合研究センター 広報国際化室
泉 奈都子(いずみ なつこ)
Tel: 078-306-3310 / Fax: 078-306-3090

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. 三畳紀
    中生代(三畳紀、ジュラ紀、白亜紀)の最初の地質時代区分。約2億5千万年前から2億年前。その前の時代の古生代ペルム紀末には、生物の大量絶滅が起こり約80~96%の海生種、約70%の陸生種が絶滅、生態系は劇的に変化した。前期~中期三畳紀にかけてはこの壊滅的な打撃から生態系が回復していった時期に当たる。三畳紀には、十脚目(エビ目)や海生爬虫類や恐竜などの新しいグループの動物が出現、やがて生態系の中心を占めるようになった。
  2. 皮骨
    脊椎動物の骨格には2つの進化系列の骨がある。1つは「皮骨骨格(外骨格)」で、祖先動物(魚の段階)では鱗を構成していた骨から進化的に由来した骨がここに含まれる。たとえば、私たちの頭骨のうち、外側から見える大部分の骨が皮骨である。いくつかの動物では、頚より後方にも皮骨性の「骨の装甲」を持っている。
    もう1つは「内骨格」で、体幹や四肢の骨が含まれる。
  3. 骨膜
    骨の周りを覆う膜(細胞の層)で、ここから分化する骨芽細胞の働きによって骨が形成される。
  4. 真皮層
    皮膚のうち、表皮の深層にある層で、主に線維性結合組織で構成される。
  5. シノサウロスファルギス
    中期三畳紀アニシアン期(2億4700万年~4100万年前)に生息していた海生爬虫類。中国雲南省で発掘された化石骨格をもとに2011年に新種記載された。
  6. アンキロサウルス類
    植物食性の恐竜の1グループで白亜紀に栄えた。背中に皮骨性装甲を持っていたことで知られている。近縁なグループであるノドサウルス類も皮骨性装甲を持っていた。
  7. 鰭竜類
    中生代に栄えた海生爬虫類のグループで、クビナガリュウなどが含まれる。白亜紀末に絶滅した。
  8. 体の表面にあった骨がより内側に位置するように進化した例
    脊椎動物進化の中では、祖先動物では体の表層に位置していた皮骨性の骨が、子孫の動物ではより内側に位置するようになり表面の一部を筋肉に覆われるようになった例が知られている。たとえば、哺乳類の下あごを構成する骨(下顎骨)や、鎖骨も皮骨性であるが、外側に筋肉の付着部位を持つ。

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パリ自然史博物館に展示されているカメ(左)とアルマジロ(右)の骨格標本

図1 パリ自然史博物館に展示されているカメ(左)とアルマジロ(右)の骨格標本

カメ:背甲は背骨・肋骨と一続きとなっており、肋骨を覆う筋肉はない。
アルマジロ:哺乳類異節類に分類される動物で、背中によろいを持つ。このよろいは、センザンコウ(有鱗目の一種で、背中に体毛が変化した角質性のうろこをもつ)などと異なり、内側に骨片を含む「骨の装甲」で、皮骨と呼ばれる。同じ異節類に分類される絶滅哺乳類グリプトドンはさらに発達した「骨の装甲」を持っており、見た目はカメの甲羅によく似た一体型のドーム状のよろいを形成していた。

スッポン胚における背甲の発生とニワトリ胚における肋骨の発生の比較

図2 スッポン胚における背甲の発生とニワトリ胚における肋骨の発生の比較

スッポン胚では、肋骨の周りを覆う骨膜が皮下結合組織の中で拡がり(上図)、拡がった骨膜の内側で骨梁が成長し(下図)、肋骨と肋骨の間の隙間を骨梁が埋め、一体型の背甲となる。骨膜の拡張とその内側における骨梁の形成は、ニワトリ胚の肋骨でも観察された。

中国科学院古脊椎動物・古人類研究所所蔵のシノサウロスファルギス標本

図3 中国科学院古脊椎動物・古人類研究所所蔵のシノサウロスファルギス標本

化石標本の実物(左)とスケッチ(中)および皮骨性装甲の拡大図(右)。この標本では上半身だけが保存されている。

化石種も含めた爬虫類の系統図

図4 化石種も含めた爬虫類の系統図

カメは、現生種の中では主竜類(鳥類とワニを含むグループ)と最も近縁である。一方、化石種を含めた系統解析によると、カメと最も近縁な動物は鰭竜類(きりゅうるい)を含むグループである(緑色点線の囲み内)。

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